第346話、君との日々は等身大(ありのまま)の僕だった
「きゃぁぅっ!」
「お、おもぅっ!?」
長いような短いような、狭間での一瞬を終えて。
リアが感じたのは自身の重力とほのかな灯り。
自分の声と重なる、『ついさっきまで』確かに聞いていた声。
がつんと地面に叩きつけられ、その拍子にゴロゴロと転がっていくリア。
それなりの衝撃と痛みはあったが、もうそんな事すらどうでもよくなっていて。
「お姉ちゃん! 無事だったですね!」
「え? まゆ? ……じゃない」
リアより母親似の金……桃金の髪に青緑の瞳。
そして、違えようもない背中の証(つばさ)。
リアに対して何するよりも早く、リアはぎゅっと抱きしめていた。
もう離さぬようにと、逃がさぬようにと。
「いや、おおぅっ。なんばしょっと!?」
随分と狼狽したそんな声が聞こえたきたが、感じる温もりにこの異世で会った二度目の姉との出会いを思い出し、感情昂ぶり涙が止まらないリアは気付けなかった。
いや、それは。
もう騙されないと。
ある意味真実を知った上でのスルーだったのかもしれなくて……。
ありのままに起こった事を話すぜ。
だなんて、理解不能で容量超過な出来事がいきなり自分に起こるだなんて。
その時のケンの心情たるや、一言で言い表すことなど到底出来なかったことだろう。
それでも端的言えば、いざ冒険だと獲物を蛍光灯めいた輪っかをRPGのフィールド画面の勇者某のごとく振って歩いていて、白に黒にと変わるものだから面白がって続けていたら急激に馬鹿みたいにそれが重くなって(それは油断していたからであって、実際は羽の分くらいしかないくらい軽かったとね、などと後にフォロー)、輪っかを振りかぶるように地面に打ち付けたら天使が転がり出てきて。
リアクションとツッコミは鍛えられていて自信があったはずなのに。
何言い訳するよりも早く天使ちゃんに全力で抱きしめられて。
(ちょっとみしっといったのは内緒らしい)
涙と鼻水や海水やら何やらでぐしょぐしょになった顔を『喜望』の人たちにもらったばかりの一張羅(ジャケット)をベトベトにされてしまった。
端的でもなんでもないが、あまりにつっこみ所が多すぎてそれでも流されて役得とばかりに抱きしめ返し、頭何ぞ撫でつつ、表向きには困り果てているケンがそこにいた。
どうして、天使ちはケンのマイ得物(輪っか)から出てきたのか。
まゆかと一瞬思ったけど、一回り小さい彼女はどこかで見た事のある一方で。
どうしてヤローな自分を(見た目ほど男に見えないだなんて、そんなこと思ってないケンである。事実、女の子に間違われた事はなかったはずだった)姉と呼ぶのか。
あるいは、勘違いをしているのか。
どれから聞くべきかもわからないし、何を言えば正解なのかもわからない。
ここまで受け入れておいて、人違いでしたと告白するのは果たして良いのか悪いのか。
また泣いちゃったりしないだろうか。
悩みに悩んだ挙句、しかしそれでも勘違いされたままなのはよくないだろうと、ケン自身も身を切る思いで泣く泣く天使を引き放す。
「お姉ちゃんのばかぁっ!!」
「ややって、ちょっとまってって。怒るより先によく見てくれとね。大変申し訳ないんだけど、僕は君のお姉ちゃんじゃなかとよ。母袋賢、性別男、オーケー?」
追い詰められた間男のごとく、汗だく弁明しているうちに、もしかしなくてもこの娘まゆの妹の恵ちゃんでは、なんて事に気づかされるケン。
そもそもケンが信更安庭学園にやってきたのは、恵に会うためであり、ここにいてもおかしくはないのだ。
なんと言ってもまゆに似ているし、彼女自身もまゆとケンを勘違いしている。
いとこだから、涙目で見ればもしかしたら間違う事もあるかもしれない。
そう思い、あやす様にして自己紹介していると、きょとんとして駄々っ子パンチ(もやしっ子なケンには結構痛い)を止め、大きなブルーベリィみたいな瞳をしばたかせ、ケンをじぃと見上げてくる。
比較的にそう言うのに慣れているとはいえ、平静でいられるかどうかはまた別問題で。
内心バクバクで、その吸い込まれそうな瞳に映るケン自身を見つめ返していると、。
今度は捕まえんとする勢いで手を握ってきたではないか。
思った以上ふにゃふにゃな感覚に、Оhと声上げるよりも早く、何かに納得したかのように目の前の天使が呟いた。
「つめた……くないですっ。お姉ちゃんの言い分はわかりました。今度はケンさんと呼べばいいですか?」
「あー、うん。そうしてもらえると助かるとね」
君のお姉ちゃんではなく、従兄なんだけどな。
ケンははそう説明するつもりだったのに、テンパってただただ頷いてしまう。
何を言っても頑なな雰囲気があって、悲しい事に話を聞いてもらえないだろう、と言う事もあったし、彼女の言葉はある意味間違っていないのでは、と言う事に気づかされたからだ。
彼女……恵(リア)の姉、まゆは今、ケンの中にいる。
魂だけの存在であった彼女(まゆ)と融合する事で、この世界の顛末を知る事となったのが、今のケンだ。
そもそも、ケンが知己の誘いを断ってここにいるのは、正咲の事もあるが、妹を心配する姉の意志あってのものだったのだから。
「それじゃあ、いきましょう。お姉ちゃん。他のみなさんと合流です」
さっきの宣言はどこへやら。
手を放し、肩下げバッグから炎を閉じ込めてしまったかのような珠を取り出したかと思うと、片方の手で引っ張るようにしてケンをエスコートしようとする。
みんなって一体誰だろう。
その珠はなんぞや、とか。
そんなにまゆは自分と似ていたのか、とか。
ケンの疑問は増えるばかりだったが。
まぁ、そのうち何とかなるだろうと、気ままな調子でケンは頷いて。
恵……リアの手を放さぬようにと、その後を追いかけるのだった……。
(第347話につづく)
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