第310話、そしていつか見た夢の続きを……



「……っ、いったぁ」



気がつけば。

正咲は波際に打ち寄せられるかのように、水の外に弾き出されていた。


ほとんど無意識にまず確認したのは自分自身。


一目で分かる、満身創痍。

特に両手なんて見ていられないくらいで。

一刻も早く治療しなくちゃいけないのは分かっていたけれど。

構わず正咲は立ち上がり、正真正銘文字通り、血の海と化してしまった水面を見据える。



「まずは真澄ちゃんをさがさないと……」


ボスとか『魂の宝珠』とか、自分自身は二の次だ。

すぐさま、空飛ぶ力と明かりをつくる力を発動しようとして。



ざばぁと、盛り上がる海面。

警戒して構えて見せれば、現れたのは真澄であった。

赤い、コバンザメのようなものの背に、ぐったりと弛緩し浮かんでいるのが分かる。



「真澄ちゃんっ!」


正咲は、もう何度呼んだかも分からないその名を叫び、水をかきかき駆け寄る。

すると、それに気づいたのか。

かぱりとコバンザメが息を吸い込むかのように口を開ける。

そこから出てきたのは、ワインレッドの光を放ち続ける『魂の宝珠』らしきもの。


条件反射で、それを手に取る正咲。

途端、血の色のコバンザメは弾けるように消えていって。



「わ、わわっ」


そのまま水面に沈もうとする真澄を。

欠けた手で何とか支えることに成功する。


暖かい。

正咲など軽傷に見えるくらい青白いを通り越して紫色に見える真澄だったけれど。確かにそこに生きていた。

正咲がそれに、思わず安堵の息を吐くと。



「……僕が、阿海真澄がここにいる価値……あったでしょ?」


耳元で聞こえてくる、そんな真澄のうわごとのようでいてそうでない言葉。

まだその事を気にしていたんだって、ちょっとびっくりして。



「うん。ありがとう。真澄ちゃんのおかげで、たすかったよ」


何きをてらうこともなく、正咲はまっすぐにそう言った。



「ふひひ、てれるじゃねーかい……」


すると、真澄は何だか男らしい? そんな呟きをもらして。

すぅっと眠るように、意識を失った。


正咲ははっとなってすぐさまそんな真澄を背負い上げて。

ゆっくり、ゆっくり水辺から上がって。



不意に頭上にかかる、小さな影。

何気に見上げれば、そこには天井のところに隠れていた紅の姿があって。

ちょっとびっくりして警戒する正咲。


正直戦いになったら目の前の彼にも負ける自信があるぞ、なんてしょうもないことを思っていると。

そんな正咲の事などお構いなしに、紅はくるりと一回転。

その後頭部を開き、光るモニターを見せてくる。



――ーそこには、こう書かれていた。



《  螺旋の試練……クリア。『魂の宝珠』、獲得。この宝珠を『心臓の間』へ続く扉へとはめ込むことで、『脱出への扉』が開かれます…… 》




「脱出の扉、かぁ……」


それこそが、正咲とそして真澄の報酬。


ここではない、終末の近づく外の世界に、会わなくてはいけない人がいる。

一刻も早く、会わないといけない人がいる。


だけど。

 


「みんなとの約束、はたさなくちゃね……」

 

正咲は自分を誤魔化すようにそう呟き、歩き出した。

……いや、それは決して誤魔化しているわけではなく。

約束があるからと、自分の一番したいことを押し殺していたのだろう。

 


 

「――何度でも、何度でも、ボクはうまれかわってーゆく~♪」



まるで今このためにあるような、『蘇生』の歌が、正咲自身と真澄に降り注ぐ。

 

それは、どこか滑稽で。


それでいて、何だか無性に悲しくて……。



            (第311話につづく)






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