第四十八章、『もしも~Summer boy's tears』
第383話、枯れ果てそうな世界と、生まれ変わる新しき世界の融合邂逅
現実……元世界がそんな事になっているなどとは露知らず。
黒おかっぱの不思議少女、レミと。
羽もないのにジェットで空を飛ぶ、青メタリックなロボットの法久?と。
緑の瞳の黒猫に姿を変えられてしまった、中身が阿蘇敏久に成り代わっているのかもしれない一匹は。
恐らくは黒い太陽の落ちなかった未来とされる夢の世界において、幽鬼な地縛霊のごときキャラ付けのされた知己とともに、ある場所へと向かっていた。
「『きぼう』って名前のプロダクションかぁ。何だかとってもセンスがあって好きな感じの名前だなぁ」
この未来の世界は、子供の頃の思い出に等しく。
今のレミにとっては黒猫も含めて知己が二人いるようで、不思議な感覚であった。
僅かに透けているので肌の色ははっきり分からないが、ここにいる知己と黒猫となる前の知己は、ほとんど変わりがないように見える。
強いて言うのならば、幽鬼のごとく瞳が前髪に隠れていて、その存在の希薄さゆえなのか、少しばかり大人しい気がしなくもなかったが……。
久しぶりに会えたからなのか、饒舌で楽しそうで。
何だかそれだけで嬉しくなってしまうレミである。
一方で、黒猫と青ロボットのリアクションは反応に戸惑うものであった。
レミと同じく知己の事は見えているようなのだが、何故か法久はせわしなく手を動かしたり飛んだりきょろきょろしたりするものの、「やんすっ」の一言しかしゃべらないのだ。
恐らく、勝手についてきた弊害で、音声機能を細かくは持ち合わせなかったのだろう。
黒猫(in知己?)は、知己がこの世界に二人は存在できないと言う世界の性質プラスアバターがそれしか用意できなかった事もあって。
にゃんにゃん必死に何かを伝えようとするも、結局何を行っているのか、伝えたいのか分からず。
しゅんとなって丸くなるのも可愛いといった風に、お互いどうにもうまくいかなかった。
傍から見れば小学生の頃からアーティストとしてデビューする事となるその未来まで不思議(ミステリアス)な少女として通っているレミ=風間真(かざま・まこと)の、まさに宜しくない面目躍如、といったところだろうか。
幽霊な知己(お兄さん)には悪いが、軽くその言葉に頷いてみせただけで気の利いた返事はできなかった。
元々、幽鬼のごとき知己と出会ったばかりの頃のレミ……真は、引っ込み思案で口数の少ない所があったため、「お兄さん」にとってみれば承知の上というか、昔に戻った程度の感覚だったのかもしれない。
レミがレミでなくこの世界の自分自身、真に落ち着き統一されていく感覚に陥る中。
幽鬼な知己はさほど気にした風もなく、久しぶりの邂逅+共に行動する……動けないでいたはずのあのベンチから動けた事の高揚感を抑える事もなく言葉を続けた。
「プロダクションって言うからには、芸能事務所的なところなんだよな。もしかして俺って有名な俳優とかだったりするのかい?」
「みゃうーん」
「……やんすっ」
これは、ここにいる幽鬼な知己が忘れ去った自分を取り戻すための道行き。
加えて現実……元世界の知己や法久にあるはずの未来の一つを見せると言う意味合いを持っている。
本当に自分の事を何も覚えていない幽鬼な知己に対し、
会話の成り立たないように見える一匹と一体は、かたやそんな知己を見て不思議そうに。
あるいはどこか呆れたような気がしなくもないへんてこな鳴き声で知己の周りを飛び回り、あるいは先導するみたいに振り返り振り返り歩いていた。
「別に、お兄さんが所属してるわけじゃない……よ」
元世界の知己であるならば、俳優といった仕事もこなせそうではあるが。
『喜望』は主にミュージシャンが所属するプロダクションである。
