第361話、物語の垣根を超えて、刹那の共演
「……うおっ。飛んでる飛んでるっ。ほっ、今度はなんとかなったか」
急いでいるせいか、一時墜落しかけたが、法久はなんとか立て直し黒くろコンビに追いつく事に成功する。
のろのろやっとこさの飛行でも追いつけたのは、第一村人……ではなく、この夢の未来の世界において、初めての会話のできる人物とやり取りしていた故だろう。
「晶ちゃん……なの?」
「えーっと。そうだといえばそうなんですが……違うと言えば違うような」
「……っ!」
そして、レミをそう呼ぶ、ボンッキュッボンなナイスバディの少女は、見覚えどころかばりばりのさっき会ったばかりの人であった。
未来だからなのか、退廃的と言ってもいい色気の増した、聖仁子その人である。
その後ろには、知らない男女が一組と、小悪魔チックな桃色ポニーの妖精さんがいたのだが、レミ自身もいきなり知り合いに会えると思っていなかったのか、随分と動揺しているようで。
そこで会話が止まり、その場にはどこか張り詰めた空気が漂ったが。
そんな空気を破ったのは、大人仁子の後ろにいたとにかく色々な意味で目立つ三人……二人と一匹のうちの一人、長い長いひまわり色の髪の、派手派手な桜色フリル付きのドレスを着たスタイルのいい長身の少女であった。
「おお。日本人形みたいなおかっぱ美少女に、某魔法少女の使い魔っぽいクロネコさん……それと、えと。宇宙人? あいや、ロボットなのかな。どこかで見た事がある気がするけど、組み合わせはともかくとして間違いなく主役クラスの登場人物じゃない? そう思うよね、とっちゃん」
仁子をおいて、こちらに話しかけてきたというよりは、おそらく無自覚で大きすぎる独り言だったのだろう。
声出しがしっかりしているからなのか、普通にその言葉はレミにまで届いてきていた。
その言葉の言い回しが、今のレミ達と同じ立場……この世界を外から俯瞰して見ているように感じ、レミは首をかしげるばかりであったが。
声をかけられたらしい少女の少し後ろで気配を消し隠れようとしているのに、その凄まじい存在感で全く隠れられていない短髪紅顔の少年は。
何かオーラ……アジールめいたモノを撒き散らしつつも、オレに会話をふるなとばかりに嫌そうな顔をしていた。
そんな少年に、レミも仁子も弥生に対して素直になれない法久(本物)を幻視したかどうかはともかくとして。
お互いの別れ際に対する相手に言えなかった気まずさも一体一でないことでうやむやになり、仁子は気を取り直して再度レミに声をかけた。
「晶ちゃん、一体今までどこにいたの? ちょうどこれから、金箱病院の方にも向かおうかって思ってたところなのよ」
金箱病院の地下で別れた二人。
多少なりとも年月が経っているのは大人びて見える仁子を見るに一目瞭然なのだが。
二度目の黒い太陽が落ちて以降、病院地下に続く道は塞がれていたし、まさか外に飛び出したままで仁子が異世界転移をせずに無事でいるだなんて露にも覆わなかったレミである。
何もせず取り残された未来を知って、知己に結果変わらずとも危機感を覚えて欲しかったレミであったが。
終わったと思っていた世界が終わってななった(まだこれから、なのかもしれないが)のを知る事ができたのは逆に救いだったのかもしれなくて。
「信更安庭学園からほど近い、海の遥か下の異世をご存知ですか? そこは黒い太陽から身を守るシェルターのようになっていて、病院地下もそこに繋がっていたんです」
そこに、元々いた患者達諸々と身を潜めていたから無事だった。
言葉面からそのように勘違いしてくれればいい。
自分の力で未来を見ているだけなどとは、仁子を混乱させるだけだから言う必要はないだろう。
「へぇ~。あっちはそんなことになってたで、やんすかぁ……むぐぉぅふっ」
まるで息をするように嘘をつくんだな。
なんて思っていたかどうかはともかくとして。
誤魔化そうとするレミを非難するみたいに、法久(キューバレ)がピカピカ光りながらレミの周りをうろちょろとぶつぶつ呟きながら飛び回るのを、うるさい、とばかりにばしっと捕まえ懐に抱え込んだ所で、仁子はそんな法久(キューバレ)に気を取られつつもそう言えばと頷いてみせた。
「ああ、そうだったわね~。信更安庭学園。そこにならここより多くの人がいるかもしれないわ~。この世界から脱出する手がかり、掴めるかもしれないわねぇ」
