第四十九章、『恋は終わらないずっと~マスカレード』

第391話、喧嘩するほど仲がいいだなんて煙は立たない



―――『LEMU』、レミの夢の異世。



「……あ、うず先生っ」


これは結構いける所までいけるのではないかと。

『R・Y』①班と比べて、主力の少ない②班としては、有意義な時間を過ごしていると。

不意に顔を上げてその名を呼んだのは恵であった。

作戦会議も一段落した事で、つられるように皆がそちらに視線を向けると。

 

その視線達に慣れていないわけでもないのに。

見つかっちゃった、とばかりにびくりとしつつも。

やっているようだねと、軽く手を上げて近づいて来るうず先生こと宇津木ナオプロデューサー。



「うず先生……か。最初にちらっと見た時に思ってたけど、正直初めて会った気がしないんだよなぁ」

「……っ」


単純に②班の様子を見に来たのもあるのだろうが。

その理由のほとんどは、真とともにいきなり現れたファミリア三体の馴れ初めから人となりまで、『R・Y』のトップとして色々と知りたかったというのもあるのだろう。


はたして、うず先生から見た幽鬼な知己に対しての印象はどうなのか。

しかしそれより早く、しみじみと呟いたのは幽鬼な知己の方であった。

今の今までかわいい小さな少女(二重表現)達には大いに反応してはいたが、ここまでの反応はこれまた初めてで。

 


「自分のこと、なにか思い出せそう……かい?」

「う~ん。どうなんだろう。知っているような気はするんだけどなぁ。なんて言えばいいのかな。懐かしいって言う感情よりは何となくマイナスよりにあるというか……うまく言えないんだけど」


それはつまり、どんな感情なのだろう。

前世……現実では『ネセサリー』から早くに脱退し、若手の指導をしていたうず先生。

やっかみも含め、周りからはその理由に対し様々な憶測が飛び交ったが。

表向きには環境を変え、新しい世界に飛び込んでいきたいといった理由があって。 レミが出会ってからの知己達は、うず先生脱退に関しては口にする事がなかったため、真実は分かりようもなかったわけだが。



懐かしさよりもマイナス。

ある意味知己らしくもあるその表現は、少なからず二人に間に何かあっただろうことは容易に想像できて。




「ええと、あなたが真の……噂のお兄さん、新たなファミリアさんですか。はじめまして……って言うには違和感がありますねぇ。どこかでお会いしたこと、ありましたっけ。どうもお抱えの娘たちのことを覚えるのに精一杯でして、すみません」


そんな真と知己のやりとりが聞こえていたのだろうか。

何においても当たり障りのないうず先生にしては珍しささえ感じる、どこか皮肉めいた、奇しくも知己と似たようなセリフ。



「こちらこそすいません。どうも一度死んで化けて出ているようでして。生前の『己』が何かメイワクをかけていたかもですね。実はこちらもあなたと初めて会った気がしませんで」

「ああ、こう言っちゃなんだけど、榛原会長と似てるからそう思ったのかな。……まぁ、僕もおかげさまでメディアに出る機会も増えましてね。どこかでお目汚しの機会はあったのかもしれませんが」



そんなやりとりの中、自己紹介し合う二人。

ジーニーやノリもいるのに、おかまいなしなのは。

もしかしなくても喧嘩するほど仲がいいと言えるのかもしれなくて。



「あれ、今もしかしなくても結構な侮辱を受けたような……」

「そんな、滅相もない。派閥のトップに立てる器がありそうだと申したまでですよ」


間近で見ていた恵が、けんかはだめですよと泣きそうになるくらいには気安いやりとり。

知己は……あるいは真は気づいていただろうか。

幽鬼な知己が、文字通り己を取り戻し始めているという事に。





―――いいかい、『ネセサリー』には気をつけるんだよ。



その時、真の心中にフラッシュバックしたのは。

前世、現実でも黒い太陽が落ちる前に、『R・Y』の原型のようなものが結成されていて、その中にレミ=真も当然いて、今際に聞かされたそんな言葉であった。


単純に受け取れば『ネセサリー』の誰かが『パーフェクト・クライム』……完なるものに関わっているとも受け取れるそれ。


初めから紅粉圭太と、そう口にした宇津木ナオ本人はその誰かから外れていると思い込んでいたが。

それが自分ではないと否定していなかったのも確かで。



(だから、うず先生は脱退したの?)


あるいはその逆。

出会った当初から、実の所真が疑っていたのは知己と法久で。

そんな二人と一緒にいられないからと、うず先生は離れていったのか。


答えは出ない。

知ったら終わってしまうから。

 


それは、間違いなく。


この夢などではなく、現の世界すべてに関わってくるような気がしていて……。



            (第392話につづく)







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