第六十一章、『Blue Sky-Infect Paranoia~カーテンコール』
第472話、でこぼこ女友達、遅ればせながら凱旋参戦
「ひ、ひぃっ。な、なんだこいつらぁ。く、くく来るなああァァァ……っ!」
「ぐぅぅっ、この儂が獣如きに不覚をとるとはっ……」
まゆが、そんな風に脇目をふらずに『災厄』の元へと向かっていった頃。
そんな『ドリーム・ランド』を覆うほどの異世には。
蔓延充満、侵食していく黒き獣たちとともに少なくない数のカーヴ能力者たちがいた。
表舞台、その出演の合間での裏側の仕事。
あるいは、元より裏側がきな臭いことになるだろうと裏方に回っていた者達である。
「……おいおい。なんだこれ。これが能力者同士のバトルなのか? 一方的じゃねえかよ」
「あれが能力者のファミリアならそうなんでしょうけど。まさかあの子たち私たちにも襲いかかってこないわよね」
黒き獣たちの怒涛の波濤に飲み込まれ、儚く消えて。
あるいは能力者の力を失うことを意味する……『落ちて』いく、少しばかりフェスなどで見た事がある気がしなくもない男たち二人。
その無慈悲で容赦の無い様を、偶然目の当たりにして。
咄嗟に隠れ、戦々恐々な様子でやり過ごしていたのは。
裏側における『補給班』、中立の立場で参加していた石渡怜亜(いしわた・れあ)と仲村幸永(なかむら・こうみ)の二人である。
「マジでか。中立の立場のオレたちは流れ弾に当たるようなことはあっても、どちらか一方についてるわけじゃなし、見逃してもらえるんじゃあ」
「どう、かしらね。何だか聞いていた話と違うもの。誰が敵で誰が味方って感じでもなさそうだし」
今回怜亜は、大好きなダーリン……彼が『天下一歌うたい決定戦』に参加するということで。
その晴れ舞台を観客席よりも間近で見たかったからこそ、よく分からないままに裏方スタッフである『補給班』に手を挙げた経緯がある。
幸永はそんな親友の、あくまでも付き添いの体をとってはいたが、そんな言葉の割にその赤目はきらきらと輝いていた。
見た目だけならどこの深窓の令嬢を通り越してお姫様か、なんて感じなのに。
その中身はケンカ……能力者同士のバトルが大好きなやんちゃにすぎる少女で。
オレより強い奴に会いにいくを地でいっているのだ。
たった今、二人の成人男性……この場にいるくらいなのだから、ひとかどのアーティストであるのは間違いないはずだが。
多種多様な種類の黒き獣たちに囲まれ集られ、啄まれるかのように喰らわれ消えゆく姿を目の当たりにしてもあまり気にはしていないようであった。
知らない野郎どもだった、というのもあるが。
この能力者同士の戦いの場においての敗北、『落とされる』ことは。
その人の才能が失われることと同義で。
これから生きていくのが大変だと。
ご愁傷様です、くらいに思っていたこともあるだろう。
「どうする? どうしよっか。あの子らが襲いかかってきたのならば、迎え撃っちゃうしかないよなぁ?」
「何言ってるの。すごい数じゃない。さすがの幸の字でも多勢に無勢なこの状況、ぜんぜんおいしくないじゃないの。っていうか私はいやよ。ヘタをうって力を失っちゃったら、ダーリンに会えなくなっちゃうじゃない」
「そうか? ……うーん。それじゃぁさ、あの子らに見つからないように能力使うわ。でもって、あの子たちを呼び出し生み出してる人んところへ行こう」
どっちみち、愛しのダーリンが舞台に立つ姿を近くで見るためには、今いる異世に覆われし向こうへ行かなくてはならないのだ。
怜亜ひとりでは、この黒き群れを突破するのは不可能であるし、いつだってやんちゃにすぎてそれすら逆に可愛いから目を離せない、危ういところのある親友を放っておけないのは事実で。
それならまぁいいかなと、幸永の意見に従うことにして。
「よし、じゃあさっそくちょっとこっちゃこい。【過度適合】っと」
それは、幸永も未熟で、自身に秘められし力を十全に理解していなかった頃であったものの。
世界に溶け、創り出し支える力の源と化すもので。
擬態のように世界に溶け込む力で。
それこそ力ある能力者であるならば違和感を覚られ気づかれる恐れもあるが。
ファミリアならば世界の力の源でもある彼らならば、誤魔化せるだろうと判断したのだろう。
すぐに……怜亜の目にははっきり見えたわけでもないが。
幸永から生まれた、アジールのこもったヴェールのようなものに包まれるのが分かって。
「んじゃ、でっぱつしんこぉー!」
「きゃっ。ちょっ、引っ張らないでよっ」
紐で括られた二人三脚か。
あるいは、風呂敷に包まれた獅子舞の中の人か。
幸永としては、そんな感覚だったのだろう。
躊躇うことなく、自らの能力に自信たっぷりで。
夥しい黒の波へと突っ込んでゆく……。
(第473話につづく)
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