第475話、脇役だったけどね、今日までは、だけど。 本気の演技(わざ)見せようか




「……そうね。『災厄』の根本を絶つ方法はないかと、ここに残っている人は少なからずいるはずよ。彼らは覚悟をして、ここに残っているから」



私もその一人なのだと。

語るその言葉には揺るぎない程に強い意志が込められていた。


恐らく、このゲートを創り出す恭子の能力は、その場にいて力を維持する必要があり、恭子自身はゲートを使って遠くへは行けないのかもしれない。

ならばせめて、そんな恭子を守るための人間がいてもいいだろうと、幸永が声を上げかけた時。

それを制するように再び恭子が口を開く。



「今、まさに表舞台に立っている人たちには、そんな裏側を悟られないように私の結界で隔離するから。新しき『災厄』が、この裏側の世界を蹂躙尽くし終える、その時までね」


本当はこの裏側の世界、『ドリーム・ランド』ごと、遥か彼方に移動してしまうのが手っ取り早いのだけど。

さすがにそこまではできないからと、申し訳なさそうにする恭子。



「それは……つまり、潤賀さんが人柱になるようなものなんじゃぁ」

「大丈夫よ。今から私も表舞台に戻って、内から結界を維持強化するから」


恭子がいたずらにその身を犠牲にするわけではないと知って。

一安心な部分は確かにあったが。


それすなわち、幸永と怜亜にとってみればゲートを使い、ここではないどこかへ向かうのか。

恭子とともに閉じ込められし表舞台へ残るのかといった、二者択一を迫られた、ということでもあって。



「ちなみに、ダーリン……ええと、王神公康って言うんですけど、どちらにいるか分かりますか?」

「『天下一歌うたい決定戦』の、出場者だったかしら。それなら十中八九表舞台の方にいるはずだけど」

「だったら決まり、だな。表舞台へ向かいます。何かオレたちにも手伝える事があれば言ってください」



やっぱり逃げるのは性に合わねえ、と。

まったくもって似合わないサムズアップなんぞしつつ、わくてかを隠そうともせずに幸永がそう言うから。

色々な不安も、どこかへ飛んでいってしまって。


恭子は一つ頷き、慈愛に満ちた笑みを浮かべると。

それまであった白色溢れるゲートを消し去り、新たな……七色の光零すゲートを生み出さんとした、正にその瞬間である。




「…………っ! いや、待ってくれ! やっぱりさっきの声気のせいじゃなかったっ。いきなり前言撤回で、ホント申し訳ねぇですっ!」

「悲鳴? まさか、まだ避難しないで残っている人が?」



まるではかったかのように。

聞こえてくるその声は、少なくとも恭子が言うように覚悟があって、この場にいる人物には到底思えなくて。



「逃げ遅れたかわい子ちゃんがいるのかもしれない。ちょっとオレ見てくるわ。すいません潤賀さん。そういうことなんでオレ、失礼しますっ」

「ちょっ、決断早すぎでしょぅっ! あぁ~っ、もうっ! すっ、すみませぇんっ!」



こうなってしまったらもうオレは止められないぜ、とばかりに。

頭だけ下げて恭子が何か言うよりも早く、駆け出していってしまう幸永。

それにつられるようにして、だけど迷うことなく怜亜もその後を、面倒のかかる親友の後を追いかけていく。

その場には、七色のゲートを維持したまま笑みを絶やさない恭子だけが残されて。




「……本当に。まっすぐでいい娘たちね。たぶんきっと、感づかれて気を使わせちゃったのかも」


どこか自嘲のこもった笑みをこぼし、七色の揺らぐゲートを見つめる恭子。

『災厄』から逃れるにあたって、この現実の『ドリーム・ランド』そのものを遠ざけるのが不可能であるのは事実であったが。

言わば逆転の発想で、『災厄』に憑かれしものを裏側……『ドリーム・ランド』を覆っている異世を、所謂時の狭間へと隔離するのは不可能ではなく。

しかし、そんな大それた力を恭子は未だかつて発動したことがなかったから。

能力、才能が枯渇し失うだけならまだいい方で。

その大きな負荷に、反動に耐えられずどんな影響を受け、身に降りかかるか分からないのは確かで。



「かっこわるいところ、見られないだけ、よかったのかもしれないわね」


恭子は、そうひとりごちて。

一世一代の本域を込めた能力、【破魔聖域】の発動を開始する。

何せ、とっておきのものであるからして、その発動には長い呪文の如き詠唱……結構な長い時間、歌わなくてはならなくて。

 

そのロスタイムが。

多くのここにいる人々の運命を左右してしまうだなんて、気づく余地もなく……。



            (第476話につづく)






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る