第460話、まいそでから見やれば、存外ヘンタイ度が高い事に気づかされて
『主さまぁっ! や~っと見つけましたよぉ!』
きゃんきゃんと、親をようやっと見つけたかのごとき、とっても可愛らしいパピヨン犬であるはずなのに。
まるでそこにいるのが飼い主であると証明してしまっているかのように。
正しくも副音声のごとく、丁寧な喋りをしつつも属性的にはみなきと似通っている部分のある少女の声が聞こえてくる。
「……っ。な、なんでこんなところに犬っころが。ここは仕事押し付けられしものどもしか入れないはずなのに」
『あぁ、確かに警備のおじさまに行く手を阻まれはしましたが、出てはいけないところから飛び出すのと、入ってはいけないところへ侵入するのはお手の物ですからね。気付かれぬよう、こっそり異世の中へ入ることだって余裕過ぎて、鼻先にオヤツを載せる程度の難易度でした』
とりあえずの所、そんなみなきの言葉など聞こえない体で、首周りにじゃれつくように引っ付こうとしてくるパピヨン犬を、やっとのとこで引きはがすも。
彼女はそんなことなどお構いなしに、みなきが主さまであると言う事を、まったくもって疑う様子もなく。
そんな、何だか褒めてくださいとでもいいだけな、ドヤ顔ならぬドヤ声が返ってくる。
「きみ、どこのタダ飯くらいなの。ここってペットを預かってくれるところ、あったかな」
『何を言い出すかと思えば、こんな愛くるしいわたくしめ対して日々の施しを負う義務が主さまにあるのは当然のことでしょうに』
「きくぞうさん、ひとりだけ偉そう。立場は同じはずなのに」
『ふふふ。語るに落ちるとは正にこのことですねぇ』
「……はっ。しまった。羨ましすぎて思わず口に出てしまった」
果たして、本当に最初からそこに主がいることに気づいた上での茶番であったのか。
あるいは、そう言って小悪魔的に笑うきくぞうさんのカマかけであったのか。
どちらであったのかは定かではないが。
彼女の言う通りこれ以上何かを口に出そうものなら素どころかどんなぼろが出てしまうか分かったものではないし、どうせ何を言い繕ったところでこうなってしまえばきくぞうさんはどこまでもついて引っ付いてくることだろう。
正しくも忠犬、飼い犬のようにリードをつけて『ドリーム・ランド』をサンポ、徘徊してもよかったが。
それはもう慣れきったいつものことではあるだろうし、この方がきっと効くだろうと。
みなきはついには観念する形できくぞうさんを胸の中へと抱え込む。
「このもふもふ具合は、ひとを殺すアクマね。もはや」
『やや、たまにはこういった形でのサンポも悪くないかもですね。早速ですが、これからどうする予定なのですか? まずはお腹が空いたので、とっておきのおやつを所望します』
「迷ってはいるんだけど、とりあえずは外に出られるのか判断したいかな。勝手に忍び込むのが得意なら勝手に抜け出すのもお茶の子さいさいでしょう」
何だかんだ言って用意していた『ごいんだスティック』を分け与えつつ。
噛み合っていないようで噛み合っている二人のやりとり。
せっかくだから、面倒事がやってくる前にきくぞうさんの能力を使ってここからおさらばすることにしよう。
そして、取り返しがつかなくなる前に何もかも放り投げて何も関係ない所まで、いっそサンポにでも行っちゃえばいい。
そう内心で思い立ちいざ行動に移そうとしたのが、まずかったのだろうか。
「……あぁーっ、いたぁっ! ちょっといいかな。そこな己の予想を上回り裏切るほどに幼気で可愛らしいお嬢さんっ!」
「っ!?」
『ムムっ。この腹立つくらい甘ったるい声はっ……て、主さま?』
一言で言えば、今の今まで聞いたこともないようなトーンの。
だけど日々耳にしていた誰何の声。
意外、と言うほどのものでもなかったが、何だかその言い回しがついさっき垣間見た『変態さん』を彷彿とさせたこともあって。
みなきは急にどうしたのかとおっぽをぱたぱたさせるきくぞうさんを抱えたまま、一目散にその場から逃げ出していく。
と言うより、更に下の階層……フロアへと続くであろう、階段のためのスペースに無謀にも飛び込んでいった、と言うのが正しいだろうが。
いきなりナンパのような台詞を吐いてくる変態さん……知己のみならず抱えられていたきくぞうさんですら、予想だにしていなかったであろう大胆な行動。
それでも、みなきの身体的スペックは対応可能であったようで。
とりあえずの所、知己を蒔くことに成功したわけだが。
「多分、名前の通りしつこそうだし。すぐに追いついてくると思うから、きくぞうさん。悪いのだけど能力を使って私のこと隠してもらえない?」
『名は体を表すって……へびさんですかね? 字がちょっとばかり違うような気がしますけれども、一体全体どうしたと言うのです? けんかでもしましたか? きゃつに会いたくない理由でも?』
「会いたくないっていうか、サプライズ……かくれんぼよ。いいから早く、見つかっちゃう」
『はいはい。分かりましたよ。……ええと、【矮精皇帝】ファーストっ!『転姫の従者』っ!!』
けんかどころか、ついさっき出会ったばかりだから。
なんていいわけはきっときくぞうさんには通用しないんだろう。
誤魔化すように、急かすようにみなきがそう言えば、どうも『かくれんぼ』あたりのフレーズに惹かれたようで。
何だかんだ言いつつも、すぐに能力を発動してくれる。
「おーいっ! だいじょうぶかぁっ。 こんなとこから落っこちるなんて、お兄さん肝が冷えるじゃぁない……って、いないだとぉっ!?」
すると、発動のタイミングをはかったかのように知己がやってきて。
内心びくびくどきどきしつつ、より一層きくぞうさんをぎゅっと抱きしめ身を潜め息を止めていると。
どこか焦った様子で、知己はすぐにどこへともなく駆け出していってしまって……。
(第461話につづく)
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