知己たちだけに聞こえるようにそう呟いたレミ=真の目前には、その煌びやかな威容を誇る、どの世界でもある意味不変であるビルが建っていた。
「なんだ、違うのかぁ。なんていうかさ、思い出せないかわりに俺って芝居とか向いてるんじゃって思ったんだけど、あてが外れたかぁ。……となると、真ちゃんがアイドルなのか? ただものじゃないとは思っていたけれど」
そう言えばこちらから名乗っていたんだとは今更ながらの事で。
返ってくるはずの「お兄さん」の名前がそもそも本人も分からなかった事が全ての始まりであった、と言う事を思い起こすレミである。
「……わたしたちとしては、あまりそうは呼ばれたくないのが本当の所なのだけどね」
先ほどから、内々では確かに知己であるとその名を示してはいたが、本人はまだその自覚はなさそうであった。
これから、真と彼女を取り巻く世界を垣間見る事により、知己は自分を取り戻す事はできるだろうか。
売れるためにはそう呼ばれる事も許容せねばならないと自覚しつつも、反発したい自分がいた事を思い出し……更にレミは真と同期していって。
先行しかけている黒猫の方の知己? を拾い上げ掲げ上げ、両開きの自動ドアへと足を踏み入れる。
その先にあったのは、最早馴染み深すら感じるエントランスホール。
うす暗い年季の入ったシャンデリアの灯りの下には、レミの分身(ファミリア)である沢田晶が『喜望』の派閥へ入るためにとやってきた時と同じ……あるいはそれ以上の活気をもって幾人もの力あるアーティスト達が、一堂に会していた。
何故ならば、今回『喜望』が主催する、ミュージシャンの能力を持って競い合う音楽番組の、オーディションと言う名の、その実既に出演者の決まっている打ち合わせが行われるからだ。
一見すると、ありふれたテレビのコンテンツの一つではあるが。
参加者がカーヴ能力を持つものの集まりであるとなると話は変わってくる。
テレビ越しで歌えばただの音楽番組であるのだが、能力者達の視線で見ればこれはある意味能力を駆使した戦いの祭典……所謂異種格闘技大会の様相を呈していた。
ここに来て、この世界の真と同期するまでレミは失念していたが。
真の所属するガールズバンド『R・Y』は、力試しの意味合いもありつつも、『R・Y』を取り込み滅しようとする敵派閥との正式なルールに則っての戦いに漕ぎ着けた形になるのだろう。
敵も味方も関係なく、多くの者たちがここにいる。
果たして幽鬼な知己は、彼らと触れ合う事で何か思い出せるのだろうか。
黒猫の中の傍観者たちは、何かに気付けるのだろうか。
内心では色々な意味で落ち着かないまま、レミ=真は何でもない澄ました様子で人の群れを睥睨する。
ファミリア同伴OKとはいえ、珍妙な組み合わせで目立つ事に変わりはないレミたち一行。
その中心となるレミが、そんな考え事で入口で立ち尽くし、そのある意味しもべたち……一人と一匹と一体もそれに倣って動けないでいると。
元々気にかけてくれていたのか、飛びかかって抱きつかん勢いで最初に駆け寄ってきたのは。
『R・Y』のボーカリストにして真の親友、その一人である透影・ジョイスタシア・正咲その人であった。
「ちょっとぉ! まこちゃんおそいよー! もう打ち合わせ始まってるんだよー……って、なになに? なんだかたくさんつれてきたね。あっ、この子もしかしてまこちゃんが言ってたねこさん? かーわいーっ!!」
同年代なのに、頭一つ大きい(真が見た目の雰囲気に反して小さいとも言えるが)正咲は。
薄い割にふかふかの胸で相手の事などおかまいなしにぎゅうとした後、せわしなくぱっと離れて。
最初に注目したのは。
ある意味同族のよしみであるからなのか、黒猫の姿を取った知己? で……。
(第384話につづく)
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