第466話、大人を嵩にきて戻され上げられた表舞台に頂を見る
「う……孝樹さん、美弥さんは? 姿が見えないけれどどこと?」
そんな中、それだけは伺わねばと。
小さな翼でホバリングしつつ孝樹に追いつきまゆが問いかける。
「同じ班……楽屋などは同じでしたが、出場チームとしては別ですから。彼女たちはもう、次の出番のためにスタンバイしているはずですよ。順当に勝ち上がってゆけば、すぐに当たるでしょうからしっかり見ておくべきだって言ったじゃないですかっ」
質問の意図を汲んではくれなかったが、どうやらさっきまで意識失っていたはずの美弥は結局、一度も顔を合わせることのなかったみなきとともに、表舞台の出番待ち……もうスタンバイも終えていて、すぐにでも歌える状況らしい。
「そっかぁ。みやちゃんのほんきの本気が今度こそみれるんだね。いそがないとっ」
「だからそう言ってるじゃないですかぁっ」
「お……美弥さんの本域かぁ。すごいんだろうなぁ」
いつの間にやら目を覚まして、いつの間にやらスタンバイを終えている。
そんな突拍子もないことを、美弥の歌聞きたさに、細けぇことはいいんだよ、とばかりに正咲は納得してしまったらしい。
麻理も、先程のリハーサルでのパフォーマンスを聞きそびれていたこともあって、すっかり表舞台の方へご執心、気持ちが動いているようで。
(どうやら、孝樹さん……マネージャーさんは何も知らされていないようだね。となると、先程まで相見えていた二人は、二人共に偽者と言う事になるけれど)
(……っ。やっぱり? そんな気はしてたけれど、じゃあ今頃うず先生は?)
(十中八九、裏側へ残り『災厄』の感染主かもしれないあの娘と対しているのだろう)
(くっ。それはぼくの役目なのにっ)
(そうやって気負っていたから気を遣われたんだろう。うず先生のことだからいらぬ心配だろうけど、表がひと段落着いたら向かうべきか)
その一方で、真とまゆは並び顔突き合わせ、そんなやりとりをしていた。
せっかくの表舞台なのだから、楽しんでくればいい。
こっちはこっちで何とかするから。
言われずとも伝わって来る、孝樹……いや、うず先生のメッセージ。
真の表情は変わらなかったが、いらぬ心配言いつつも今までにないくらいに嫌な予感がしていたのは確かで。
そんな事をしている場合じゃないのに、と唸るまゆの気持ちも、分からないでもなかった。
(ふむ、そうだね。では表舞台に注視しつつ、わたしたちにできることをしようか。これから顔を合わせる美弥さんたちが本物であるのならば、そこには必ずお兄さん……知己さんがいるはず。どうにかして、知己さんにうず先生の危機的状況を伝えるんだ。そうすればきっと、すべてがうまくいくはずさ)
(……今はとりあえず、それで納得はできないけれど、うん。わかったとね)
まゆは本当は自分の使命なのにとぼやきつつも。
心なしか誇らしげにしている真の『お兄さん』への信頼っぷりを重々承知していたからこそ、この場は引き下がることにして……。
※
正咲たちに対してひくほど下手に出ていると言うか、うず先生にありがちな『俺様に従えついてこい』的な強引さが足りないと言うか。
やっぱりどうみても別人ではあるのだが。
それでも彼が自分たちのマネージャーであり、プロデューサーであり、尊敬するアーティストにして能力者であると四人四様に理解していたからこそ。
駆け足で向かうは、通常ならば広大な人工の芝が敷かれているであろうバトルフィールドの手前……いわゆる戦いに赴く戦士たちが控える前室のような場所で。
そこには既に先客がいて(恐らくトーナメントではしばらく当たることのない出場アーティストたちなのだろう)。
知っている人も知らない人も、今まさに行われんとしている試合、なんともちょうどタイミングが良く、於部みなきと屋代美弥が舞台に上がらんとする様を、前室に備え付けられていた大きなモニターにて注視している所であった。
「ふう。何とか間に合ったみたいでよかったです。彼女たちに相手は『気狂い狒々』のみなさんですか。……はたして、どうなることやら」
「おー。ないすたいみんぐ。よかったぁ」
「あの黒髪のかわいいひとがみなきさんなの? ちょっと出してる歌と印象がちがうような気がしますけど」
はたして、と言いつつも。
まぁ負けることはないでしょうと、どこか自信満々な孝樹に。
わくどきが止められない様子の正咲。
一方で麻理は、モニター越しじゃぁ心が読み取れないんだねぇと、首をかしげていた。
「確か、メディアに顔を出すのが今回が初めてだって耳にしたけれど」
「ああ、プロモとかでもシルエットとかだけだったとね。いやうん、ちょっとイメージが違うような気はするね」
注目すべきはもうデビューしているというみなきではなく。
正真正銘、テレビの前で歌うのはこれが初めてだと言う美弥の方なのだろう。
モニター越しで、遠目でそこにいるわけじゃないから、と言うのもあったが。
何故だか、違和感めいたものがそこにあった。
その見た目は、衣装こそ身に纏っていて煌びやかに可愛く様変わりしているものの、先程までやり取りしていた美弥その人に間違いないはずなのに。
どこかズレを感じるのだ。
今まで会っていたその人が偽者であるかもしれないことを考えれば。
そんな違和感があって然るべき、と言えばそうなのかもしれないが……。
(第467話につづく)
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