第468話、普通で当たり前じゃないけれど、その隣は譲れないから
「やるじゃない。見た目と性癖はあれだけど、腐っても私のパートナー、ね」
「腐上等っ。ってか、やっぱりアナタらしくないわね。そんな風に褒めてくれるの初めてじゃない?」
「そんな事ないわよ。私は初めからあんたのことは認めてたわ。でなきゃ、相棒だなんて言わないし。……すっごくヘンタイだとは思ってるけど」
かと思ったら、今度は褒め殺しか。
精神的に安定していないと言ってしまえばそれまだだが。
やはりライカは何かに惑わされ、あるいは何の意味もなくこんな事をしているわけでないようで。
(あのけだものちゃんたち、今のところ一体一体はさほどではないけど、数を頼りにまとわりつかれたら厄介ね。下手な能力者なら集団でイイモノをもらっちゃえばアウトかも。でもまぁ、幸いここには強いヒトたちしかいないから……)
ハイバラは、相変わらず攻撃の手を止めぬままに。
突然ではないのかもしれないが、せっかくの晴れ舞台の裏側で、こんな傍迷惑じゃ済まないかも知れない仕打ちを。
その中心にライカがいなくてはならない理由を考える。
ライカの言葉を聞いているとあからさまにハイバラを煽り、攻撃の手を止めさせないように仕向けているようにも取れる。
ハイバラは、それを踏まえてただひたすらに黒き獣たちを生み出し続けているライカをじぃっと観察する。
相変わらず、羨ましいくらいに若くて可愛らしいわね、なんてことを思いつつも。
ほんの僅かなれど、黒き獣たちのペースが早くなってきていることに気づいて。
「うん。なんとなく、読めてきたわ」
「……なっ!?」
まるで手品か魔法かとでも言わんばかりに。
浮かび宙を舞い、襲いかかってくる武器たちが忽然と姿を消して。
その空いたスペースに、黒き獣たちが殺到していく。
みるみるうちに、ハイバラの巨体は黒色の波にのまれて見えなくなっていく。
まさか、ハイバラがいきなりそんな行動を取るだなんて思ってもみなくて。
思わず驚愕の声を上げるライカ。
そのまま慌てて駆け寄ろうとして。
「ぬうぅんっ!!」
ドバン! と。
黒き波が割られ吹き散らされる。
視界が開けたその先には大分目に優しくない、ギラギラと鋭利な刃が夥しく配置された黄金の鎧を身に纏い、仁王立ちしている漢女がそこにいて。
ハイバラが、その大木のごとき腕をふるえば。
いっぺんに黒き獣たちは消し飛び、勢い余ってぶつかっていったものは、そのままハリネズミのようになってあえなく自滅していく。
それでも、闇色の獣たちは現れ続けて。
やがて、ハイバラが自ら攻撃してこないのをいいことに、ほとんどがその威容を避けるようにして裏側の世界へ散り散りになっていくのが分かって。
一体何を、と。
呆れた様子でハイバラを見つめていると。
そんなライカがおかしかったのか、ハイバラは実に不敵にニカッと笑ってみせる。
「アナタはこの全てを自分の責任ってことにしたいようだけど、ワタシの目は誤魔化せないわよ。その力……黒いけだものちゃんたちを生み出している、アジールとでも言えばいいのかしらね。どう見たってあなたの力じゃないでしょう。状況を鑑みるに、際限なくどんどん溢れてくる力を止められなくてその発散をアナタが、ライカちゅわんが手伝ってあげているってところかしらん」
それは、人より比較的その身に秘めしアジールが大きくて。
それを分け与えるようにして能力を発動するハイバラであるからこそ、気づけたことなのかもしれない。
「……違う。そんなんじゃない。私はただ、ぬくぬくと上でお高くとまっているやつらをぎゃふんと言わせたかっただけよ」
それは、普段のさっぱりと竹を割ったような性格のライカにしてみたら、どう見ても苦しい言い訳。
恐らくきっと、そんな風に自分を犠牲にしてまで庇い守りたい人ができた、ということなのだろう。
もう、妬けちゃうわねぇと。
ハイバラは内心でひとりごちて苦笑して。
「そんな私を止められるものなら止めてみなさいよ」
「……仕方のない娘ねぇ。表の出番が来るまでは、まぁ本番前のウォーミングアップにしては少し過激にすぎるけれど、とことん付き合ってあげようじゃないの」
カーヴの力やアジールが暴走するみたいに溢れ出してしまうのならば。
それらを全て『無かったこと』にする、大大大好きなあのコに任せてしまえばいい。
いざとなったら、そのつもりで。
だけど、彼女の相方ポジションは譲れないから、とばかりに。
人のものまで勝手に背負ってしまう優しすぎるライカのために。
ハイバラは気を取り直し。
再びあらゆる種の武器たちを中空に浮かべるのだった……。
(第469話につづく)
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