第362話、まほろばの光見て、焦がれるから……
何が起こるかわからない。
自分の能力に今更ながら驚かされつつも。
気づけばレミ達は本来なら最後に見て回るはずの、救われし新しい未来……異世界へと飛ばされてしまっていた。
そこは通称パンダ公園と呼ばれる場所。
「ぁ……」
久しぶりに、レミ本来の故郷に帰ってきたからなのか。
この世界には元より存在しないはずの男が幽鬼に透ける身体を揺らしながら。
いつでも手持ち無沙汰に、ひとつ置かれたベンチに変わる事なく座っていたからなのか。
レミは思わず呆けたような声を上げてしまう。
「みゃみゃっ!」
「んっ? あれ、今度はえっと、どこでやんすか? なんだか見た事がある場所でやんすが……」
法久(キューバレ)がハッとなって我に返り、しかし幽鬼な人物が見えなかったのか、きょろきょろとまる人間みたいに視線を彷徨わせながらふよふよと秋空に飛んでいく中。
黒猫はどうして、とばかりに背中の毛を逆立てて驚きの鳴き声を吐き出している。
当然、目と鼻の先にいるからして、レミ達の存在に気づいたらしく、ベンチの主も緩慢に……だけどはっとなって顔を上げた。
「随分と久しぶりだね、マコトちゃん。……おや、緑目の猫ちゃんもいるんだ。やっぱり君のうちの子だったんだ。それから、ええと……なんだい? 空飛ぶロボット? 中々個性的なお友達をつれてるねえ」
見た目よろしくラジコンのように空で遊ぶ法久(キューバレ)を見上げつつ。
儚い雰囲気とは裏腹に、たまっていた鬱憤を吐き出すかのように喋り出す、泣きぼくろが特徴的な黒髪の青年。
この故郷で邂逅したのはもっと小さな頃だったはずなのに、まだここにいるのか。
それとも、小さい自分がどこかにいる、過去の世界なのか。
ややこしさと懐かしさで戸惑い、黒猫をギュッと抱え込みつつもレミが何も言えないでいると。
何かを勘違いしたらしく悲しげな呟きが返ってくる。
「……そっか。ついにマコトちゃんにも僕が見えなくなっちゃったのかな。言われてみれば背、大きくなった? 女の子の成長は早いんだねぇ」
中性的で艶美な青年は自覚している。
自分が、触れられず、見えない……幽霊のごとき存在であると。
カーヴ能力なくとも小さい頃から『みえないもの』を視る力を持っていたレミ……風間真(かざま・まこと)は。
そんな彼にとってたった一人と言ってもいい話相手だったのだ。
その頃はまだカーヴの力も知らず、友達とも出会っていなかったため、その力を気味悪がられ、周りから避けられていたのを覚えている。
だからこそ、レミにとって彼は心の拠り所であり。
誰も見つけてくれず、話仕掛けてもくれなかった彼にとっても、レミは間違いなく大きな存在だったわけで。
「大丈夫、見えてるよ、『知己』さん」
レミは慌てて駆け寄って、そして初めて彼の名を呼んだ。
彼自身の記憶になく、レミに対して名乗った事もない……そんな名前を。
「なんだ、いつものようにお兄さんって呼んでくれないのかい?」
「……つっこむところ、そこなの? せっかくお兄さんの探し物のひとつ、見つけてきてあげたのに」
「そうだったんだ。しばらく見ないと思ったらそんな事を……ううむ、しかし『ともみ』かぁ。女の子みたいな名前だねぇ」
呼ばれて思い出し……もとい、しっくりきたのは確かだったのだろうが。
苦笑してしみじみ呟く様子が、他人事みたいで何だかおかしかった。
そう言えばそんな話題になった事なかったなと、レミが黒猫を伺うもニャーミャー鳴いているだけで自分自身を見たリアクションは汲み取れなくて。
「知己兄さん、それじゃあ残りの探し物も見つけにいくよ。みんなで探せばすぐ見つかるから」
「猫さんとロボットさんはそのための助っ人ってわけかな。そこまでされちゃあいい加減重い腰を上げないとね」
探し物は、彼の記憶。
そして来歴。
何故、平和な可能性の一つであるこの世界で、幽鬼な存在でここにいるのか。
それを暴く事は、決して彼にとって幸いではないのかもしれないけれど。
悲劇を避けるために。
予め知るために。
レミは懐かしき故郷へと探索の旅に出るのだった。
「……あれっ、そこに透けて見えるの、もしかしなくても知己くんじゃないでやんすかっ!?」
「うわ、しゃべった。しかもすっごいキャラ濃いな」
「みゃんみゃん」
ユーレイとクロネコと青いロボット。
奇妙なお供を連れて。
それが、夢のように儚いまほろばであることに。
ひょっとしたら、レミだけが気づかないままで……。
(第363話につづく)
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