第476話、華美で煌びやかな演出じゃない物語でも、主役と呼ばれる場所になる




女性のソロアーティストやシンガーソングライター、アイドルなどはともかくとしても。

ガールズバンドでてっぺん、頂点に立つことはできない。

そう嘯かれたのはいつで、のたまったのは誰だったか。


かつて正咲の母たちが、同じように高みを目指すも。

その頂きに辿り着くことができなかったこともあって。


正咲だけでなく、『R・Y』としてバンドを組むと決めてから。

みんなで未だ見ることの叶わない頂きを目指してがむしゃらにやってきたわけだが。


男性のバンドならば、『ネセサリー』が。

あるいはみなきと美弥のコンビが……正咲たちにとって目指していくものにほど近いと言えて。



そんな、見たことなかった目標を今目の当たりにして。

最初はこなくそ、こっちこそやってやるぞ、なんて反骨心も浮かんだが。


まゆがいなくなって、それを真が追いかけていってしまって。

それでも麻理のピアノと自分の歌さえあればなんとかなる、ある程度食らいつけるだろう、なんて思えたのは出番の直前までで。


『R・Y』として、四人が。

あるいはもっと増えるかもしれないけれど。

バンドとして歌い上げ戦っていくことに意味があると気づいてしまった正咲は。

慌てふためく孝樹を何とかなだめ、今回の『天下一歌うたい決定戦』の出場を取りやめることにした。



その代わりに、孝樹をはじめとした『ネセサリー』のメンバーが現場にいるから、緊急出演でお茶を濁してくれるらしい。

『ネセサリー』のステージを見聞きできないのは残念極まりなかったが。

急にも急なドタキャンをしておいて、そんなわがままなんぞ言えるはずもなく。



正咲と麻理は、改めてまゆと真を追いかけ探すために表舞台から裏側へと、異世へと舞い戻ることにする。

異世へ通じる扉の、孝樹が開けてくれて。

異世と現実の間に結界が、時の帳が降りてくるよりも少しだけ早いタイミングで、二人は異世への復帰に成功する。


当然、『ドリーム・ランド』を模した異世が、その後すぐに現実世界から切り離され、時の狭間へと流されているなどとは知りようもなく。

もはや逃げ場がなくなってしまったことなど気づきもせずに、二人は再び黒き魑魅魍魎が跋扈する世界を疾走していく。



「ねぇね、まりちゃん! あのくろい子たち、さっき遠目でみたときより、なんだかおっきくなってない?」

「うん。さっきより心の大きさが増してるみたい。たぶん、仲間がやられちゃうと、それで怒って強くなるんだと思う」

「そうなの? だけどこの子たち、ボクらには……せいかくにはまりちゃんにはおそってこないんだね?」



相変わらず感覚で動いているようでいて、よくものが見えている。

正咲ちゃんはすごいなぁと、麻理は内心で感心しつつも言葉を返す。



「あのね、この子たち、心の器があるようでないっていうか、曖昧なの。だからわたしの能力でお願いして、わたしたちのこと味方だと思ってもらってるのよ」

「え、そうなの? まりちゃんすっご。いつのまにのうりょくつかってたの?」

「あ、はは。うん。わたしの能力は自動的に発動しちゃうからね。あらかじめセットして、好きな時に発動することもできるし」

「おー、いいなぁ。それ。ボクもやってみよっと。それでいいたいみんぐでみゃんぴょうにへんしんするんだ」


そう言って、後にすぐに自分のものにしてしまうのは、正咲の才能といっていいだろう。

すごいのは正咲ちゃんの方だよ、なんて思いつつも。

もしかして全て分かった上での発言なのだろうかと、少し後ろめたい気持ちになりつつも、その自らの能力【観世悟心】を使い、まだ近くではないものの、同じ異世に来たことで、確かに感じ取れる真の気配を、心を感じ取り、正咲を誘導するように駆け出していく。



「まゆっちもまこちゃんも、げんきそう? だいじょうぶかな」

「うん。真ちゃんは動物好きだから、何だか張り切ってる感じで……まゆちゃんは、ちょっと遠いかも。でも何だか焦っているみたい。急がないと……っ」


やっぱり正咲はよく見ていて、麻理が真とまゆの心を受け取ろうとしているのが分かったのだろう。

真の感情は、はっきりと伝わってくるのだが、まゆがいる場所は人が多いのか、何だか混線していてわかりにくい。

二人は、ペースを落とさないままに……麻理がもっとよく心を感じ取ろうとすると。

ちょうどそれを遮るみたいに、厳密に言えばすぐ近くのところで、誰か複数の強い心をキャッチする。



「まりちゃん、だいじょうぶ?」

「あ、うん。どうも近くにわたしたち以外に異世に紛れ込んじゃってる人がいるみたい。たぶん、黒いファミリアさんたちに襲われているのかも」

「そうなの? それじゃあ、助けにいこう! まりちゃんのちからがあれば、たたかわなくてもすむもんねっ」


どうせ通り道だし、もののついでだと。

麻理は、正咲の言葉に頷いて、再び駆け出す。




ずっとずっと続いていた、洞窟のようなカーブの道。

それが開けたと思ったら、黒いファミリアたちが結構集まっていて。

その黒い塊に囲まれるようにして。三人の少女が奮戦しているのが見て取れて。



「うずうず。かみなりまとってつっこんでぱーっといきたいところだけど、まこちゃんとこのねこさんみたいな子もいるしなぁ。やっぱりまりちゃん、おねがいっ」

「うん、任せてっ」


麻理は、しっかりと頷いて見せて。

【観世悟心】を改めて発動。


今度は、こちらが味方であると伝えるのではなく。

立ち向かい返り討ちにあって、その経験を糧として新たな仲間を生み出さんとする黒きファミリアたちに対し、強く訴えかけてみる。



―――この場から撤退するように、と。



麻理としては、ただ彼らにお願いしただけなのだが。

心にダイレクトに訴えかけるその能力は、威圧そのものであって。

黒きファミリアたちだけに伝えるなんて器用なことはできず。

黒きファミリアに囲まれていた彼女たちにも影響があったらしい。



栗色ボブカットのボーイッシュな少女は、その波の如き勢いに圧されて尻餅をついていて。

脱色したかのような、セミロングの……今時女子は、油断なくこちらへ向けてアジールにて創り出したギターを構えていて。

金髪ポニーテールの、だけど見た目だけならどこかのお姫様だと言われてもおかしくない少女は。

その場からちりぢりに離れていく黒いファミリアたちを名残惜しそうに見やりつつも、その見た目とギャップの激しすぎる……新たな獲物を、好敵手を見つけたとでも言わんばかりなわくてかした顔を見せていて。



敵か味方か。

少なくとも、黒きファミリアたちを引かせることができるほどには強いと。

もしかしなくても、黒きファミリアたちの主か何かかと勘違いされてやしないかと。



はてさて、どう説明、いいわけすべきかと。

一瞬麻理が悩み込んでいる隙に、正咲がそんな葛藤などお構いなしで。


おやつに釣られたみゃんぴょうのごとき身のこなしで、攻撃されるかもしれないだなんて露にも思わず。

無防備で無遠慮なまま、三人の方へと駆け寄っていく……。



            (第477話につづく)






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る