第80話、AAAを超えるかもしれないもの、その名はS(スクリュー)クラス


「んー、願いを叶えるあやかしねえ? ジョイには悪いが何かうさんくさいと言うか……はて? ついさっきどっかで聞いたような言葉だな」


知己は法久のその言葉を受けて、今日も清々しい快晴が予想されるうろこ雲まばらな青空を見上げて考え込む。

そして、特に悩むことなくそれがなんなのか思い出した。



「それって稲葉さんの言ってたパームの奴らが勧誘の時に使ったっていう常套句じゃなかったか?」


常套句とはつまり、それが峯村の言ったようにガセである、という意味だったが。

しかし法久は、見えない受話器の向こうで首をふった。



『それがでやんすね、本当に願いを叶えてくれるかどうかは別として、今言ったような伝説、民話でやんすかね。それは実際若桜町には存在しているようなのでやんすよ』

「……そうなのか?」

『そうなのでやんす。たぶん、若桜高出身の美里ちゃん達なら知ってるんじゃないかと思うてやんすが、それは後ででも聞いてもらうとして……実はさんざん引っ張っておいてここからが本題なのでやんすが、そのジョイちゃんが向かったはずの若桜町と言うか、トリプクリップ班(チーム)のことなのでやんすが、何かがおかしいというか、違和感を覚えたのでやんすよ』


長い長い法久の言葉。

いつしかスタック班のことも忘れ、知己はそれに聞き入っていた。



「違和感、か。もしかしてまた連絡がつかないのか?」


もしそうなら法久のことだ、すぐにそう言ってくるだろうとは思ったが、取り敢えずそう聞いてみる知己。

しかし、法久がその言葉に対して首をふっただろうことは、それからすぐに聞こえてきた法久の言葉ですぐに分かった。


『いや、連絡はあったし、とれたでやんす。ただ……特に異常はないと、釈くんに言われたのが、すごく気になったのでやんすよ』

「ああ、それは……」


つまり、今までの話の流れからして。

ジョイがトリプクリップ班(チーム)の元へ向かったことへのリアクションがなかった、と言いたいのだと知己は理解した。


それはすなわち。

ジョイが二日以上経っても、半日もかからずに行ける場所に辿り着けていないか。

あるいは……。



「法久くんのことだから、当然ジョイがそっちに行っているかどうか聞いてみたんだろ?」

『もち、でやんす。でも、聞いても知らないの一点張りなのでやんすよ。釈くんは元々必要なこと以外しゃべらない人ではあるでやんすが、これはもしかしたら、何かあるなと思ってしまったわけなのでやんす』


それが、トリプクリップ班(チーム)の方なのか、ジョイの方なのかは分からないが、つまりはそう言うことなのだろう。



「どうする? もしその何かにパームが絡んでいるのなら、今のうちに己たちもそっちへ向かったほうがいいんじゃないか?」


だから知己が低い声でそう言うと、しかし法久はそれに対し悩むように唸った。


『う~ん、そうしたいのはやまやまなのでやんすが。何かあったと100パーセント確証があるわけでもないし、色々問題があるのでやんすよね』

「問題? ああ、ジョイの言ってたっていう、ちくまたちに会いたくないってやつか?」

『ジョイちゃんとおいらの事を考えればそれも一つでやんすけど、ほかに理由があるのでやんすよ。まず一つは、トリプクリップ班(チーム)の報告の真偽についてでやんす。例えばこれはおいらの勝手な想像でやんすが、こちらに助けを呼べない状況ににあるとか』


例えという割には、その法久の口調にはなんだかやけに真実味があった。



「もったいぶるなよ、法久くん、何かそう言わせるようなもの、視たんだろ?」

『…視た、というか……釈くんたち、何故か普通に学校に通っちゃってるみたいなのでやんすよ。まあ、学業は大切でやんすし、この仕事のために何が何でも休めとは言えないでやんすが』


法久が報告の際にダルルロボを通して視たものは、彼らの普通に学校に通う姿だったらしい。

法久自身、自分の視たものに対してあまり理解が追いついていないような口ぶりだった。

この非常時であるからこそ、そんな釈たちの行動が不可解なものに思えてくる。

 


