第348話、壊れかけた心は、紛れ込んでしまった闇の中で


「ややっ、これは……どこかで見た事のある氷ですっ」

「反対側……行き先を塞いでいるわけでもなさそうとね」


そこは、一定の幅を持っていた道における待機場所でもあるかのように、広がっている場所。


その凹んでいる部分を半ば塞ぐようにして、あまりロケーションに似つかわしくない小型の、裾の広がる氷山めいたものがあった。


てっぺんの方は、溶け始めているのか透き通っているが、下の方は白い靄ががかかっている。




「あ、そです。これはみふゆさんの氷ですね」


リアやまゆとともに、二人の父によって創られし試練に参加していた少女達のその一人。


一体、その結果はどうであったのか。

何故か、その靄のかかる小さな氷山に墓標めいたイメージがついてまわり、あまり気分のいいものではなかったが……。


そんな事を考えるケンを脇目に、リアはケンよりも早くその氷山に取り付いて、つま先立ちで靄の向こうを覗き込んでいて。

 

 

「……あっ、お手紙ですっ。お母さんのお手紙があるですっ」

「なんち、なんだって?」



覗き込み、透けて見える地面の所。

複数の便箋が散らばっていた。

それはまゆとリアの母、春恵が生前に残し、長池慎之介に託したものである。

 

死に至る毒を受けてしまった慎之介を、試練そっちのけで守った結果がこの氷山であり、今この瞬間、それはリアに託された事になるのだろう。



「たぶん、リアたちのもあるですよ。お姉ちゃんお願いです。取ってくださいです」

「お、おう。そうか。わかったとね」


何かを封じるための氷であり、簡単に溶けるものではないのだが。

黒白の輪、その力を使えば影響与えずして穴を開ける事などお手の物だと言いたいのだろう。



(……そうか。恵ちゃんはお母さんの事も知らないんだな)


まがい物、過去の人物であった姉(まゆ)が消えただけで、どこか壊れてしまったリアなのだ。


それはあくまで、ケンから見た私見ではあるが。

きっと両親の行く末すらも知る由もなく、その術もなかったのだろう。


ケン自身は、黒姫瀬華(おさななじみ)の母、愛華がこの地を訪れた事である程度把握する事ができていた。

何が書いてあるかは分からないが、リアが現実を知る前に、自分が確認すべきなのかもしれない。



「確かに、まゆと恵ちゃん……リアで連名になってるね。ちょっと先に見てもよかと?」

「……あ、はいです」


少しだけ迷う仕草をしてみせたリアであったが、それでも気づかずとも楽しくない内容の手紙だと察していたのかもしれない。


ややあっての返事だったので、ケンは腕が通る程度に空けた輪っかの向こうから、四通の手紙を取り出した。

そこには、石渡怜亜、須坂勇、哲、大矢塁……そして、まゆと恵(リア)の名前が書かれている。



「他の人は知っとうと?」

「はいです。みんなこの中にいるですよ。渡してあげなきゃです」


得意げにそう言うリアに、ちょっと笑ってしまうケン。

なんだか初めての友達がたくさん出来て喜んでいた麻理を思い出させたからだ。



(世界は狭いなぁ。みんな繋がってる)


ケンはそう一人ごち、まゆとリア宛以外の手紙を、渡したいと勢い込んでいるリアに預け、本当は自分宛ではない事に申し訳ない気持ちを抱きつつ、封を開け手紙を取り出した。



「ん?」


すると、その隙間から紙ではない、プラスチックの……どう見てもカードにしか見えないペラペラの、だけどカーヴの力が込められているものがひらりと落ちた。



「なにですか?」

「どう見てもカードとね。何かの通行証かな」


いずれにしてみても、中身を見れば分かるだろう。


そのカードもとりあえずリアに預かってもらい、ケンは早速その中身を拝見する事にして……。



           (第349話につづく)






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