第五十七章、『Blue Sky-Infect Paranoia~emergency sign』
第452話、己のすべてに意識向けない時点で、赤いサイレンの始まり
中の人が宇津木ナオ……外面だけ宇本孝樹であれているのかも分からなくなっているいちマネージャーは。
一つ息を吐き、ちょっと電話に出てきますと一言おいて。
一旦その練習場、リハーサル用の異世から出ていく。
「……はい、もしもし。わざわざそっちからかけてくるなんて、何かあったのかい?」
相手は、当然のごとく音茂知己である。
しかし、今回は屋代美弥に会いたいからと、すぐ抜け出して来るはずと言うか……
電話などせずに直接出向いてくると思っていたこともあって、意外なのは確かで。
何かしら上の方で問題でも起こったのか。
そう思い問いかけると、しかし返ってきたのは想定外に過ぎるというか、ナオ自身はまったくもって予想すらしていない言葉であった。
『……おう。いや、何かあったって言うか、上の人たちの話し合いでは特に何かあったわけじゃないんだけどさ。急に異世が展開されて、結局またしても寿一さんに会えなかったことくらいか。いや、そんなことよりちょっとばかり気になることがあってさ。そっちに行けそうもないんだわ。うずさんプロデュースの若い娘たちにはほんとに申し訳ないんだけど、また次回ってことにしといてくれ。いや、己も会いたかったんだけどさぁ……って、いたぁっ! また後でかけ直すわっ!』
「……え、ちょっと。どういうことだよ。何か大ごとサラッと流してねぇ? 結局何も伝わってこないんだが」
どうも、こっちの事がどうでもよくなるくらいの何かがあったらしい。
あんなにいつだって気にしていた美弥のことが話題に出てこないくらいなのだから、よっぽどだろう。
念のため、法久の方にも状況を伺うべきかと思ったところで。
向こうもそう思っていたのか、当の法久の方から電話がかかってくる。
『ナオくん! ともみくん、そっちに来てないでやんすかっ!?』
「あ? いや、来てはいないね。さっき電話はあったけど」
『ほんとでやんすかっ、ともみくんは、なんて?』
「何やら気になることがあるから、こっちには来られないなんて言ってたが」
『ナオくんプロデュースの娘たちに会いたいって言ってたのにぶっちするなんて、ともみくんとしてもやむにやまれずだったでやんすかねぇ』
よくよく話を聞くに、知己は会議も山場に差し掛かった頃、突然の異世展開に何かに気が付いたように、何かをキャッチしたかのように、その場を法久と圭太に任せ、忽然と消えた……飛び出して行ったきり帰ってこなかったのだという。
『こたびの【天下一歌うたい決定戦】を邪魔だてしかねない妖しい人物でも見つけとか、【災厄】の宿主でも見つけたか。何より優先すべき人……美弥ちゃんのことすら後回しにするくらいなんだから、きっとよっぽどのことがあったに違いないのでやんす。そんなわけでこの場は圭太くんに任せておいて、そっちのフォローはナオくんにお願いするでやんすよ。おいらはともみくんを追いかけることにするでやんすから……』
「お、おいっ。ちょっと待てって! この後どうフォローすりゃあいいんだよっ……って、切りやがった! ちくしょうっ」
向こう側で、ナオと同じように非難の声を上げているのは圭太だろうか。
知己が美弥より優先すべきものなんてないはずであるからこそ、何か尋常ならざることが起こっているのだと。
法久が焦る気持ちも分からなくはないが、体よく面倒くさい事、厄介事を押し付けられたような気がして。
思わず舌打ちのひとつもしてしまうナオ……孝樹。
それでも、伝えるべきことは伝えなくてはと。
自身の異世へ舞い戻ろうとした所で、その入口を出たところでつっ立って話していたのがそもそもの失敗であったようで。
孝樹の首下……ごく近くで不安げに孝樹のことを伺い見ていた風間真と正面衝突しそうになってしまって。
「うひょうぅっ!?」
素なんだかそうじゃないのか、ナオ自身でもやっぱり分からないままに、情けない声を上げて尻餅をついてしまう。
「……急に。頓狂な声を上げて。一体どうしたんだい? びっくりするじゃないか」
不用意に近すぎるんですよ!
なんて咄嗟に返そうとするも、それで距離を開けられるようになってしまうのも何だか嫌で。
慌てて本音を飲み込むナオ。
何やら問題があったらしい事に気づいたのか、よくよく見渡せばすぐそこで見上げてくる真だけでなく、まゆや麻理の姿もある。
ナオ……孝樹は気を取り直して深く息を吐くと。
狼狽え無様を晒したことなど無かったことにして立ち上がって。
そのまま口を開くのであった……。
(第453話につづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます