第478話、決まりきっている終わりへ向かって、だけどお話は続くって信じている



「……まゆちゃんがいるところ、分かったよ。いま、表舞台ではライブが行われているところ、この異世の最下層にいると思うの」


あるいは自分と同じように。

災厄に憑かれしものに縛られ、執着し、運命づけられている彼女ならば。

きっとまっすぐそこへ向かっていることだろう。

麻理は、助けていただいてありがとーと口に出して立ち上がり、その場所を指し示す。



「なるほど。こりゃすげぇ。まだけっこう離れてるはずなのにビンビン来るぜ。燃えてきたぁっ」

「一番下、かぁ。私でも分かるくらいに嫌な感じなんですけど」

「うぅ。帰りたい。だけど、そこにいるのかもしれないし」


どうやら、心を感じ取らなくてもそのあからさまな気配にみんな気づいているようで。



「そっちって舞台のあるところだよね。あ、でもおもてとうらじゃあちがうのか。こっちには何があるんだろう。おんなじ舞台があるのなら、はやくまゆちゃんとまこちゃんみつけてそこでばとるしようか!」

「そりゃあいい。んじゃ早速向かうとするかっ……あ、ルイっつったっけ。君はどうする? 例の幼馴染のキョウダイ、ついでに探しておいてやろうか?」


恐らくきっと、才能どころか命まで奪われかねない危険がそこにあるはずで。

正咲も幸永もだからこそな、そんなやりとり。

それでも、偽悪的なのが基本でありながら結局悪ぶれない幸永は、無理に危険な所に行く必要はないと。

塁に戻ってもらうことを提案したわけだが。



「そう言ったってここからどうやって現実世界へ戻るのよ」

「あー。確か異世の終わりまで行って、その終わりにある現実世界との境界を壊せばいいんだっけか? しっかし、うん。確かにひとりじゃああれだな。怜亜っち、ルイちゃんに付き合ってやれよ」

「えぇ。あー、まぁ。ダーリンがこっちにいないのならそれもありだけど。……なんて言うと思った? 分かってるんだからね。ゆきの字がそうやって私たちを危険から遠ざけようとしてるってことくらいは」



塁としては、それでもよかったわけだが。

怜亜はすぐに、危なっかしくて男勝りだけど中身はどうあがいても悪い子にはなれない幸永の、親友に対する気遣いに気づいて。

ここまできたらさいごまで付き合うことを決めてしまったようで。


そんな怜亜に対し、どうなっても知らねーぞちくしょうめ、と。

親友の想いに照れている幸永がそこにいて。


二人のやりとりを見ていた麻理は、今すぐに駆け出していってしまいそうな正咲の腕にひっしと抱きつきつつ。

それならちょうどいいよとばかりに口を開く。



「知己さんくらいの能力者なら、異世の壁をやぶって抜け出す、なんて手段もとれると思うけど……これから向かう先に、わたしたちのせんせが、うずせんせがいるから、異世から出る扉、つくってくれると思うよ」

「うず先生? 知己さん……それってもしかして、『ネセサリー』の? あなたたちってもしかしなくても最近噂になってる『ネセサリー』の弟子っていうか、妹分だったりするの?」

「そうだよ~。おそわってるのはうーちゃんせんせーで、ともみさんたちにはこれから会うよていだったんだけど。このたびデビューがきまったんだぁ」

「まぁでも、それは表舞台に出られなそうだから、立ち消えちゃったかもだけどねぇ」

「すごい。『ネセサリー』ってあの有名なバンドですよね。私でも知ってるよ」

「ほほぅ。道理で妙ちくりんな自信があるわけだ。ますます楽しみになってきたじゃぁないか」



『ネセサリー』と知り合い、と言うだけでも凄いのに。

師事までされているだなんて羨ましいと。

塁も幸永も感心した様子で。

少しばかり話が逸れてしまったが。

若手の前線を走っている世代では、歴代最強と名高い知己、『ネセサリー』のバンドメンバーである宇津木ナオがこちらに来ていると言うのならば話は早いと。


改めて、この場限りな一同は。

再びこの異世『ドリーム・ランド』の裏側の世界とも言える、その最下層へと向かうことにして……。



            (第479話につづく)






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