第473話、未来を知らない二人だけど、こうして肩を並べることに終わりがないこと、気づいている




「よっ、ほっ、はっ。よっしゃ、案の定気づいてない。このまま行けるところまで行こうぜい」

「もう、相変わらず子どもみたいなんだから」



初めは急に引っ張られてよろけかけたけれど。

そんな幸永のノリも、長年の付き合いであるからして慣れたもので。

そんな子供みたいな、幸永の細すぎるうなじを視界の中心に、最早完全にモンスターハウスと化した異世、ダンジョンをずんずんと進み行く。



案の定、目がついていてもどこを見ているかはよく分からない黒きファミリアたちは、二人に気づき襲いかかってくるようなことはなく。

何だか、二人でのドライブ気分で幸永の勘と本能に従うままに奥へ奥へと向かっていく。


そうして、幾ばくかの時間が経った頃。

代わり映えのしない、ずっとずっと伸びる岩窟タイプのダンジョンめいていたロケーションに変化が訪れる。



例えるならば大きな生き物の昏き胎内。

恐らく、元々奥へ奥へ向かうためのものなのだろう。

下へ続く階段への虚ろが、右手ばかりにいくつもいくつも見えてくる。



「お? なんだ、誰かの……きっとかわい子ちゃんが助けを呼ぶ声が聞こえてこないか?」

「え? そうなの? もしかしてあの、ほら穴の先かしら」

「そうだな。ちょいと出歯亀、じゃなかった、助けにいくぞっ」

「はいはい。分かりましたよっと」



誰が見ても極上のかわい子ちゃんな幸永がそこらの人たらしなイケメンみたいなセリフを口にすると違和感しかないが、やっぱりその辺りも慣れたもので。

興味のあるものにはすぐに何でも飛びつこうとする、やっぱり子供な幸永に苦笑しつつ、引かれるままに下へと続くほら穴へと飛び込んでいく。



下へと続く階段を使わずに落ちていく勢いで下層へと降り立つと。

そこは、予想と似通った……しかし、大分広くなっている気もしなくもない、コンコースめいた場所で。






「は~い。みなさん落ち着いて、ひとりずつ避難するのよ~。大丈夫、わたしの結界は丈夫だから、この子たちは入って来られないからー」


しかし、その場には予想に反して、思っていた以上に多くの人がいて。


(おい、あれってコーデリアのツートップ、その片割れのキョウコさんじゃないか? やっべ。戦ってみてぇ)

(大スターを前に初めに出てくるのがそれなの? まぁ、正直すごいとしかいいようがなくて、ちょっとは気持ち、わかるけど)



能力者同士の戦いに巻き込まれてしまった一般人か。

あるいは、怜亜たちと同じように大会のサポート『補給班』を志願した者達なのか。

その中心には、ギター兼ボーカル担当な黒姫瀬華と人気を二分する『コーデリア』のドラム&ボーカル担当の、潤賀恭子(うるが・きょうこ)の姿がある。



彼女はその海色の髪を靡かせ、穏やかな笑みをけっして絶やさず、左手を壁に付け、何やら光零す扉を創り出し、黒きファミリアたちの脅威に晒され恐れ戦く者達を、一人一人あやすにして、恐らくきっと異世へと避難させていた。


更に右手からは薄桃色の膜……ドーム状の結界が、創られ張り巡らされており、黒き怒涛の群れを、何てことない様子で押しとどめ、侵入を防いでいる。

何しろ有名人であるから、その能力の凄さを重々承知してはいたが、そのあまりの規格外さに、状況も忘れしばらく二人はたまげ惚けてしまっていたが。




「おっと、こうしちゃいられねぇ! 手伝わないと!」

「うんっ」


すぐにはっとなって、二人は頷き合い、かかっていたヴェールのごとき能力を解除。

そのまま自らの存在を大きく主張するように恭子たちの元へと近づいていく。




「『補給班』の者ですっ! 避難行動、援助しますっ」

「あらあら。ちょうどよかったわ~。もう年かしら。少ししんどくなってきたところなの。一時結界を緩めるから露払いの方、よろしくね」


恭子は、二人にすぐに気がつき(恐らくヴェールを被った状態でも気づいていたのだろう)、変わらぬ笑顔のままですぐさま二人にそんなお願いをしてくる。

それに二つ返事で頷いた二人は、薄くなっている結界の方へと向かい、お互いがお互いの能力を発動する。



「【過度適合】っ! 煉獄炎! 喰らいやがれぇっ!!」

「【魔性楽器】! 『アブロス・ギター』っ!」



幸永は結界から突き出した手のひらから、黄白がかった炎の弾丸を。

レアは、エアギター……心の中だけに攻撃の旋律を奏で、見えない刃を生み出し黒き獣たちを殲滅せんとする。


二人の力は合わさり重なりあって。

偶然か必然か、後に語られることとなる『シンフォニック・カーヴ』となって。

迫り来ていた黒き獣たちを蹂躙していった。


鳴き声も、血すらも出ることなく。

黒い染みとなって世界に溶けゆく黒き獣たち。



「なかなかいい感じじゃないの。私とライカちゃんを見ているようだわー。その調子で、しばらくよろしくねぇ」


たぶんきっと。

それは二人にとって、一番に嬉しい褒め言葉ではあったのだが。

続く言葉にはっと我にかえって薄桃色の結界の向こうを見据える。


予想通りそこには、いつに間にやら復活……いや、新たに湧き出したのだろう。

先程までのものより一回り大きくなっている気がしなくもない、大型の黒き獣たちが、近づいてきているのがわかって。



「何かいやーな予感がするけど。……んもう、乗りかかった船よ! 行けるとこまで行くわよっ!」

「いいねぇ。レアっちもやる気出てきたみたいじゃぁないかッ!」



これはきっと、キリがない。

あるいは、際限のない類のものだと理解できてしまったが。


下手に手を伸ばすのではなく、最初の状況に留めるべきであったと気づくのは後の祭りで。

でもそれでも、恭子が避難の手助けを終えるまではと。

互いを励まし合うようにして二人は、再び能力を発動し始めて……。



           (第474話につづく)






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