「うーん、一体どういうことなんだ? 彼らって休みとってるんじゃなかったけか。どんな意味があるんだろう?」

『実際に行って、直接聞いてみたいとは思うでやんすけど、逆を返せば何も起こっていないからこそとも言えなくもない状況なのでやんすよね』

「そうかな? 少なくとも何も起きていないってことはないと思うな」


と、そこで知己は何かを思い出したように法久の曖昧な言葉をきっぱりと否定した。



『と、言うと?』

「ああ、うん。あのさ、彼らは閉じ込められしAAA能力者のアサトと接触するのが目的だろ? 本当に暇になってるって言うのなら、その報告あったっていいはずだ。

それに、芳樹とか、マチカさんならともかく、コウのやつなんて口癖みたいに『こんなど田舎ありえなくねぇ?』とか言ってた奴だぜ? せっかく学校休みとっといたのにわざわざ行くタマとは思えないけどな」

『あ、そうでやんした。おいらとしたことが、アサトちゃんのこと、すっかり忘れていたでやんす。噂によれば、アサトちゃんもカナリちゃんに引けを取らないかわゆい子だって聞いていたから要チェックしてたのに……あれれ、なんででやんしょ? 何で忘れてるでやんすか。そんな重要なこと』


法久は自分が信じられないとでも言いたげにそう呟く。

そんなこと己に聞かれても、と一瞬思った知己だったが。

しかしその言葉に、知己は何かを掴んだような気がした。


「なんつーかさ。これも例えばの話なんだけど、そう言う能力なんじゃないか? 法久くんがそのテの情報を忘れてるなんて普通考えたらありえないし。……そうだな。詳しく言うなら、その地にいると正常な判断ができなくなるとか」

『ふむ。何かしゃくでやんすがその通りかもしれないでやんすね』


様子のおかしい釈、連絡のないジョイのこと。

そして、トリプクリップ班(チーム)の任務というべき事柄を忘れていた法久。


法久の場合、自らの分身であるダルルロボということになるが。

彼らがみなその若桜町にいるのだとしたら、そんな知己の考えも可能性としては十分にありえるだろう。



『そうすると、どちらにしろ様子を見に行く必要はありそうでやんすね。しかも、なるべく相手に気づかれないように隠密にってとこがポイントでやんすが』


今までパームが現れたのは、直接こちらに手を下す時であり、もし、まだ何かの準備段階だとしたら、不用意に向かうと相手の目的が何か分からないままに雲隠れされる可能性はある。

それを考えると、その法久の意見も正しいと言えた。



『ただ、若桜町に向かうことについての問題点は、それだけじゃないでやんすよ。若桜町、というか、おいらたちが金箱病院に留まっていないとならない理由があるでやんす』

「それってもしや、昨日から調べてほしいってことについて、何か分かったってことか?」


話題を置き換えるようにそう言う法久に。

改めて知己はライブの後にお願いしていた調べてほしいことを思い出す。


それは、今回のライブで起きた事件。

それに対してのパームの動機にも繋がるかもしれない内容だった。

すなわち、一度落とされたものが再び能力者として動けるのか、ということだ。


峯村は確かにあの時『オロチ』と名乗った。

それがただの名を騙った出任せであるなら問題はない。


だが、それがもし本当のことだとしたら。

知己たちが考えていたカーヴ能力者としての価値観が大きく覆る。


今まで『パーフェクトク・ライム』の容疑からから除外されてきた、落とされた能力者たち全てにその容疑がかかるからだ。

 

そしてだからこそ、知己の不確かな記憶だけで、あれは別人だと簡単に捨て置くわけにもいかず。

そんなわけで知己は過去、カーヴ能力者において一度落されたものの中に、蘇ったものがいるのかどうか、法久に調べてもらっていたのだ。



『そうでやんすね。だいぶ古い記憶でやんすから、細かいことは分からないでやんすが、落とされた状態から、復活した能力者がいたらしいことは確かでやんす。揶揄なのか本気なのか、どこの誰がそう名づけたのかは不明でやんすが、そんな人のことを、S(スクリュー)クラスって呼んでたみたいでやんす』

「AAAクラスを超える、S(最上級)のクラスとでも言いたいわけか。また大それた名前を。だとすると、やはりこの場所から離れるのも微妙なところだな」

『そうでやんすね』


オロチのように、また復活してくるかも可能性がゼロではないことを考えると。

スタック班(チーム)だけでは荷がかちすぎるかもしれない。


ネセサリー班(チーム)に次ぐ実力を誇る班(チーム)であるが。

何しろここには今まで知己たちが撃退してきたパームの者たちが集められているのだ。


それが仮にオロチのみの能力だとしても。

彼らを監視するための人員は確かに必要だと言えて……。




              (第81話につづく)







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