第471話、むくのそのはねで、全てがうまくいくのだと疑わず
真が、まゆの突然の行動原理を正しくも読んだように。
まゆが表舞台、現実の世界から抜け出し異世へ舞い戻る決意をしたのは。
モニター越しにナオが探していたはずの知己の姿を目の当たりにしたその瞬間であった。
それは同時に、ついさっきまで一緒にいた美弥は、舞台の上に立っていた美弥とは別人であり。
ほんの僅かな瞬間だけ闇色の太陽の気配を醸した……美弥の姿をしていた人物が、まゆ自身が長年追っていた存在であると確信を持った瞬間でもあって。
闇色の太陽、後に『パーフェクト・クライム』と名付けられる新しき『災厄』のひとりであるそれは。
元はと言えばまゆの一族、天使とも翼あるものとも呼ばれる者達がその身に潜ませ取り憑かせ、管理制御していたもので。
その『災厄』を親しきものたち、家族と分け合い引き継いでいくことで緩やかに分け隔て、『災厄』と呼ばれるようなものから昇華してゆくはずであったのだが。
しかしそれは、まゆの母親とその友人たちの代で突然変異を起こし、『災厄』としての力を取り戻してしまう。
どうしてそんなことになったのかは、未だ知ることはなかったが。
その時その瞬間から、翼あるもの……鳥海の一族としての責任として。
大きな力を取り戻し始めていたその『災厄』を滅する使命をまゆは負ってきた。
世界が『災厄』により壊れてしまうよりも早く、その黒き太陽に憑かれし人物を見つけ出し、その身にかかる『災厄』を受け取る。
そうすれば自分はどうなってしまうのか。
あるいは、そう単純に受け取ることが可能であるのか。
はたまた『災厄』を滅するとして、その憑かれた人物に影響はないのか。
まゆは何も分からないままに。
生まれた時から刻まれている、母からの期待と天使としての命に圧されるようにして。
躊躇うことなく一度出されたはずの異世へと舞い戻り入り込む。
「『災厄』の気配は…………あった!」
正しく、お互いが惹かれ合うように。
その闇色の『災厄』の容れ物でもある翼をまゆは大きく広げてゆく。
するとすぐに上から引っ張られるような感覚がして、導かれるままにまゆはそちらへと駆け出していく。
「っ。これはさっきも見た……『災厄』が生み出した眷属? いや、誰かのファミリアと? こんな時に面倒な」
しかし、そんなまゆの行く手を阻むようにして現れたのは、闇色の『災厄』とごくごく近しい色合いを身に纏いし様々な種類の動物たちであった。
思わずぼやいたが、まず間違いなく彼らは正にこのタイミングで『災厄』を滅しようとするまゆを阻むために現れたのだろう。
彼らは、彼らと真逆の性質を持つまゆに気づいたのか、すぐさままゆの方へと向かってくるのが見て取れて。
「【隠家範中】サード、バニラリングっ!」
それは、彼女が後に全てを託すこととなる愛すべき人の能力、その源流。
白い輪……ホワイトホールを生み出し、翼へ溜め込んで取り込んだものを必要な時に取り出すことのできる能力。
真の能力により派生する炎や、正咲の能力による雷などもストックしていたまゆではあったが。
悠長にしている場合ではないと、まゆにとっての最大火力、ホワイトホールそのもので塗りつぶし押し潰し抹消する力を扱い、問答無用で活路を開いていく。
まゆの白い輪を受けた黒き獣たちは、声上げることもなく。
逆に素直に受け入れるような形で白に塗りつぶされ、儚く消えてゆく。
それからまゆはすぐさま駆け出していったので、気づくことはなかったが。
無意識のままにまゆにとっての最善の行動を取っていたのは確かであったのだろう。
何せ黒き獣は倒せば倒すほどその数を増やし。
滅せられ儚く消えた数だけ、じわりじわりとその強さを増していったのだから……。
(第472話につづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます