第85話、主人公、いじけモードマックスで体育座り


「……こほん。それでは、今度こそ気を取り直してこれ以降のネセサリー班(チーム)及び、スタック班(チーム)の作戦行動について解説するでやんすよ~」


そして、知己抜きの作戦会議は、以前本人が言っていたようにスムーズに進行していく。

 


「とは言っても、スタック班(チーム)のみんなにやってもらうことは、さっきも言ったように、引き続き聞き込みと、稲葉さんの娘さんに会ってもらうことでやんすね。彼女は今日の昼頃までにはここに転院してくるそうでやんすから、詳しくは金箱病院のスタッフに聞いてほしいでやんすよ」

「分かりました。それであの赤い手……パームの一味のファミリアらしきもののことはどうしましょう?」


法久の言葉に対し、スタックのリーダーである弥生の言葉には的確で淀みがない。


だが、今までは知己という一種のストッパーがあったのにそれがなくなったからなのか、口調が僅かに攻撃的であることがカナリには分かった。


だが、それは本当に僅かなもので。

カナリ以外には気づいてはいないようだった。


最も、美里や仁子は分かっていて知らないフリをしているだけで。

ちくまや拓哉は人の感情の機微にはあまり興味がないだけなのかもしれないが。

 


「そう、そのことなのでやんすが、あれの対処法はおいらが知ってるでやんす。注意すべきなのは、その能力者がこの病院のどこかにまだ潜んでいるという可能性で、スタック班(チーム)にはその不意打ちなどに注意しつつ、できればその能力者を見つけ出してほしいのでやんすよ」


法久は、淡々と当たり前のようにそんな事を述べる。

カナリにはそれが突き放すような、あるいはつっけんどんなものに聴こえたが。

裏を返せばそれだけで任せられるくらいに相手を信頼しているのだろうとも言えた。

細かいアドバイスなど不要で、言われたことを出来るだけの力がこの班(チーム)のはあるのだと。

 


「……了解です。その能力データのほうは、班(チーム)の端末のほうへ送信よろしくお願いします」


そして弥生はそれを示すように、すぐにそう答える。

(何でも、電話だけで足りないことは、班(チーム)それぞれが所有する、端末に情報が送られるらしい)


逆に、スタック班(チーム)にしてみれば、今まで活躍の場がなかった分、治療の件にしろパームの件にしろ待ちに待ったりではあった。


カナリはその時はまだ知らなかったが、ネセサリーを除けば次に実力派揃いなのは、このスタック班(チーム)なのである。


何しろ、4人全員がA以上の能力者なのだ。

それを分かりすぎるくらいに理解している法久からすれば、余計なアドバイスはむしろ無粋とも言えるわけだ。

まあ、それを弥生たちがどう思うかはまた別問題ではあるが。

 

 