ふと思い出したかのようにレミの真実でない言葉を受けて、後ろを振り返る仁子。
「世界からの脱出?」
それは、多大な犠牲を払って選ばれたごく少数の者達が、現実にてこれから行うかもしれないこと。
どうも、仁子のつれの二人と一匹は、それが目的でここにいるらしい。
今更何故? 彼らは一体何者なのか。
レミとしてはその事に対し特に思う所はなかったが。
ずっとずっと前線でこの世界を守るために戦ってきた知己はどう思うだろう。
これから、そんな知己の行動が正しかったのか、意味のあるものだったのかをつまびらかにしようとしている手前、非常に気になるレミであったが。
「みゃん?」
当の本人はどこ吹く風。
捕まった法久(キューバレ)の代わりに、だらんと居座っていたレミの肩口からとたっと降り立つと。
何か気になる事でもあるのか、警戒心もなさげに、無防備に仁子達の方に近づいていく。
それが、中身知己であると本能的に気づいていたのかは定かではないが。
兄弟らしくカワイイものに目がないのか、仁子も金髪ドレスの少女も、息をのんで見た目黒猫な彼の行動を一挙手一投足見守っていたわけだが。
黒猫の向かう先……そこにはオーラのとめどない少年に向かっている……と思いきや、先ほどの法久(キューバレ)のごとく少年の周りを飛び回っている、淡く光る妖精の如き桃色の髪の少女の姿をしたファミリアだろう存在に用があるようで。
「な、なんだよ黒いのっ。やるのかっ」
「みゃ? みゃみゃみゃん」
「あん? ファミリアだぁ? よくわかんねーがあたしの主はここにいるだろ」
「……」
自分で言って、だけどどこか恥ずかしげに羽をいっそう羽ばたかせながらその小さな足で少年のこめかみのあたりを蹴り続けている。
痛くも痒くもないのか、されるがままで。
だけど存在感(オーラ)が増していくのが不思議な光景で。
「みゃん? みゃんみゃんみゃ?」
「じゃ、そっちで隠れてみている奴もそうかって? ……なにっ!? あんたマインのやつが見えるのか? どこにいるっ!」
会話の内容はともかくとして、妖精さんと黒猫の顔を突き合わせたやりとりは、とても絵になる光景で。
一同が思わずそれに和んでいると、何か見えないモノを見つめている、正しく猫あるあるの体で黒猫は顔を上げ、急に駆け出したかと思うとそこに確かに在る見えない何かに向かって飛びかかった。
「みゃうみゃう!」
『ちょ、え、えっ? なんで見えてるのですかっ。あ、駄目ですよそんな所触るとっ!』
どこか興奮した様子の黒猫と、ここにいる誰でもない新たな人物……少女の随分焦った声。
「てめぇ、やっぱマインかっ! そんなところに隠れてやがったかぁ! いい加減あたいひとりじゃしんどいんだよっ。ツッコミが追いつかねぇっ、姿をあらわせっ、てめっ、このおっ!」
そこに妖精さんも加わって、三位一体。
星と埃と風が巻き起こり、てんわやんわな状況になって。
「みゃ、みゃんっ!」
『ちょ、ちょっと。とんだイレギュラーですねぇっ。階位の上のものに接触できるなんてっ』
「上からみてんじゃねぇぇっ! さっさと降りてこいっ」
『ダメなんですぅ! まだその時じゃないんですって! ひゃうっ、だ、だめっ。……くっ。こうなったら非常手段ですっ!』
どこか二次元めいたやりとりに当事者以外がついていけず何も出来ないでいると。
姿の見えない少女の声が、何かを覚悟したかのようにキリっとしたものになって。
『緊急回避! 【スター・ダスター・マイン】、発動しますっ!』
「お、おいぃっ!?」
「……なっ!? これはっ」
その、声のしたあたりから視界を一瞬で塞ぐ発光は迸る。
それは、レミ達の世界で言う時をも止める膨大なカーヴ……アジールの力で。
レミ自身がここへ来るために使ったものと非常に似通っている力でもあって。
レミがその力を理解するよりも早く。
レミ、黒猫、法久(キューバレ)の三人? は、本来存在しないその世界から、弾き飛ばされてしまっていた。
「な、なんで……ば、爆発っ?」
それより何より。
飛ばされるその瞬間、ザクロのようにオーラの半端ない少年が砕け散った光景が目に焼き付いて離れなかった。
当然それだけでは。
少年の身に秘めし死に戻りの能力を無理やりに発動したなどと、分かるはずもなくて……。
(第362話につづく)
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