第483話、飛んでしゃべってピカピカしていない頃の12番目の君
はてさて、美弥たちの楽屋はどこだったか……ではなく。
知己たちがナオを探し求めていると。
基本、張り詰めピリピリしていてそれでいて忙しなく騒がしいはずの、本来の意味での舞台裏で。
ちょっとした騒ぎが起こっていることに気づかされる。
「……ん? あれはお、恭子さんじゃないか。一人みたいだけど、どうしたんだろう?」
「何だか絡まれてる? みたいでやんすね。ちょっと、行ってみるでやんすよ」
スポットライトを浴びて無数の視線の前に立つ人々であるからして、絡まれている方も大概、女神さまか聖母さまかと拝みたくなる美人さんだが。
対する絡んでいる方も、舞台に立つに相応しいと言える、ダンディなイケメンと、アイドルのごとき美少年兄弟である。
というか、絡まれている方も絡んでいる方もしっかりきっかり顔見知りで。
一体何を揉めているのかと、間に割って入る勢いで躊躇なく、そこへ飛び込んでいく知己。
「どした? 勇のやつはともかくとして、王神さんや哲まで」
「……む。あ、ああ。音茂さんか。いや、ここではない裏側へちょっと用があってね。少しばかりお邪魔しようかと思っていたんだが、このお嬢さんが通してくれなくてね」
「可愛くて素敵なお嬢さんだなんてー。褒めてもここから先は通れませんよぉ」
「い、いや。そこまでは言ってないが……って、音茂さん。何とかしてくれ」
王神公康が、現実と異世の狭間に結界のようなものが生まれたのを知ったのは。
正にその結界が生み出されたであろう、すぐのことであった。
こう見えて……けっして顔には出ないが、できたてほやほやのかわいい彼女が心配で紐をつけていたのだ。
(本人がそれを知ったら、引かれるだろうと本人には内緒だが)
それが、目前のお嬢さん、潤賀恭子が生み出したであろう、結界のごとき能力に巻き込まれる形で分断されてしまった。
こう言う事が少なからずあるだろうというのは想定していたことではあって。
ちょうど出番も終わったことだし、友人の付き合いで裏側の世界にいるという愛すべき彼女の元へ向かおうとしたのだが。
何故かどこを通っても、この『ドリーム・ランド』から出ることはできなくて。
(というよりも、どこかしこも恭子のものらしい結界が覆っていて)
ならば仕方ない、と。
直接本人に話を付けに来たら、何故か「ここから先は通れませんわ」の一点張りで。
同じく異世に用があると言う赤髪のよく似た兄弟がその輪に参戦するも、恭子は柔らかな笑みを湛えたまま、てこでも動くことはなく。
女性の、しかも新進気鋭のスターに対して強く当たる訳にもいかず、いやはやどうしたものかとほとほと困り果てていたところでの、知己たちの登場である。
ここは、何とか説得して欲しいと。
早速とばかりに助力を請わんとするも、割って入るようにしていた知己は、いつの間にか正反対のようでいて似た者同士な兄弟とじゃれあって? いて。
「ボクはともかくって、どう言う意味だよっ!」
「ダメだぞ、勇。恭子さんに対して『ボクの母になってくれる人だ』なんて言っちゃぁ。恭子さんはみんなのお母さんなんだからな」
「え? そうだったの、兄さん。うわ、正直引くわ」
「なななぁっ!? そんなこと、一言も言ってないわぁ!」
まったく、しょうがないでやんすねぇと。
かわりに話を伺うことにしたのは、法久その人であった。
「あれでやんすか、恭子さん。裏の舞台でついには各々の派閥の長が、しのぎ削り合っちゃってるのでやんすか?」
ひとたび各派閥の長がぶつかり合おうものんら、下手すればその余波で現実の世界にも影響を及ぼすのかもしれない。
故に恭子はこうして、お互いの世界の楔となっている。
根本的な理由は違えど、法久の言葉は確かに的を射ていて。
(そう、なのね。あなたはまだ、この時点では何も知らない……)
そんな今の、無垢なままの法久が、最初の法久が。
もうらしくて、やりきれない。
これから永劫続くこととなる自分を知らない法久は、とても貴重で得がたい存在に映ったが。
恭子はそれをおくびにも出さなかったからか。
だったら大変じゃないかと。
そんなろくでもないことに『彼女』が巻き込まれたから叶わないと。
今まで考えないようにしていた、恭子の許可を得ずに結界を破壊する方法を王神が模索しかけた時。
「向こうにいる人たちが向こうにいること選んだのならば、私は尊重するべきたと思ってるの。大丈夫。向こうには『R・Y』の頼れるお兄さん、紅粉圭太さんがいるから。彼ならば何があってもみなさんの大切な人を守ってくれるから」
「え? そうなのでやんすか? ここ最近顔を見ないなぁって思ってたら、圭太くんそんなことしてたのでやんすか。まぁ、圭太くんがいるのなら安心でやんすね。あ、いや。ある意味じゃあ安心できないかも、でやんす。なにせ圭太くんは、血筋から天然の人たらしでやんすからねぇ。圭太くんのかっこよさに、助けられた子は惚れちゃうかも、でやんすね」
「な、何だと!? まずいじゃないかっ」
「……」
法久は、圭太に対しての信頼と。
半ば冗談のつもりでそんな事を口にしたのだろうが。
彼は彼で、多くの人を惹き付けるカリスマのような力を持っているのは確かだろう。
恭子は、けっして未来を見据えたりすることなどできないが。
能力により、様々な『はざま』に触れていると、時々その向こう側が見えてくるのだ。
法久に永劫続くかもしれない呪縛があるように。
圭太にも、多くの闇の太陽に染まりし同士を引き連れ蠢く残滓が見えていたのは確かで。
知己と、そして最後の一人となるナオはどうなのかと。
何か見えるものがあるのかと思ったからなのか。
狭い場所でわちゃわちゃしている一同の元へと。
当の本人、ナオが血相を変えてやってくるのが見えて……。
(第484話につづく)
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