第341話、この腕をすり抜けていく君から、瞳をそらして


「こ……これはっ」

『能力効果、友好度増大! 友好度増大! 回避不能のため、携行モードに移行しますっ』

「あ、あれ? ちょ、ちょっと。なにですか?」



『桜色』は、誰でも仲良くなれる。

この力ならうまくいくと思ったのに、まゆは膝をついているし、赤い法久は、がしゃがしゃ身体を変えて落っこちたかと思うと、リアの背中に張り付いてしまった。


背中の翼が、上の方に移動する感覚。

赤い法久は結構重くて、ふらつくリアがいる一方で。

まゆは、何だかとても辛そうで。




敵も味方もなくなって、みんなが友達になれる力。

舞台の端っこから見ていたリアにとって、この力があればって思っていたのに。


まゆはリアと仲良くなるの嫌なのだろうか。

ちょっと悲しくなってまゆを見つめていると、歯を食いしばってこちらを見つめる彼女と目が合った。



「……元からっ。嫌いじゃないのに意味ないとっ。むしろますますこの腕輪は渡さないっ!」

「お姉、ちゃんっ」


さっきまでとは違い、カタコトじゃない本気の言葉。


……本当は分かっていた。

まゆがリアたちのために犠牲になろうとしてるってことは。

『昔』のまゆのように、リアの代わりになろうとしてるってことは。



「……いやです。今度はリアがやるんだからぁっ」


だからこそ、譲れなかった。

リアは叫び、桜色の光を強めていく。

受ければ受けるほど仲良くなる力が強くなるこの色。

リアのわがままなこの力は、きっと本当のものじゃないのかもしれないけれど。

姉がいなくなってしまうのは、もう見たくなかったから。

リアはわがままを通すことにして。



「……ぐっ。【黒朝白夜】セカンド! ホワイトホールっ!!」


だけど、まゆはリアよりも頑固だったようで。

桜色の煙を振り払うように叫んだかと思うと、いくつもの小さな虹がリアに向かって飛んでくる。



「うわ、わ、重いぃっ」

「……」


桜色の煙を受けてから、うんともすんとも言わなくなってくっついたままの赤い法久。

やっぱり重くて、桜色の力を使っていたから他の力を使う暇もなく。


一番目に来たのと、二番目に来たのはなんとか避けたが。

残りのものは避けられずに次々とリアに襲いかかってきて。



「いだだっ。いたぃですぅっ」


さっきみたいに吹き飛ばされるまではいかなかったが。

曲線を描いて頭の上からふってくるので。

たまらず座り込んでしまうリア。



……しかし、その威力は明らかに低くなっていた。

ぎざぎざの光に比べれば、それほど痛みはなく。

それは、リアが頑丈になったのではなく、まゆが手加減してくれているのだ。

リアの能力の影響によって。



「【救世雛天】ファースト! ライト・オブ・カラー、ヴァージョン『チェリー』っ!」


ならばと、リアはもう一度能力を発動する。

すると、負けじとまゆも能力を放ってきた。



「【黒朝白夜】セカンド! ホワイトホールっ!!」


たまたまか、そうじゃないのか。

白い輪から出てきたものは同じ色をしていて。

リアにはそれがよく見えなくて。



「うぎゅっ!?」


それが、尖った桜の花びらだと気づいたのは。

今までで一番の痛みと、視界の左半分が真っ赤に染まったからで。


恐らく、偶然にもそれが目に入ったのだろう。

……でもそれは、手加減してくれていると油断したリアが悪いのだ。



「あっ……そ、そんなっ。……あ、あああぁぁぁーっ!」


大きく大きく目を見開いて叫ぶまゆ。

聞いているリアが泣きたくなる声で。



「だい……じょうぶっ」


このくらいじゃ、リアは止まらないと。

姉に教えてあげるためにとリアは立ち上がり、まゆに近づいていく。



「あああーっ!!」


更に声を上げ、白い輪をかざすまゆ。

リアを少しでも傷つけたら、あんな風になるくらい能力にかかってるはずなのに。

これもまゆの強さ、なのだろう。



「でも、大丈夫っ!」


多分、いろんなものを吸い込んで削ってしまうあの黒い輪を使えば。

リアを倒すなんて簡単だったはずで。

だけどまゆはそれを使うことはなかった。


今も昔も、なんだかんだいって姉ははやさしい。

……そう思っていたからこそ、リアはさらにもう一歩まゆに近づくことができて。



「……くっ」


頬を撫でるやさしい風と、すぐそばで泣きそうな顔をしているまゆ。

今度は、尖った桜色の花びらもそこにはなくて。

ただ、リアの体から出る桜色の光が、一層濃くなっていて。



「……全く……そろって反則とね」


涙混じりの疲れきったまゆの顔。

半分染まる赤い視界に、『黒い輪』を振り上げる手が見える。



「……っ」


確信はあったのに、勝手に縮こまるリアの身体。



「……瞳の傷をっ!」


それはきっと、やさしくて力込められし言葉。

黒い輪は、触れるか触れないかってところまで近づいて。



「あ、痛くない……です」


まゆの黒い輪の吸い込む力で、視界が開け痛みがなくなっていくのが分かる。



「……負けたとね。もう、リアをどうにかする気が、これっぽっちも起こらないや」


乾いた笑み。

ふっと力抜けたみたいにもたれかかってくるまゆ。



「任せてください。『魂の宝珠』、リアがちゃんと取ってきますから」


リアは、そんなまゆをぎゅっと抱きしめてから。

腕についている腕輪を外し、リアの左腕に取りつけた。



「よし、これでいいです」


後は、あの青い世界の向こうにある、ゲームクリアの証を取ってくるだけ。

水がたくさんで、ちょっと大変かもしれないけれど。

覚えた他の力を使えば、きっと大丈夫。



はじめて人のために、リアが頑張れる。


その時確かに、リアにはそんな喜びがあって……。



           (第342話につづく)






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