第390話、ほころびはまた広がって、何かが顔を出した
真は話題を変えるように、先立って作戦会議の話し合いを始める。
「……対戦する相手の情報を得るのは大前提だけどね。一応一回戦の相手の資料はノリがもっているから、しっかり見ておいてほしい」
元々ノリ……法久のファミリアは情報収集と看破鑑定に優れたファミリアである。
せっかくだから使えるものは使おうと目配せすれば、何故か少しばかりフリーズしたような間があった後。
改めて再起動し、準備万端でやんすよ、とばかりに恵(リア)の胸の中で暴れもぞもぞして。
くすぐったがって腕の拘束がゆるんだそのタイミングで、やんす! と一声鳴いて、最早お馴染みの一回転。
そのまま後頭部を見せつけたかと思うと、後頭部がかしゃっと開き、中から脳みそ……ではなく、小型のスクリーンが出現した。
「あわわ、くっ、くすぐったいです。リアだけ見えないじゃないですかぁ」
「すっげぇ、ただの鉄っぽい人形じゃなかったんだな。意外とハイテクだし」
素直に驚きのリアクションを取る知己に、口の部分がちょうど胸元にあたってくすぐたそうにしている恵(リア)。
そう思うのなら離せばいいと思うのだが、それでもしっかり抱きしめ直している天使の様は、もう筋金入りと言えるのかもしれなかった。
「ははぁ、いつの間に調べたのやら。相手の所属どころか能力まで詳しく書いてあるじゃない。一回戦の相手は、『位為』所属、『魔久』班かぁ。とりあえずダーリンのチームじゃなくてよかったかな」
そんなわけで、恵(リア)を中心に集まる形となった『R・Y』のその2チーム。
そこで、それまでナオプロデューサーと何やら話し込んでいた、ベース担当の石渡怜亜が、何だか楽しそうな事をしてるじゃないとばかりに。
ミーハー女子らしく駆け寄ってきていつものお決まりのセリフを呟いていた。
ダーリン、『喜望』派閥所属の、男性グループ『AKASHA』のリーダー、王神公康のことであり、世間にも大いに知られている公認のカップルである。
王神の方はわからないが、怜亜はとにかくダーリンにしか興味がないので、期待はしていなかったが。
やはり知己どころか目立つノリやキュートなジーニーにもそれなりのリアクションしかなくて、分かってはいたけどハズレかぁ、などと。
聞きようによっては失礼なことを真が考えている中。
所謂青木島法久の『スキャンステータス』を簡略したものを、モニター越しに改めて皆で見てみる事にする。
「『魔久』班ね。確か気のよさそうなにーちゃんがリーダーだったよな。阿蘇敏久だったけか」
ノリの『スキャンステータス』もどきによると、『魔久』班はヒップホップ&フォークといった、あまり聞かない珍しいジャンルのアーティストで。
リードボーカル&リーダーの阿蘇敏久、ラップ担当の阿南裕紀、フォークギター担当の阿智由伸の三人組であるが、今回はそこに『ZANETETE』の本間と垣内(和楽器デュオ)と、シンガーソングライターの鶴林一太の六名で参加していた。
「能力までわかっちゃってるです? 何だか楽しそうな能力ですねぇ」
上から覗き込むような形で、恵(リア)らしい感想を述べる。
確かに、『魔久』班はランダム性の強い、恵(リア)の言う面白い能力がそんな中、『R・Y』班2チームそれぞれが、何やかや考察を始めている中。
真は登録人数が7人までであるのに、6人しかいない事に着目していた。
あくまでチームごとの最大であって、必ずしも7人いなくてもいいわけなのだが。
前世……現実の世界で初めて『喜望』ビルに向かったその日に、それこそ軽く自己紹介した程度ではあったが、『魔久』班にもうひとりいたはずなのを思い出したからだ。
チームの紅一点で、本人はそれを隠したがっていたが、それこそまさにかわいらしいうさぎのような目立つ出で立ちをしていたので真はよく覚えていて。
「真澄さん……だったかな。どうしてここにいないのだろう」
「みゃっ!? みゃみゃんっ!!」
「うおわぁっ、す、すまん。痛かったのか?」
感じたのは、些細とも言える世界のほころび。
真としては、独り言のつもりだったのだが、その薄い透けたような黒い耳には届いていたらしい。
擦り切れるほど撫ぜられていた黒猫のジーニーが、ハッとなって飛び上がったかと思うと、驚きとどまっている幸永の手が離れた隙に、何事かという勢いで真のもとへと駆け寄ってきたではないか。
「みゃんみっ!? みゃんみにゃ、みゃむにっ!」
前足ですがり付いてくるかのような、思えばここまでで一番のリアクション。
必死に何かを伝えようとしているのは分かるのだが、そもそもこの夢の世界への召喚が不完全であったため、どうしても真にはその言葉が理解できない。
ただ、呟いた言葉に反応したとするならば、真澄という少女が彼にとって大きな存在であると伝えようとしているような気がして。
「不安に思う事はないわ。ここに全ての人が登場できるわけではないし、いないのならば逆に向こうで無事にいる、ということなのだから」
「……みゃん」
脇から抱き上げるように持ち上げて、真の口からついて出たのは、本当に言いたかった言葉とはかけ離れた信ぴょう性の薄いセリフ。
―――あなた、本当に知己さんですか?
聞きたかったのはそのこと。
だけどどうしてか、真はそれをはっきり口にできず、薄っぺらい言葉で誤魔化してしまった。
それは、中身が知己でないだなんて、信じたくないというよりも。
そう問いかける事で大切な存在が『別にいる』という事実を突きつけられてしまうのが、たまらなく嫌だったからなのかもしれなくて。
「おお、大人しくなった。かわいっ。さすがご主人さまだぜ」
「……あまり調子に乗って撫ぜすぎると、嫌われるよ」
「うん、すまん。あまりにも触り心地がよかったもんで」
そんな自分自身の思考を逸らすかのように、慌てて近寄ってきた幸永に最もなアドバイスをする。
「ちょっとぉ、猫ちゃんと遊んでばっかいないで、作戦会議に真面目に取り組みなさいよ。……意外と侮れない相手なんだから」
それが、会議そっちのけであやしじゃれているように見えたらしい。
幸永とともに、素直にごめんなさいと謝って、再びノリを中心に顔を突き合わせての作戦会議。
と言っても、ほとんどズルに等しいノリの情報開示のおかげで、相手の個々の戦力どころか、弱点まで丸裸にされてしまっているので。
申し訳なくも議論が白熱しそうになかったわけだが……。
(第391話につづく)
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