第463話、本当の理由はと問い詰めようと思ったけど、乙女の友情を前にそれは無粋だから
「やっと目が覚めたかと思ったら。一体どうしたのよ。そんな血相変えて」
「オトしたのは貴女でしょうに、白々しい。……そんなにあの娘とワタシを会わせたくなかったの?」
「そりゃそうでしょ。あんたに好敵手、恋のライバル扱いなんてされてみなさい。あの娘がトラウマにでもなったらどう責任取るつもりなのよ」
「どうもこうも、それでワタシが勝てるのならば、所詮その程度の気持ちしかなかったってことでしょうに」
ある意味で、その場に似つかわしくない、そんな二人のやり取り。
しかし、そんな言葉の応酬とは裏腹に、漢女は着飾り侍らす刃たちを収める気配はなく。
対する男勝りな少女は、そんな彼女からもらった愛すべき薔薇の細工が施された剣を構えたままで。
「そもそもが、その剣にしたってワタシの創ったものなんだから、ワタシには通用しないことくらい分かっているんじゃないの?」
「……言われてみれば、その通りね。あんたが男の人を食い散らかしそうなコワい顔で猛然と向かってくるもんだから、つい防衛本能が働いちゃったみたい」
「ふぅん。今までそんなことなかったのにね。……それはつまり、そう思う後ろめたいことがあるってことかしら」
実に、もっともらしい理由と苦笑。
しかしハイバラは、そんなことで誤魔化されてあげるほど短い付き合いじゃないでしょう、と言わんばかりにそんな事を口にする。
「今までだって我慢していたに決まってるでしょ。溜まっていたものがついには爆発しちゃった。それだけのことじゃない」
「らしくないわねぇ。貴女ならそうならそうってはっきり口にするじゃないの。……もう、まどろっこしいのはやめにしましょう。はっきり言うわ。今この異世で次々に生まれている黒いコたちは、貴女の力によるものでしょう? 一体いつからこんな」
『災厄』めいた力を奪い、ラーニングしたのか。
何の目的があってこんなことをするのか。
たぶんきっとハイバラは、その理由も目的も分かった上で敢えてライカの口から聞きたいのかもしれない。
きっと彼女は本当の意味を問い詰め、問いただすまでここから動くつもりはないのだろう。
……そんな、自身を棚に上げたわからず屋の彼女に。
しょうがないわね、などとライカは大きなため息をひとつこぼして。
どうせ構えていても無駄だろうからと。
青薔薇の細工が美しい剣を、背中にしょっていた鞘に納め、改めてハイバラへと向き直る。
「いつから……ってことはないわ。この力は初めから、私の、私に与えられた力なの。アーティストとして、女としていくつもの顔を持っているのは普通のことでしょ? まさか、こんな短い間にあんたに気取られちゃうなんて、ちょっとあんたの乙女心を甘く見てたのかなぁ、とは思うけど」
「元々あった力って言いたいわけ? ワタシもまだまだね。さすがにそこまでは気付けなかったわ。……それで? このコたちに今この瞬間、何をさせたいのかしら」
二人のやりとりに、正しくも呼応するかのように大小種類様々な黒い影のごとき小動物たちが、再びじりじりと集まってくる。
「てっぺんにのし上がるために、この用意された舞台に乗じて……それを邪魔する人たちにけしかける、って言ったら?」
「それこそ、貴女にそんな欲や野望があったなんて、初耳なのだけれど。……ひとつだけ、聞かせてちょうだい。それはつまり誰かに操られているとか、そう言うことじゃなくて、貴女の意志ってことでいいのよね?」
誰かの為に澪尽くす。
そう口にしなかったのは。
結局ハイバラ自身がライカに甘い、と言うことなのだろう。
この見た目にそぐわない、どうしようもないお人好しめ、なんて。
ライカは内心で毒づいてみせて。
「ええ、これは間違いなく私の、私だけの意志よ。だからあんたには、ひと悶着ある前にここから立ち去ってもらえると助かるんだけど」
「何よぉ。そんな水臭い。貴女とワタシの仲じゃないの。同じバンドメンバーなんだから、貴女がてっぺん取りたいって言うなら、どこまでも付き合ってあげるわよ」
「…………っ、バカなんだから」
結果がどうなろうとも、全てを分かった上で味方になってくれるという彼女に、不覚にも涙がこぼれそうになって。
「それじゃあせっかくだし、みんなにあう武器、創ってよ」
「はぁい、お安い御用よぉ」
たとえこの命散ることになろうとも。
あなただけはと思える人が私にもできました。
そんなセリフは、心の奥底にそっとしまいこんで。
『コーデリア』としてのさいごのライブが始まるのだった……。
(第464話につづく)
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