第389話、確かめるように名前呼んでみても響くのは……



「もうみんなわかっていると思うけど、今日の本戦から個人戦とチーム戦の二つがあるよ。個人戦に出るのは、今回は正咲、幸永、怜亜、蘭の四人。チーム戦は、『喜望』のコーデリアチームとのタッグもあるから、二組つくることにするから。

一班が、コーデリアの恭子さんと瀬華さん。そこに正咲、蘭、麻理、マチカ、奈緒子の7人で、二班が真(知己、ジーニー、ノリ)、恵(リア)、幸永、怜亜の5人と一匹と一体で決まったからよろしくね。各自呼ばれるまでじっくり作戦を立ててチームワークを高めておくように……」

「「「「「「はいっ」」」」」」



個人戦は、同チームから四人まで。

チーム戦は、ファミリアを含めて最大7人でかつ二組まで、出場が可能となっている。


個人戦に出る四人は連戦になってしまうが、今日は取り敢えず団体戦のみとのことなので、若桜組とそうでないものたちに分かれるとぴったりなのは、果たして偶然かそうでないのか。


真が三人? ものファミリアを連れてくるなどと真本人にも予想だにしていなかったからして偶然ではあるのだろうが。

それでも決められし結末を示す夢であるからして、何か大きな力が働いていると確信をもって止まない真である。


そんな中、前回の打ち合わせでは折りが合わなくてあまり話す機会も、しもべたちを紹介する事もなかった四人であるが。

マチカも奈緒子も、前世界でもそれほど知己と深い関係ではなかったせいか、お互い何か記憶を刺激する事はなかったようで。


今回同じチーム、『R・Y』2班となった怜亜や幸永も、そもそも現実……前世界で会った事があるかどうかも怪しくて。

みんなとびきりかわいいねぇと、知己が感心しきりで頷くくらいで。

でもやっぱり真ちゃんが一番かわいいね、などといった家族フィルターからくるであろう言葉を、スルーしようとして出来ないでいる真の、普段あまり動かない口角が上がりっぱなしになっていた事以外、特に何があったわけでもないわけだが。



何故かおまけでしもべな青いロボットと黒猫さんは、チームの少女たちに大人気らしく、恵(リア)は懲りもせずノリを捕まえて離さなかったし。

中身男前外見凄絶な典型的金髪碧眼美少女な幸永は、今や懐かしのヤンキーあるあるで、ダンボール箱に入りそうな小動物には弱いようである。


まぁ、言うほどヤンキーでもなんでもないと言うか、蓮っ葉で威勢のいいだけの良い子で、心底嬉しいのをこらえようとしてできないでいる様は、知己でもなんでもやられてしまう事だろう。


事実、作戦会議そっちのけで頭から背中まで撫でられている(抱っこしたりしないのがミソ)黒猫……咄嗟にジーニーと名付けた彼は。

時折空気を吐き出すみたいな鳴き声を上げるだけで、大人しくしていた。



外からぐぐっとストライクゾーンに入ってくるような好みのタイプだからと、真は納得していたが。

当初の予定……夢の設定では黒猫の知己と会話できるはずであったので、その緑色の瞳を除けば、ごく普通の猫に見える彼を見ていると、漠然とした不安に襲われるのは確かで。



……もしかしたら真は、自らで気づいていたのかもしれない。

同一世界に同じ人物が存在できないように。

この世界に知己は幽鬼な知己しか存在し得ないということを。





「作戦会議、始めたいのですけど。真さん、だいじょぶですか。やっぱりどこかぐあい悪い?」


一旦悩み考え込むと、周りが見えなくなって塞ぎ込むような形になってしまうのは、真の悪い癖であった。

遠慮がちな幸永と違って、かわいがる? 事に手抜かりない恵(リア)は。

変わらず青いロボット……ノリを胸の中にひっしと抱き込みつつ。

真の瞳の向こうを覗き込むような勢いでそう聞いてくる。


もう完全に降伏したのか、天使の腕の中の居心地を堪能しているのか。

ノリ……法久のファミリアは、相変わらず「やんすぅ~」などと呟きつつも特に抵抗する事なく、仄かに光る赤い瞳を明滅させていた。



様子がおかしいと言うなら彼もそうなのだろう。

口から生まれたようなキャラが、「やんす」しか言えないのもそうだが。

ここに来たばかりの頃はぶんぶんとハエのように飛び回って(ぶんぶんは足元のジェットの音)いたのに、今は飛び方を忘れてしまったのか、あるいは操縦の仕方を忘れてしまったのか、今のように人に運ばれなければ動かないくらいずくやんで(やる気がなくなるの意)しまっている。


まぁそれは、失ったものをようやく見つけて、もう離さないですと言って気づけば肌身離さずにいる恵(リア)の存在があるからこそ、なのかもしれないが……。




(そう言えば恵(リア)は、ノリと同型のファミリアを目の前で失っていたんだっけ……)


あくまでも前世界、現実の話ではあるが。

真は知己の事ばかり考えていて、少し思い違いをしていたのかもしれない。


皆が皆、知己ばかりを重視しているわけではないのだ。

黒猫(ジーニー)はともかく、ノリは真がこの世界のキャストとして望まなかったレギュラーではあるが、それでも何かここにいる意味はあるのだろう。


あるいは、少しでもリアの心が救えたのなら、価値はあったのだ。

今まで望まぬからとぞんざいな扱いをしてきたのは否めないが、改まってノリを含め、よく見ておく必要があるだろう。

真はそんな風に、悩み込んでいた思考をまとめ、心配してくれている恵に大丈夫だよと頷いてみせた。



「……まぁ、少なからずファミリアを三体同時に具現化、あるいは従属させるには一人では荷がかちすぎるところだけど。これはオフレコ……いや、ここだけの秘密だけど、彼らは三者三様で自発的にわたしについてきてもらっているだけだからね。特に疲れる、と言う事はないんだよ、実は」



千夏マネージャーあたりが、幽鬼な知己は真とファミリア契約をしたから動けているといったような話をしていたが。

実のところこれといった強制力の働くようなものを行使した記憶はなかった。


ファミリア契約にあたるものとして、名づけなどはもしかしたらその範疇なのかもしれないが。

彼らがここにいることで、気苦労などがあったとしても、能力の源泉を消費しているという事はないので、問題ないとばかりに笑ってみせる。

慣れず、ぎこちないそれがうまくいっていたかどうかは何とも言えなかったが。



そんな風に本当の痛みを無視しつつ。

真は話題を変えるように、いい加減にと言わんばかりに。

作戦会議の話し合いを始める事にしたのだった……。



            (第390話につづく)









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