「やっと僕の出番、って感じですかね」

「あんまり無茶はだめだよ。むしろ庇うの禁止ー」

「そう言われましても、そうプログラムされてるのがファミリアのさだめって奴じゃあないですか」

「うにゅう。よっしぃ、タクヤが言うこと聞かないよう」


と、微妙な空気を緩和させるかのように、拓哉と美里はそんな掛け合いを始める。

話の腰を折るとか、そのような弁えを微塵も考えていない様子の二人に。

仁子はそれでものんびりした息を吐いて、それに対応した。



「ホントに二人って仲良しだよねー。少なくとも主とファミリアの関係じゃないのは確かかも~」

「ファミリア、ファミリアって誰が?」

「む? ええ、んと。そう言えば稲穂くんは自己紹介してなかったよね~」


ちくまの既にあまりにもフレンドリーな物言いに、仁子はしばらく自分が聞かれていることに気がつかなかったが。

それでもそう言えば拓哉はいきなり登場しておいてそのままだったことに今更ながら気づいて、そう口にする。



「あれ。そうでしたっけ? 自己紹介してませんでしたっけ。……では、改めまして。美里さんのファミリアをしている、稲穂の拓哉と申します。以後お見知りおきを」

「ふーん。きみもファミリアなんだ? 人型のファミリアっていっぱいいるんだね。よろしくー。№1000改め、ちくまだよー」

「……カナリです。よろしく」


ちくまは、拓哉に負けずの笑顔で、カナリはそんな拓哉を見据えるように、短めの自己紹介を終える。



「あらら。お二人ともリアクションが普通ですね? 僕がファミリアですって言うと、たいていの人は驚くものなのですが」

「うーん、なんて言うのかな。見慣れているからかも」

「ええ、そうね」


拓哉の言葉に対し、思っていたままの言葉を返したちくまであったが。

それに頷いたカナリにしてみれば、内心本当にファミリアなのかな?という疑問があった。


確かにジョイや法久のような優れたファミリアをよく見ていて見慣れている感もないことはないが。


実際自立思考……つまり意思を持ち、感情があって主に意見もできる、なんていうファミリアを持つ使い手には、然るべき代価があっていいはずなのだ。


その一番代表的なものは、その使い手に対する力や行動の制限だろう。

たとえば、ファミリアに力を与えた分だけ力が使えなかったり、ファミリアが姿を現している間は、能力者自体がその場を動けなかったりと様々なものがあり。

とにかくその能力者に多大な負担が掛かっていることは間違いがないのだ。


だが、そう言う面で見ると、目の前のファミリアをやっているという少年、拓哉はなんだか異質に見える。

能力者本人の力だけでなく、どこか別次元の力で動いているかのような不思議な感覚を覚えるのだ。


それは、その主である美里が、子供っぽいちくまや晶よりもよっぽど戦いの場が不似合いなほどに幼く見えるせいで、拓哉という力を全く負担に感じていない風なのもあるだろうが……。



「ああ、そうですか。なるほど。そう言えばそうでしたね」

「……」


そう言えばそうでしたと。

まるで慣れている、ということを知っているかのように頷く拓哉。

そんな拓哉の意味深なセリフに、その時は拓哉がジョイと会っていることを知らなかったカナリがいぶかしげに思っていると。

しかしそんな思考をシャットアウトするかのように法久が口を開いた。

 


「親睦を深めるのはいいでやんすけど、先にこれからのこと説明しちゃってもいいでやんすか? 早いとこ終わらせないとひとりぼっちの知己くんが暴れだしかねないでやんすからね」


そう言われて、何となく知己のほうを見ると。

知己はあからさまにヘコんでいますというアピール最大で。

大分離れたところで体育座りなんぞしつつ、空を見上げていた……。



「ごめんなさい。話の腰を折って。それで、えっと……わたしたちは何をすればいいの?」

「あ、それなのでやんすけど。一応おいらと知己くんと、カナリちゃんとちくまくんの組み合わせで二手に別れるという方向でOKでやんすよね?」


無意識かそうでないのか、カナリ自身がわたしたち(自分とちくま)と言っているのだから今更な問いかけな気もしたが。

法久はあえてそれを口にする。



「うん。それでいいよ! 僕たちはここに残ればいいんだよね?」

「あ……んと、ま、仕方ないわね。法久さんたちだってその方がやりやすいと思うし」


分かりきった答えであったが、二人の真逆のようでいてそうでない言葉に、法久はにやにやしつつ満足して頷いて。


「では早速詳しい説明をするでやんすよ。さっきもちょっと言ったでやんすが、二人にはここに残ってスタック班(チーム)のサポート、そして今までの戦いにおいて落とされた者、特にパームの奴らの監視をしてほしいのでやんす」

「了解ですっ!」

「……分かりました」


そして、そんな法久の言葉に、二人は二つ返事で答える。


本当は、ジョイと法久本人との折り合いで、若桜町に二人を向かわせるのには問題があるという点と。

カナリ自身の危険……稲葉と同じ末路を辿るかもしれないという僅かな可能性において、金箱病院にいるスタック班(チーム)の側に留まったほうがいいという明確な理由があったわけなのだが。


それをそのまま言葉にできるはずもなく。

法久は代わりにもう一つの大きな理由を口にした。



カナリもちくまも、一度落とされたはずなのに復活したという峯村のことを思い出していたから。


そんな法久の言葉に疑問を持つことはなかったが……。



 

               (第86話につづく)







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る