第六十二章、『Blue Sky-Infect Paranoia~あたしのすべて~Die for you~』
第477話、透き通るほどに真っ直ぐで、眩しくて綺麗で苦しくなる
「みなさん、だいじょぶでしたかっ。黒いファミリアさんたちは、うちのまりちゃんがなんとかしてくれたよっ」
「……あ、そうなの。おかげで助かったわ。際限なくどんどん集まってきちゃってて、いい加減辟易してたところなのよ」
なぜか自慢げに胸を逸らす正咲に、見た目と中身のギャップの激しい少女、幸永は気が抜けたらしく大きなため息を一つ吐いて。
座り込んだままのボーイッシュな少女に手を貸していて。
誰にでもすぐ懐く、ふところに入ろうとしてくる正咲の相手は、ダーリン命な彼女、怜亜がすることとなって。
「みんなは、どうしてここに? ボクたちは大事なともだちを、バンドメンバーをさがしてるんだけど。まこちゃんとまゆちゃん……じゃあわかんないか、えと。そうだ、ちっちゃくてかわいい天使さまのはねをしょってる女の子、みなかった?」
「あ、うん。私たちも人を探してここへ留まったのだけど、天使な娘はまだ見てないわね。ちょうどほら、そこの彼女がひとりでいたから、合流したところなの」
そう言って怜亜が指し示すのは。
幸永にワイルドに引き上げられた、少年っぽい少女。
彼女は、すぐに皆の注目が自分に集まっていることに気づき、ペコペコと頭を下げて、幸永にお礼を言いつつも。
何だか警戒心の強い小動物ような動きで正咲たちの方へと近づいて来る。
「あ、あのう。助けていただいてありがとうございます」
大矢塁と名乗った少女は、正咲たちや怜亜たちと同じくして、幼馴染の兄弟を探しにこの異世へと迷い込んだらしい。
なんでも、『天下一歌うたい決定戦』に出場すると聞いていたのに、出番が近づいても現れる様子がなかったから。
探し回っているうちにどこをどう向かったのか、この異世に迷い込んでしまったようで。
「方向音痴かよ。どうしてそれで表舞台から裏側……異世に迷い込んじゃうのさ。たぶんだけど、表舞台の出場者は、ここにはいないんじゃないかな。きっと怜亜っちのカレシもな」
「えぇっ!? そうなの? 早くそれを言いなさいよぉ。ゆきの字が暴走するからこんなところまで来ちゃったじゃないのっ」
「別について来なくてもよかったんだぜ。言ってなかったけど、あっちじゃつまらん……手応えが無さそうだからオレ、こっちに来ただけだし」
「そうやって、いつもそう! 危ないことばっか顔突っこんで! 心配するこっちの身にもなりなさいよっ!」
「はっ。自分の身は自分で守れるっての。心配してくれなくてけっこう」
「なにおうっ!」
かと思ったら、ギャップの激しい幸永は、珠玉の音楽そっちのけで。
一言で言えば『オレより強い奴に会いに』きたらしい。
そんな、裏腹で無鉄砲な彼女を、怜亜が心配して追いかけてきてしまうのも当然のことなのかもしれない。
おかげで、そんな言い合いになってしまって。
止めたいけど止められずに塁がおろおろしているのが見てとれて。
「なに? こうみんっておひめさまみたいにかわいいのにつよいの? 歌、うまいの? だったらボクとやろうよ」
「あ? お姫様ってなンだよ。喧嘩売ってんのか?」
「歌合戦なら、ね。たいくつはさせないよ」
相変わらずそう言う正咲の口調は舌足らずで子供っぽいのに、どこかえも言われぬ凄みがあって。
あるいは、幸永と同じように戦い謳い競い合い、高め合うことが大好きなのだとよくよく分からされて。
「上等じゃねぇか。よっぽど自信があると見える。……なら、さっさとこんな辛気臭ぇところから戻るぞ。その、天使なかわい子ちゃん、オレが見つけてやっから」
「そんなこと言って何だかんだいってお人好しなのはいいけど、あてはあるの?」
「そんなものはねぇ! 向かって来る敵をぶちのめし、突き進むのみ!」
「いいね! そうゆうのボク、きらいじゃないよ!」
「適当のようで、理は適ってるのかしら」
「あわわ。……ど、どうしてこんなことに」
目的の相手、まゆが一人抜け出してまで追い求めたのは、『災厄』をその身に秘めているのかもしれない少女で。
逆転の発想で、この異世で一番大きな心を持つものの元へ向かえばまゆに会えるはず。
すっかり仲良くなった皆のやりとりを聞いているうちに、麻理は心を読み取る対象を変えればいい事に気づいて。
このまま流されるままに行くと、正咲と幸永でどこまでもあてもなく突っ走ってしまいそうだったので。
麻理は早速とばかりに【観世悟心】、人の心を読み取る能力を……『災厄』に憑かれしものに向けて発動して。
「……っ!? きゃぅっ」
目の前がまっくらになるとは、正にこのことか。
麻理が『災厄』に憑かれしものが誰であるのか分かっていて、遠目から見る限りではいつもと変わらないように見えていたから油断していた、というのもあったが。
それは、人ひとりの器では到底抱えきれない容量を持っていて。
その深淵に軽く触れたに過ぎないのに、みるみるうちに麻理自身の心を侵食し、塗りつぶされるような感覚をおぼえて。
抱えきれなくなった麻理は、小さな悲鳴を上げて意識を飛ばし倒れかけたが。
「まりちゃん! ど、どうしたのっ?」
「……あっ。ご、ごめんなさい。ありがと。受け止めてくれて。正咲ちゃんこそ、だいじょぶ?」
麻理を咄嗟に抱きしめるように受け止め支えてくれたのは、いつの間にそこにいたのか、眉を寄せて心配そうにしている正咲であった。
触れる身体が、じんわり温かくてやさしくて。
闇そのものである心に飲まれかけるその寸前で拾い上げ、掬い上げられた感覚。
「もしかして、あれでしょ。まこっちゃんがだめっていってたのに、またひつよう以上に人のこころの奥底にはいっちゃったんじゃないの?」
「ふふ。正咲ちゃんには叶わないなぁ」
だめでしょうとぷんすか怒る仕草をする正咲は、先程幸永と相対していた時と違って、全く怖くなかった。
彼女の笑顔をひまわりのよう、と表現したのは誰だったか。
それは、何だかとても言い得て妙で。
あの、終わりの見えない……到底一人では抱えられるはずもない闇を払うことができるのはもしかして彼女なんじゃないかって。
どこか確信を持ってしまっている麻理がそこにいて……。
(第478話につづく)
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