第401話、世界は変わっていくけれど、君と僕は変わらないよ、なんて
―――二対二。
能力者としての演習、カーヴを扱う者としての戦闘訓練でも、行った事がない組み合わせ。
それは、知己が規格外すぎて演習に向かない事や、その他の三人が戦闘に特化したタイプではなかったせいもあったのだろうが。
その真意のところは、やはり戦いたくなかったから、なのだろう。
大げさな言い方をすれば、敵に回したくないと思ったからこそ、チームを組んだのだと言えるのかもしれなくて。
「分かる、分かるぞぉっ、『パーフェクト・クライム』の扱い方がっ、なんたる、なんたる全能感っ!!」
最初に戦いの口火を……声を上げたのはやはりナオであった。
どこか白々しくも聞こえるその声は、言葉面とは裏腹に無理と我慢を強いられているのが伝わってくる。
恐らくは、『パーフェクト・クライム』の一部、かけらを植えつけられた事で必死に理性と戦っているのだろう。
知己が初めてそのかけらを植え付けられたものに出会った時、恐怖を覚えたのは間違いないが。
その感情は、相手の方が大きかったのだ。
恐らくナオは、知己以上に逃げ出したい、何もかも滅茶苦茶にしてなかった事にしたい気持ちに抗っているのだろう。
常人ならばすぐに心を囚われ、何が何だか分からなくなるはずなのに。
なんという精神力か。
そこまでして尚相対してくれている事に、熱くこみ上げてくるものを感じずにはいられない知己であったが。
戦いは、彼らが望むほどに長くはならないだろうと実感したのもその瞬間で。
「でええぇぇぇいっ! いでよ、完なるものの忠実なるしもべたちよ!」
「……【紅侵圭態】ファースト、『クリムゾン・トミック』」
ナオが衝動を吐き出すようにして両手を上空に広げると。
どこからともなく現れたのは、闇色の獣……犬や猫、うさぎのような愛玩動物であった。
それほど大きくもなく、数も十は超えない程度であったが。
そもそもが沸き立つ闇色のアジールが、今までナオが繰り出してきた形になった紅や死者と、一線を画すのがよく分かる。
『パーフェクト・クライム』に乗っ取られかけても、やはりナオは周りを指示し、命令するタイプなのだろうか。
ナオを囲むようにして、じっくり待ちで戦う算段らしい。
これは大分骨が折れるかもしれない、などと前言撤回で思っていると、すかさず圭太の力込められし言葉。
すると、それに呼応するように夥しい数の紅に透けた蝶が、その小動物の周りを覆ったではないか。
「触れたらまずそうでやんすねぇ。今までのアレの仕打ちを見ると」
「くっ。ほんとなら尻尾巻いて逃げ出してる所だぞっ」
本来ならば、お互いに戦う理由なんてない。
故に知己はそんな愚痴が出てしまった。
実際問題、この戦いから、異世から出るだけなら可能ではあるわけだが。
「やってみるがいいさ! 人質がどうなってもいいってんのならなぁっ!」
「……紅き蝶よ、展開せよ」
規格外で相手の裏を読むのが常な知己と法久ならばやりかねない。
あるいは本当の所は、人質など存在しない事に気づいてしまうかもしれない。
故にナオはそう挑発し、圭太は敢えて触れぬように蝶を飛び立たせ、知己たちを覆うように展開させる。
「言ってみただけだっての! きくぞうさんをどこへやった! 無事なんだろうなっ、もし何かあったら……お前らだって容赦はしねえぞっ!!」
「とりあえずは知己くんの後ろにドッキングオン、でやんすっ! いつでもどんぱちオーケーでやんすよおぉっ!」
何度も言うが、ここまでされて逃げるなんてもってのほか。
法久は弾幕めいた圭太の攻撃が当たらないように、知己の背中でリュックモードになり、知己は吠え叫びつつ、その両の手のひらに七色の渦を生み出す。
「……いくぞ。『オーバードライブ・リオ』っ!!」
相手の思惑に乗るように知己は人質の安否について問い質したが、それに対しての答えが帰ってこないだろう事はよく分かっていた。
