第五十六章、『Blue Sky-Infect Paranoia~パズル』

第447話、プロデューサーさんの正体は、きっと初めからつまびらかに



幾度となく、同じ世界を。

時間軸の異なる世界を。

分岐されたパラレルワールドを過ごしていくうちに、宇津木ナオが気づいたこと。


世界の滅び、終わりのきっかけ、始まりが。

ある時代、タイミングに集約していると言う事実。


それは、黒い太陽が初めて世界に顕現し、落ちたその瞬間である。



ナオは、何度となくその時その瞬間に自身を投げうったが。

未だその原因がはっきり分からないでいた。

世界の原型(アーキタイプ)とも言える最初の世界で、ナオ自身がカーヴ能力者としての一度目の死を迎えたから、と言うのもあるが。

とにかくそのきっかけに近づけば近づくほど、複雑に絡み合い、それなのにも関わらず能力者としての終わりの始まりに集約されてしまうからだ。




ナオは、今……現時点が始まりなのか、幾星霜の果てのものなのかも分からないままに、自らの能力【才構直感】を発動して。

そのタイミングを迎えるにあたって変化を与えるためにと別人……それこそ『もう一人の自分』へと成り変わった。


宇本孝樹(うもと・こうき)。

後にうず先生、うー先生などと呼ばれる事となる、新進気鋭のアイドルたちを育てるコンポーサー兼プロデューサーへと。



表向きは『天下一歌うたい決定戦』に、表裏関係なく出場、参戦する教え子たちのお目付け役兼マネージャーとして動くわけだが。


今回ナオ……孝樹は。

知己に懇願される形で急遽『天下一歌うたい決定戦』の表舞台に上がることとなった屋代美弥(やしろ・みや)と於部(おいべ)みなきのお守りをする事となった。

 



とはいえそれも、派閥のトップ会合に誘われ、今は席を外している知己が戻ってくるまでの話である。

むしろ、『会議なんてくそくらえ、己は美弥と一緒にいるんだい』、なんて駄々をこねる知己を説得するのに時間が掛かってしまい。

集合時間に遅れてしまうといった、本末転倒な展開になってしまって。





(……全く、度し難い。この気持ちは未だちょっと理解に苦しみますね)


ナオは内心でぐちぐち文句を言うも、永劫の刻過ごすうちに『大切な存在』について思うところが生まれて。

そう言いつつも心の奥底では分からなくもない、なんて気持ちにはなっていた。


それに、マネージャーであるくせに遅れてしまう、なんて展開も初めてのことである。

これは、何かが変わるかもしれないな、なんて思いつつも。

自らがプロデュースもしているバンド、『R・Y』の元へと急ぐ。



今回は知己の我が儘、ゴリ押しが通る形で『R・Y』のメンバーとともに、『位為』のホープ、於部みなきと。

知己に限らずデビュー前にも関わらず派閥の上層部からも認められ『畏れ』られている化け物ルーキー、屋代美弥の両名がセットで行動することになっている。

 

一応、くじ引きのトーナメント方式であるため、両チームがかち合い対戦(と言う名の歌合戦)となることもあるだろうが。

そうなった時には、そうなった時に考えればいいのだと言わんばかりに。

ナオは、2チームが開会式前に控えているであろう楽屋へとダッシュする。





辿り着いたのは、本来白球を追いかけしプロフェッショナルが着替えたり控えたりする一室。

しっかりきっかり、激しく絶対に聞こえるようにノックを6回ばかりして、返事が返ってきたのをしっかり確認し。

それでも入ってこないから痺れを切らせて向こう側から開けるのを待つ、といったとらぶる系主人公も真っ青な慎重ぶりである。



そんな、痛い思いをするかもしれないハプニングなんて結構だ、なんて気持ちは勿論あるけれど。

表には何があっても出しはしないが、どうしたって気になって仕方がない存在が、そう言うことに疎い所があるというか、全くもって気にしてもらえないからこそ、かえって対応に困るといった理由があるわけだが。



そんな、ある意味期待に反してひょっこりと顔を出したのは。

透影・ジョイスタシァ・正咲その人であった。




「あっ、うーちゃんせんせー、お~そ~い~っ!」

「……っ。すみません、すみません。ちょっとこの大会について上と話していたもので。何かありましたか? 何か足りないもの、必要なものがあればお持ちしますが」



いつもの正咲ならば、そろそろお菓子切れの時間帯であろう。

当然、いちマネージャーとしてメンバーそれぞれが欲しているものは用意している。


それより何より『ちゃん』付けはやめろと。

素が出てきてしまいそうになったが。

正咲としては、それどころじゃなかったらしい。


内心はともかく、へこへこしつつ正咲の大好物のひとつでもあるポテトチップスごいんだ(りんご)バター味を取り出したのに。

目もくれず首を振って正咲は引き続き訴えてくる。




「みなきっちゃんが、まだきてないんだよ。みやちゃんはもうきてるのにぃ」

「……えっ? それはまた、どうしてですか?」


これまた予想だにしていなかった、記憶にある限り今まで無かったであろう展開に、思わずしたり顔でほぅ、と言いかけて、何とか押し留める。



「みやちゃんがいうには、『私だけ所属派閥が違いますし、正直デビューもしていないような方達と馴れ合いはしたくありませんので本番までは席を外させていただきます』だってぇ! せっかく自己紹介……お友だちになりたかったのに」

「……あぁ、美弥さんはうちの『喜望』、『哀慈』の所属のようなものですし、1人だけ別派閥で気まずい所でもあったんでしょうかねぇ」




派閥のトップまで行けば、敢えて張り合いいがみ合っているようなスタンスを取っているんだ、なんて雰囲気はあるが。

於部みなきが所属する『位為』は、『喜望』や『哀慈』とは敵対関係にある。



表舞台の方はともかくとして、裏ではいつ異世に取り込まれ、寝首を掻かれてもおかしくはない。


ただ、『喜望』も『哀慈』も率先してそのような行動に出ることはまずありえないので。

逆に一緒にいることで、自分が疑われることの方を恐れたのだろうが……。



            (第448話につづく)







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