第340話、いとしくて、いとおしすぎて、染める絆色


『……チャットモードの使いづらさのため、音声ガイダンスモードに移行します。もう一度要件をどうぞ』

「お姉ちゃんを、お姉ちゃんを止めてくださいですっ」


突然そう言われて気づいたわけでもないだろうが。

腕輪を取れば姉は止まってくれるのか、なんてことを思うリア。


そんな期待を込めて頭の上の赤い法久を見上げていると。

何やらかしゃかしゃ音がして。



『腕輪の装着者。歩みを止めるには、その進行を妨害、敵性を示す必要があります。ただちにカーヴ能力を展開し、対象の進路を阻んでください』


どこかカチコチな、そんな声が聞こえてくる。

しかしそれは、何分急なことで分からないことも多くて。



「カーヴ能力、ですか? リア使えるですか? わからないです」


ついて出たのは、期待半分、不安半分のそんな言葉。

何故ならそれは。

今まで誰も教えてくれなかったこと、だったから。



『……擬似能力により、対象を【スキャン】します。……ピピピっ。結果、出ました。能力者名、鳥海恵(リア)。能力名、【救世雛天】。クラス、AAA(トリプルエー)。主に三つの異なるスキルを発動できます。……が、ここはまず能力自体を発動することを推奨します。能力名を繰り返し唱え、反芻し、身体に魂に覚え込ませてください。……繰り返しますっ』


まゆは、全然止まる気配はなくて。

もう少しで部屋を出てしまう勢いで。

赤い法久も、何だか焦っているみたいに聞こえて。

リアは頷くと、何度もその能力名を繰り返し口にした。



「【救世雛天】っ、【救世雛天】……っ!」


するとその瞬間。

リアの中で不思議なことが起こった。

何だか身体がポカポカとしてきたと思ったら、【救世雛天】と呼ばれるリア自身の能力のことが、どんどんと頭の中に入ってくる。


今まで名前すら知らなかったのに、今ならすぐにでも使えそうで。

赤い法久の言う通り、リアには三つの種類の力が使えるようだった。


まゆを止めるには、どの力がいいのか。

そんなことをリアが考え込んでいた時だった。


それまで全くリアの体重くらいではびくともしなかったまゆが、急に足を止めたのは。




『腕輪の装着者……敵性が能力の発動を感知! 戦闘排除モードに移行しています。攻撃を回避してください。右頭上方向! 敵性のカーヴ能力発動をを感知しました!」

「わわっ」


赤い法久が、ぴかぴか光ってそう叫ぶのと。

頭上にまゆが生み出した黒い輪が出現するのはほぼ同時だった。


あの、黒い輪の恐ろしさはリアもよく知っていた。

当たったら危ない!

そう思った時には、リアは浮遊感に包まれていて。


どうやらリアが思うよりも早く。

身体が、翼が、反応していたようで。

リアがまゆから離れたのだと自身で気づいた時には。

リアは結構まゆから離れて立っていて。

今までいた所には、黒い輪ががつんとめり込んでいるのが分かって。




「お姉……ちゃん?」

「……邪魔者は、排除します」

「……っ」


相変わらずも色のないまゆの瞳。

そして、何だか赤い法久みたいなカタコトの言葉でそう言うから、リアはそこでようやく気づく。

あの腕輪が、まゆを操っているのだと。



止めなくちゃ。

きっとまゆは、リアのことをおいて海の向こうに行ってしまうに違いなくて。

それならばと、黒い輪を持ってじりじり近づいて来るまゆに注意しながら。

リアは自身が持つ能力のことを考える。



リアの能力、【救世雛天】。

その一番目(ファースト)、『ライト・オブ・カラー』。

リアから発せられた光が、その色によって様々な効果を及ぼす、とのことで。


この能力だけで様々な効力があり、何を使ったらいいか迷ってしまうリア。

それでも、よさそうだと思ったのは、目の前に広がるような「白色」に赤を落とし込んだみたいな、桜色のものだった。

何でもその光には、みんなと仲良くできる効果があるようで……。



『……回避! 回避を推奨します!』

「うひゃっ」


目前の発光にリアが気づくのと、赤い法久が叫ぶのはほぼ同時だった。

はっとなって顔を向ければ、まゆが白い輪を手に持ってリアに向けているのが分かって。


白い幾筋もの光は、その白い輪っかから出ていた。

ギザギザしていて何だか痛そうで。


そう思った時はすでに、いくつかぶつかってきていて。

その衝撃でなすすべなく吹き飛ばされるリア。


『回避、回避を推奨します!』

「あわわっ」


赤い法久の、繰り返す同じ言葉。

転がりながら見上げれば、やはり白い輪からギザギザの光が飛んでくるのが見えて。



「【救世雛天】ファースト! ライト・オブ・カラーっ、ヴァージョン『レッド』っ!!


リアは、心のままにそれを迎撃するためにと叫んだ。

自然と手のひらを突き出し、そこから生まれるのは赤の光。


しばらく手のひらにくっついていたが、だんだん暖かくなって火傷しそうになるより早く、赤いビームがいくつも打ち出される。


ちょうど、白い輪から出たギザギザ光と同じ三本。

リアが言わなくても分かっているぞと言いたげに……それぞれぶつかりあって。


「やややっ!?」


どうしてかは分からないが、びっくりするくらいの爆発音がして、煙って何も見えなくなる。

しかし、痛くてびりびりする光がやってくる気配はないようで。

どうやらうまくいったらしく。



「よしっ」


今度はこっちの番だと。

リアが赤い法久に教えてもらって、リア自身の能力を『思い出して』から、一番に使ってみたいと思っていた色を使うことにする。




「【救世雛天】ファースト! ライト・オブ・カラーっ、ヴァージョン『チェリー』っ!!」

「……っ!」

『効果範囲極大! 回避不能! 回避不能っ!!』



その瞬間。

まゆが息をのんで、赤い法久が慌てふためいて高く高く飛んでいくのが確かに見えて。

リアの身体じゅうから、溢れ出た桜色の光は。

煙のようにあっという間に広がっていって。


まゆを、赤い法久もろとも包み込んでいって……。



           (第341話につづく)

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