第275話、探していたさいごの手紙はサンタが知っている



「ううむ。しかし、よく気づいたね、僕が起きたの」

「それは……ねえ? 悪戯してやろうかなって思ったらいないんだもの」

「悪戯って何を!? ひゃあ、やめて許してぇ~っ!」


浮かぶ、実に楽しそうな妖艶な笑み。

もしや、寝た振りして起きていたのかと。

改めて今現在危険かも知れない状態であることを自覚してパニックになるまゆ。


じたばたと暴れる。

だけど逃げられない。

いつもならとっくに就寝の時間である恵が、まゆを完全ホールドした状態で眠りこけていたからだ。


「怜亜ちゃんも思ったより役にたつじゃん」

「普段役立たずみたいな言い方しない」


そして。

物欲しそうな顔で正咲がそう言ったところでギブアップ。


「分かった、話す! 魔化さないで話すからっ!」

「初めからそうやって素直にしていればいいのよ」


まゆのギブアップ宣言に、心なしか冗談でも何でもなく残念そうにしつつも、怜亜がまゆを解放し、まともに会話が成立する距離まで離れてくれる。


「自業自得……」


這々の体で立ち上がったまゆに。

相も変わらずぐさっとくる塁の一言が身にしみて……。





改めてまゆは。

同盟の仲間たちを見渡し(もはや夢の中の恵を除く)言葉を発する。



「……借りを返すためだったと言うか、雅さんに頼まれたとね。はるさんが『子供』達にしたためた手紙が理事長室にあるかどうかの確認をしてくれって。確か受け取り人は四人だったかな。恵ちゃんと怜亜ちゃんと塁ちゃんと……あと勇くん」


『子供』という言葉を提示した時点で、当人達は理解しただろうが。

当然そこには何の事か分からない者もいるわけだから。

一応その名前を挙げてみるまゆ



「私達宛の手紙か。そんなものもあったなんてね」

「……っ」


主に反応したのは二人。

感慨深く意味深長に呟く怜亜と、何か別のものに顔を歪ませている塁だ。



「……塁ちゃん、大丈夫?」


それはなかなかに尋常じゃなかった。

まゆにはひどく怯えているようにも見えて。

理由は分からずともその原因がなんなのか何となく予想のついたまゆは、流石にスルーできずにそう聞いてみる。


「いえ。なんでもないです。……ごめんなさい」


恐らくは、それこそがこの異世で塁に植え付けられたトラウマであり、

いつかまゆが見た夢の断片でもあって。


何とか話を聞いてあげたいと思うまゆであったが。

やはり無理に聞くのは逆効果になるのだろう。


焦りはあるけど、無理強いはできない。

謝られたら余計に何かあるって思うじゃないかと。

そんな言葉を、唇の直前でまゆは飲み込む。

きっと話してくれると信じて、じっと待つ。



「でもさ、その手紙を探して、どうするつもりだったのかしら」


再び話題を戻すように、怜亜が呟く。

そこには、借りとなりうるものがあるのかどうかって意味合いも含まれていて。


「あったら、破棄するつもりだったみたい。もし中身を見たら、ここみたいな僕らにとって安全地帯がなくなるんだって」


別に隠す必要もないから、まゆは雅に言われたことをそのまま口にする。

もし手紙の中身を見てしまったら……の部分は、それでもだいぶオブラートに包んだけれど。


「なにそれ? なんの権利があってそんなことできるのさっ」


怒りを前面に押し出す正咲。

そういう部分で、シンクロするのはちょっと嬉しかったりするまゆがいて。



「……それだけ相手にとって困ることが書かれてるって事ですか」


はるさんの手紙を読まずに破かれるかもしれない当人のひとりである塁。

滲む怒りこそあれど、それをする意味の方について心が寄っているように見える。


「手紙は見つかってないのよね。……とりあえず探しましょう」


多分、四人の中で一番憤りの度合いが強いだろう怜亜。

とりあえずという言葉に、その後の答えが出ていないだろう事が容易に想像できたわけだが。



「はいっ」


そこで、美冬が挙手。


「どうぞ、美冬さん」


どうやら、何やら言いたいことがあって話すタイミングを伺っていたらしい。

理事長室にはなかったこともあって。

手紙を探しに飛んで行きかねない怜亜を引き留めるみたいに、まゆは美冬の発言を促す。



「みんなの言ってる手紙って、私知ってるかも。受取人の名前も聞いたような気がするし、多分あってるはずだけど……」

「どこっ!? どこにあるのっ!」


それは、展開的に予想もしていなかった言葉で。

ばっと振り返って美冬の言葉に反応した怜亜は、鬼気迫る勢いで美冬に詰め寄る。


たが。

そんな怜亜に、美冬は変な期待をさせてごめんとばかりに頭を下げ、言った。


「ごめん。しんちゃんが持ってると思うんだけど……今どこにいるか分かんないんだ。この世界のどこかにはいると思うんだけど」

「そう……」


美冬の、『本当はまだ会いたくはない』という個人的な感情を内在した言葉に、分かりやすくも肩を落としてうなだれる怜亜。


その時まゆの頭に浮かんだのは。

まさしく雅の言葉通りに、屋敷に取り込まれ食らわれる長池慎之介の姿だった。


断定して口にしていいものかも分からない夢の話。

それでも尚、話すべきか迷う。

その夢こそがミスリードの可能性だってあるし、彼らが落ちた先に果たして本当に『プレサイド』の胃袋めいたものがあるのか。

考えたらきりがなかったからだ。



「……分かったわ。美冬さんの『したいこと』は、その彼を捜すことなんでしょう? なんの皮肉か、利害が一致したわけだし、つきあうわよ」


そして結局。

まゆはそこでその答えを出すことはできなかった。

既にイニシアチブをとっている怜亜のそんな言葉で。


それならば今日は、明日のために眠ろうと。

そういう流れになったからだ……。



            (第276話につづく)







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