第392話、致命的な失態による、ユメノオワリのはじまり
それから。
決定的な間違い……取り違いが起こるまで。
レミ=真は夢現の、半覚醒状態であった。
その時に気づいた者達、その中に幽鬼な知己もいたような気がしたが。
深く考え込んでしまった真に届くことはなかった。
それは、知己だけでなくこの世界そのものがまほろばであると、気づきすぎるくらいに自覚してしまったからなのかもしれなくて。
かつて、自分自身の能力にのまれ、滅び行く事となった梨顔トランのように。
それでも意識の内にこもっていたのはあくまてレミであって。
この世界の真は、ある意味シナリオ通りに日々を過ごしていた。
二班に分かれた歌合戦のトーナメント戦も、順当に勝ち上がっていた。
正咲たちメインの①班は、ベスト8までに当たった怜亜のダーリン率いる『AKASHA』班、『R・Y』にも掛け持ちで所属している母袋賢がいる『トリプクリップ』班に苦戦し、紙一重の所ではあったが。
くじ運がよかったのか、真たち②班は、一回戦の肝心な人物が一人足りない気がしなくもない『魔久』班に苦労したくらいで。
お互いにベスト4、次の準決勝で勝つ事ができれば、決勝で当たる事となって。
その前の準決勝、①班、正咲達が当たるのは。
『位為』所属、位為の長、更井寿一(さらい・じゅいち)率いる『+ナーディック』班で。
真達②班が当たるのは、何と今の今まで『喜望』の隠し玉として飛ぶ鳥を落とす勢いで上がってきていた『スタック』班であった。
まさに、幽鬼な知己や青いロボットな法久にとって、最も身近な、近しい者達の集まりである。
まずは、リーダーにして法久の昔の彼女と言う噂すらあった真光寺弥生(しんこうじ・やよい)。
同じく、血が繋がった妹だと知るまで真のライバル……彼女であると半ば確信を持っていた所のあった、聖仁子(ひじり・よしこ)。
そして、奇しくも真と同じようにファミリアを、それも人型を二人(稲穂拓哉と、小柴見あずさ)連れている規格外の少女、小柴見美里(こしばみ・みさと)の三人が、本来の『スタック』のメンバーになるわけだが。
榛原会長が、今の今まで仲間であると言ってもいい『R・Y』チームにまで隠していたのは。
臨時的に新しく『スタック班』に入った一人の少女と、一匹の犬型のファミリアにあった。
なんでも『コーデリア』の母、潤賀恭子(うるが・きょうこ)が経営、支えるカーヴ能力者養成施設、『青空の家』出身の虎の子であるらしい。
虎であるのにうさぎであるとはこれいかに。
その少女は、白いショートカットに赤い瞳の、黒猫ジーニーが大分気にかけていた阿海真澄(あかい・ますみ)その人であった。
彼女の長年の相棒にして、頼れるファミリア……スピッツ犬の女の子である彼女は、アキラと言うらしい。
以上の7人が『R・Y』②班の準決勝の相手。
くしくもレミが『戻って』きたのは。
その今まで隠されてきた一人と一匹と邂逅する事になる、準決勝の舞台であった。
『―――さてっ、準決勝第一試合は、下馬評を覆しのし上がってきたダークホース二組の争いであります! しかも同盟派閥(プロダクション)対決です! あ、ちなみに準決勝第二試合も同盟派閥同士の対戦ですが……そちらと比べても、この二組はサブチームとしてあまり注目されてはいませんでしたが、もうそんな事は言わせません! 大注目のカード! では早速チームの紹介から参りましょう!』
そんな実況の声があまりにも大きくてレミは覚醒した……わけではないのだろうが。
真の瞳を通して視線に入ってきた一人と一匹に。
引っかかるもの、すっきりしない違和感を覚えたのだ。
(アキラ……晶? まさかっ)
レミ自身のファミリア。
分身……妹とも言える少女と同じ名前。
果たして偶然だろうか。
本来なら、『魔久班』であるはずの真澄がそこにいて。
彼女を従えているのは、一体どういう事なのか。
「なぁ、真っち。あのかわいいわんちゃん随分熱心に何か合図送ってるのたまんないんだけど、真っちの知り合いなのか?」
そんな事を考えていたら、気にしているのは向こうも同じだったらしい。
真に耳打ちするみたいにそう言う幸永の言葉に、そんなはずはないのだけど……と返しつつも。
前足を上げながらきゃんきゃんと吠えているその様は、どこか焦っているように見えて不安になってくるのは確かで。
その、全てを砂上の楼閣のごとく崩してしまいかねない焦燥と不安の答えは。
チームの紹介を終えて、いざ集団戦開始の合図の号砲が鳴ったその瞬間であった。
『おーっとぉ!! まずは一騎打ちをご所望なのか、阿海真澄選手前に出たぁーっ!
対するのは風間真選手のファミリアの一人、ジーニーくんだぁあああっ!』
「……っ!?」
何故、どうして。
いつの間にやら傍を離れて。
長年探し続けて見つからなかった相手を見つけたような顔をして。
お互いの距離が縮まっていくのを、呆然と見ているしかない真。
もう、そこから既に、吐きそうなくらいの違和感は始まっていて。
『おお、いきなり能力を使わずの近接バトルかぁぁっ!? ……いやっ、違うぞぉっ。これはああ、なんと! ハグをしたあっ! 一体全体どういう事なんだああぁっ!!』
そして、そんな実況をバックサウンドに。
この夢物語の『さわり』の部分が始まっていく……。
(第393話につづく)
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