第五十八章、『Blue Sky-Infect Paranoia~駆け引き』

第457話、稀代の悪役にもなれないからこその遅きに喫した出番



「……表側の舞台上の注意事項は以上です。引き続きまして今回集まっていただいた一番の議題、表舞台へも影響を及ぼしかねない『災厄』と呼ばれる規格外の能力者についてですが」



少しばかり遅れてしまったが。

どうやらこの会議の本題とやらには間に合ったらしい。


慣れた様子で椅子がなくなっていることに気づいた様子もなく熱弁している柳一によると。

地球そのもの、自然災害そのものと言ってもいいくらいの、『災厄』と呼ばれる能力を持ったものは、それこそ人類がカーヴ能力に目覚める前から存在していたらしい。



しかし、原初の『災厄』のひとつに、『今までありえなかったはずのものを当たり前にする』……『災厄』の存在を隠し気づかせなくする力があったらしく、取り返しがつかなくなるのが当たり前になってしまって。

今までは中々気づくことができなかったようで。



それでも現在は、そんな隠されたものを看過する能力者が生まれたことで、何とか手遅れになるその直前、ぎりぎりの所で分かるようになったらしいが。


そんな中わざわざそれぞれの派閥の中でも音に聞く剛の者達を集めたのは。

そんな世界を取り返しのつかない所まで持って行ってしまうであろう存在が、この中にいるであろうと断じ、監視し管理し釘を刺して。

もしその正体が明るみに出ようものならば、しかるべき制裁を与えるといった意味合いがあったからに他ならない。

 


今までその身を隠していたのだから、普段は目立たぬように力を抑えているか、

そもそもそんな力を持っているだなんて知らないのではなかろうかとみなきは思ったが。


思うだけで口にはせず、そんなある意味とばっちりの容疑者にされてしまっている面々を見渡すことにする。




まずは、【業主】と呼ばれる派閥の代表代理と言う名目で出席している、辰野稔(たつの・じん)。

『流杯』と呼ばれるロックバンドのボーカルでもある彼は、四方八方に攻めたドレッドヘアーもあいまって、いかにもな感じがしすぎるからこそ、恐らくは『災厄』に憑かれし下手人ではないだろうと予想できる。



そんな彼の隣に陣取るのは、【外蓮】と呼ばれる派閥に所属しているスリーピースバンド、『気狂い狒々』のメインボーカルである未麻遠申(みま・えんしん)と。

その武人のような雰囲気の割に、ポップス中心のバンド『蹴道王』のベーシスト、二ツ島三栖(ふたつしま・みさい)であった。



遠申は何は楽しいのか、あまり直視したくない笑みをずっと浮かべていた。

そう言えば寿一辺りが怖いからなのか、その直弟子であるみなきにも妙に下手で接してくるから勘弁して欲しいと言うか、むしろ『災厄』に憑かれたものだったのならば納得できる部分は確かにあるが、そう思っている時点で恐らくは違うのだろうと思われる。


一方の三栖は、柳一の話を聞いているのかいないのか、みなきが来てからもずっと眠り……黙想しているようで。

何を考えているのか分からない不気味さは確かにそこにあった。

武人のような雰囲気を纏っている割に、それほど気圧されるような強さは感じないが。

かえってそれが可能性を示唆しているのは確かで……。



             



その隣に目をやれば。

ちょうどみなきのほぼ対面に座す、【喜望】派閥のリーダーにして数々のドラマを彩り歌ってきた伝説的バンド、

『ナイン・ヴォイド・ムーン』のボーカル、みんなのおやじこと梅垣大吾(うめがき・だいご)がいた。


みなきがやってきたばかりの時は、何だか彼にも凄く注目されているような気がしたが。

今は、根が真面目なおやじさんらしく、柳一の言葉に相槌を打ちながら耳を傾けている。


物凄い有名人……スーパースターなせいもあって、それこそみなきにも分かるくらいにビリビリとした気配というか、強さが感じ取れて。

彼がもし『災厄』に憑かれしものであるのならば、それこそどうしようもなく取り返しのつかないような気がしていたが。

みなきの興味はもしかしなくても、そんな大吾以上に異彩を、存在感を放っている……大吾の隣にいる青年、音茂知己に向けられていた。




「……っ」

「……じーーーっ」


と言うより、ひとたび直視したら、何だか魂でも吸い取られてしまいそうな気がして。

なるべく視線を合わせないようにしていたのだが、さっきからずっと見られているような気がしなくもなかった。


視界の端からでも分かる、漆黒に濡れたその視線に、外から見ると知己ってこんなにもちがって見えるのかと。

そんな彼をどうやって連れ出そうかと迷い悩んでいたわけだが。


何故だかみなきのことを気にしてくれているようだから、意外と簡単に作戦はうまくいくんじゃなかろうか、なんて思う一方で。

よくよく考えてみれば、今更恥ずかしすぎて、そんな風に誘惑するようなことなんて一度たりともしたことなかったから。

緊張してしまって落ち着かなくて、金縛りにあってしまったみたいに動けないのは確かであった。



結局、寿一の言う作戦……知己の期待? には応えることはできそうもなく。

そのまま、一度も知己の顔を直視、見つめること叶わずに視線を隣へと移そうとして。



             (第458話につづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る