第474話、素直に従ってかえっていれば、きっとめでたしめでたして終わっていたのに




「うおおおぉぉっ! 今オレは限界を超える! 【過度適合】、カラミティ・ウィップ!!」



どれくらいの間、尽きることなく湧いて出てきた黒き獣たちを相手にしていたことだろう。


幸永としては、気力尽き果てるまでやってやるぜ、なんて気概もあったが。

恭子の力による人々の避難も粗方終わったことと、いい加減このまま戦っていれば倒せば倒すほど圧が増し、その数を増やしていくことを理解していたこともあって。

ならばそれ以上増えぬようにと、幸永は自らの能力により、ちょっとやそっとじゃちぎれることのないイバラを生み出し、迫る来る黒き獣たちを拘束することに成功する。


宣言通り限界を超えろ、とばかりの全力。

そんな幸永は、気づけば見守り応援するだけになっていたレアとハイタッチなんぞしつつ。

全力全開出し切ったことに満足したのか、そのまま尻餅をつくように幸永は座り込み、改めて薄桃色の結界が張られた、その向こう側を眺めだす。


絡めとり巻きつくイバラから脱出せんと、もがき暴れるものは多かったが。

拘束しているイバラを千切るほどの頭はないのか、今のところ黒き獣たちがそれ以上増える様子もなく。

一種の膠着状態に陥っていて。



「よし。これでとりあえずこの場は持ちそうだな。ただまぁ、他の場所にはまだまだわんさかいるだろうし、これだけの数のファミリアを従える能力者がどんなヤツなのか、やっぱり顔を拝みてぇ気持ちもあるが……」

「なに言ってるの。今の一撃で立ってられないくらいには、もう限界なんでしょ。この状況で向かったって無駄に返り討ちにあうだけよ」

「ごもっともで。まぁ、当初の目的は最強でいかしたメンズ探し……じゃなかった。レアっちの彼氏を拝みにきたんだもんな」

「言っとくけど。幸の字のことなんて絶対紹介しないからね」

「な、なんでだよ! ファミリアを扱う名家のおぼっちゃんなんだろ? どのくらいの力の持ち主か、知りたいじゃんかよぉ」



そんな中、いつものと言えばいつものなやりとりを交わす二人。

一方で一段落ついたらしく、それまで結界を維持していた恭子も、ホッと息をついて。

改めてそんな二人を見やり、声をかけてくる。



「ご苦労さまです。ありがとうね、助かったわ。怜亜さんと幸永さん、だったかしら。表舞台に探し人がいるのなら、このゲートをくぐった先で探してちょうだい。

裏側にいた人も……だいたいは向こうへ避難しているはずだから」

「え? オレ……じゃなく。わたしたちのことご存知なんですか?」

「えぇ、裏側の裏方、『補給班』に志願してくれた娘たちでしょう」

 


幸永は、こんな木っ端な自分のことまで知っていてくれていたなんてと、素直に感動していたが。

基本ひねくれたところのある怜亜は、その『だいたい』の人から外れてしまっている人達の末路が気になったり、何だかここから早く立ち去って欲しそうにも見えてしまって。

色々気になることもあったから、反射的に口を開いてしまう。



「裏方の人たちみんなが避難、ですか? 一体、裏側で何があったんです? あの黒いコたちは、いつもの派閥の同士の抗争によるものとは違うんでしょうか」

「……そうね。ここまでしっかり関わってしまって、いいから帰りなさいってのもひどい話よね。あなたたちも、カーヴ能力者であるのならば、聞いたことあると思うのだけど。あの黒色の動物たちは、厳密に言えばファミリアではないのよ。あれはいわば、自然の脅威そのもの。『災厄』から生まれたものだって言えば、もっとわかりやすいかしら」

「『災厄』だって? あぁ、聞いたことあるぞ。調子に乗りすぎちゃった人間を懲らしめるために地球そのものがもたしたって言う……」



初めは能力者同士の示威行為、ドンパチに巻き込まれてしまったのだとばかり思っていたのに。

事態は思っていた以上に深刻で無慈悲らしい。



「懲らしめる、なんて程度で済みそうな話じゃなさそうだけど」

「そうね。今のところはみんなの能力も、私の結界も効いているけれど、それがいつ彼らに通用しなくなるかも分からないの。彼らはカーヴ能力と違って、現実の能力者でない人たちにまで影響を及ぼすものだから」



故に、災厄。

人間の暮らしを、社会を脅かし危機に落とし込み滅しようとするもの。


そんなの、どうしようもないじゃないかと。

強きものに挑むことが存在理由と言ってもいい幸永ですらお手上げ状態なのは間違いなくて。



「でもこれでも、まだ大人しい方なのよ。だからこそ、これ以上手がつけられなくなる前に、この今まさに新しく生まれようとしている『災厄』が座すその場所から、できるだけ遠くに離れる必要がるの」



自然災害にも等しいそれから逃れるためには、どうすればいいのか。

答えは単純。

それの影響が及ばないであろう遠くまで逃げればいいのだ。


恭子はその手段とばかりに。

閉じかけていた、光溢れ覆われしゲートを再び開け放つ。




「……あくまでも感覚だけど、この『ドリーム・ランド』のある区域からは離れるべきね。このゲートの先まで行けば、『災厄』に飲み込まれるようなことはないはずよ」


だから二人は、早くこのゲートをくぐって逃げるべきだと。

恭子はそう言いたいのだろう。

愛しい人がその先で待っているのならば、怜亜も迷うことなくその先へ向かったのだろうが。



「う~ん。いや、確かに潤賀さんの言う事は間違っちゃいないんだろうけどさ。何もできずに尻尾まくっての、性分じゃないんだよなぁ。あれでしょ、その『災厄』って確か、人につくんじゃなかったっけか。そのとっ付いてるヤツをどうにかこうにかぶっ倒す方法ってないの? オレらはともかくとして、ちょうど今ここに、すっごい力持った人たちたくさんいるじゃんよ」

「あ、そうだ。今表舞台に出ている人たちは? 幸の字が言うように戦って倒すかどうかはこの際置いておいて、今の裏側の状況、知ってるんですか?」



何も考えずにゲートの先へ向かってしまって。

その先にダーリンがいませんでした、幸永が言うようにギリギリまでなんとかしようと残っていました。

……なんて、入れ違いのようなことになったらいただけないと。

矢継ぎ早な幸永と怜亜の問いかけ。


対する恭子は慌てた様子もなく。

二人の意見をしっかり吟味した上でそれに答えてくれた。



             (第475話につづく)







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