今は、相手の目論見通りに停滞に沈まないよう、早め早めに手を打つ必要があって。
そんな風に聞いておきながらの、知己が現状できる一番効率的で威力の高い、文字通り必殺の一撃を打ち込んだ。
七色に染まり明滅する、所謂画面を覆い尽くすかのような、開幕ブッパな仕打ち。
現れた漆黒の獣たちも、紅の蝶も、もろとも飲み込んで、その向こうにいる圭太やナオを襲う。
それは、そもそもの目的がここから……異世の脱出であるからして、彼らごと異世を破壊するつもりで撃った一撃であった。
仮にきくぞうさんが囚われ、どこかに隠されているのならば。
その事で異世から解放されるのではないかと考えていたのもある。
「……ちっ、やっぱり駄目かっ!」
「さすがに簡単にはいかなそうでやんすねっ。実にお互いの手の内を知り尽くしてるって感じでやんすか! 『チェイジング』を使うでやんすよおぉ!」
思わず二人がそうぼやくように。
七色の極太の光条が吸い寄せられるように近寄ってきた蝶に触れたかと思うと。
まるで増幅して返すかのように、爆発、誘爆、連鎖し颶風となって知己たちの方へ迫って来るのが見えた。
やはり、知己たちの戦い方などお見通しなのか、ナオと圭太はその虹の光条や誘爆から身を守るように、ナオの生み出した黒い獣たちを文字通りまとわりつかせるようにして赤黒く滴る地面へ潜り込むようにして消えていくのが分かって。
法久もそれに倣い、いつの間にかちゃっかり放ち配置していたダルルロボと自分たちの入れ替え移動を試みる。
フレーズもなく、タイトルも中途半端な無詠唱に等しいものではあったが。
とにかく発動の時間が短く、颶風が届くよりも早く白色雑音の影に包まれるようにして二人はその場から離脱したわけだが。
「くうぅっ!? アウェー真っ只中であるからして、そんな予感はしてたでやんすけど、やんすけどっ!」
「まったく、大歓迎にすぎるぜ。モテるスターは違うってか! ……『オーバドライブ・クロス』っ!!」
儚い犠牲とともに入れ替わった事で顕現したその瞬間。
四方八方隙間なく紅、死者たち、黒い獣から紅い蝶までフルメンバーに囲まれていた。
正に罠、モンスターハウスのごときである。
何より性質が悪いのは、こうして知己たちが入れ替え移動をしてくるのを分かっていてダルルロボを生かさず殺さず囲み捉え続けていた事だろう。
思わず二人して声を上げたが。
でもそれはダルルロボの視点を借り、垣間見れる法久にはわかっていた事でもあった。
変わった瞬間、知己は力込められし言葉、新たなるフレーズを口にする。
それは、他の能力者、Aクラス以上の者達で言えば、『セカンド』に依るもので。
荒ぶる知己のアジールを、いつも以上に凝縮し、幾重にも重ねて身にまとい、七色に輝く鎧を作り出すものである。
「知己くんっ! 『I・F』作戦でいくでやんすよ~っ!」
「……おぉ! 何だか久しぶりな気がするなっ」
あまりに知りすぎ、手の内が筒抜けであるならば今までやった事のない作戦でいくしかない。
恐らく、圭太が『クリムゾン・バタフライ』として、今の今まで現れなかったのは。
ここまでの知己たちの戦いもしっかりチェックしていただろう事も理由の一つのはずで。
ならば新たなやり方を生み出していくしかない。
そう宣言するみたいに作戦名を轟かせると、法久は丸まって固くなり、完全リュックモードとなって知己の動きを阻害しないようにしがみつく。
知己がそれを確認する頃には、七色に輝き光るフルアーマーの戦士が誕生していて。
「……こんな事なら姐さんの剣、借りとけばよかったかっ!」
続き知己がそう叫んだかと思うと、その身一つでモンスターめいた群れに突貫していって……。
(第402話につづく)
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