第24話、ロボ型リュックを背負った勇者の凱旋


「あ、電話終わったでやんすか? ちょうどよかったでやんす。いま、会長から連絡があって、新しく『喜望』に入る新人が到着したそうでやんす。早速会いにいくでやんすよっ」


知己が電話を終え、地下10階に備え付けられた地下でも携帯が繋がるレストルームから帰ってくると、テンション高めな法久に出迎えられた。



「新しく入る人、かあ」


しかし、その言葉を聴いた知己は、いまいち歯切れが悪く呟いて何か考え込んでいる。


「どうかしたでやんすか? もしかしたら晶ちゃんみたいにかわいい女の子かもしれないでやんす、急ぐでやんすよ」

「ああ、うん。法久くんがそう思ってるとこ悪いんだけどさ。法久くん、ここに残っててくれないか?」

「なっ? ど、どういうことでやんすっ。こんな所に、独り身の寂しい男を置き去りにするつもりでやんすかっ!?」


知己くんの人でなし! と泣き崩れかねない法久をどうどうと制し、知己は言葉を続ける。



「己さ、決めたんだ。ずっと考えてたことだけど、この世界を救うためには何が一番必要かって」

「ふむふむ」


法久は知己の口調から、これから重要な事を話すだろうと察し、ただ頷きだけで続きを促す。


「それってさ、やっぱり後にも残る情報だと思ったんだ。法久くんの力こそが、一番重要なものなんだって」

「おいらの力でやんすか? 買いかぶりでやんすよ。知己くんの力に比べればたいしたことないでやんす」


謙遜でもなんでもなく本当にそう思っていた法久は少し笑ってそう言うが、知己には違うようだった。



「正直に言うとさ、己は……己の力は『パーフェクト・クライム』には勝てないんじゃないかって思ってる自分がいるんだ。いつも感じてたんだ。あの力だけはどうにもならないんじゃないかって。でもさ、勝つ事はできないかもしれないけど……勝てる見込みを見つけることはできるかもしれない。そして、それを生かしておけるのは、法久くんの力だけだ。法久くんの【頑駄視度】の力で、『パーフェクト・クライム』に関するあらゆる情報を保存しておければ、いつかは『パーフェクト・クライム』に対抗できる何かが生まれるんじゃないかって、考えたんだよ」

「……」


それが何を意味しているのか。

理解してしまった法久は、唇を噛んで俯いた。



「だから、法久くんはここにいて、情報収集に専念してもらいたいんだ。法久くんにはこれから己たちと、『パーフェクト・クライム』の戦いを全て見届けて欲しい。生きて、見届けてほしいんだ。新人の人には悪いけど、これからはできるだけここにいて人目を避けて欲しいって、考えた」

「つまり、他のみんながどれだけ傷つこうと情報収集に徹しろ、そういうことでやんすか?」


法久の言葉は固い。

それは、この戦いにおいて、もっとも辛い役回りであろう事を互いに分かっていたから尚更だった。



「法久くんとチームを組めないのは残念だけどさ。己が思いつく限り、負けないためにはこれがベストだと思う。でもこれは、法久くんの自由とか意志とかを縛り付けることだ。……どうかな? この考え。法久君はどう思う? 嫌ならそれでもいいんだ。己は法久くんの正直な所が訊きたい」


勝てないかも知れない、でもベストは尽くしたい。

それはきっと知己の本音であり、決意でもあった。


法久はそれを聞き、一瞬だけにやっと何かをたくらんでいるかのような、してやったりのような笑みを浮かべた後、盛大に溜息をついてみせる。



「まあ、知己くんがそう言うことを言ってくるだろうなってことは何となく予想はついていたでやんすよ。そりゃ、おいらだって命は大事でやんす。何が何でも生きろと言われれば、そうするのはやぶさかでないでやんす。けど、ただ黙って見てるのは嫌でやんす。おいらは、そこまで人でなしになるのはごめんでやんす。だから、おいらはおいらなりの方法で、知己くんたちをサポートするでやんす。これに関しては文句は言わせないでやんすよ、それでもいいでやんすか?」

「ああ、それについては任せるよ。己は、とにかく法久くんが無事でいてくれれば構わない」


本音には本音で、そんな心意気を持って。

一息で自分の考えを述べた法久に、知己はしっかりと頷いた。

すると法久は、またしてもにやっと何かを含んだような笑みを浮かべる。


「何だよ、その良からぬ事をたくらんでそうな顔は? 己の言ったこと理解してくれたんだよな。法久くんは極力ここから出ないようにってことだぞ?」

「分かってるでやんすよ。おいらは絶対ここから出ないでやんす」


そう言って、またまたにんまりと笑顔を浮かべる法久に、流石に知己も一抹の不安を隠せなかった。

いつもの法久ならもっと嫌がるというか、しぶるだろうと思っていたのに。

この物分りの良さは何だろうと思ってしまう。



「ま、いいか。それじゃ己は行くから、また余裕あったら顔出すよ。お互い頑張ろうなっ」

「おうっ! でやんすっ」


それでも、やると言ったからにはやってくれるだろうと判断した知己は、法久の言葉を信じ、お互いの拳を打ち鳴らす。

何かをたくらんでるような笑みもいつもの事と言えば間違いなくそうだったからだ。



そして。

勇がイチオシの新人とは一体どんな奴なんだろうなと。

わくわくと緊張の混ざり合った気持ちで、知己はその部屋を後にしたのだった……。




              ※     ※     ※




それから、知己がある意味裏切られたかのような感情になったのはすぐの事だった。


「おーい、知己くーんっ!」


ビルの一階まで戻ってきて、いざ会長の所へ向かおうと思った時だろうか。

法久の、知己を呼ぶ声が聴こえてきたのは。


「何だよっ、部屋から出るなってやくそ……うおおっ!?」


どういうつもりだよと思い、声のする方へ知己が振り返るが、そこに法久の姿はなかった。

代わりにいたのは、バスケットボールくらいの背丈のダルルロボだったのだ。


いや、それはダルルロボかどうかも怪しい存在だった。

首から下の、足や腕は確かにミッドナイトブルーのメタリックボディが眩しいダルルロボそのもののパーツだったのだが、そのダルルロボはどこかで見たようなビン底の極厚メガネをかけており、頭には紅白帽のようなものに、N字が入ったヘルメットを被っている。



「フフフ、思惑通り驚愕で声も出ないでやんすね。そう、これこそまさに、おいらが長年追い求めていたボケとツッコミができるダルルロボでやんすっ! その名も周知の通り、ネモ専用ダルルロボっ!!」


そしてそのダルルロボもどきは、そんなショッキングな事実を口にして。

知己は瞳を見開き、それに近づきつつ叫んだ。



「こ、これがネモ専用ダルルロボっ? し、しかも喋ってるし! まるで法久くんと同じ声じゃないかっ」


どこか近くで法久が喋っているのではないか。

それくらいリアルな、法久と変わらないテンションのトークに、知己は次第に興奮してくる。



「そりゃ同じでやんすよ。本人が喋ってるでやんすから。簡単に説明すると、基本は『スクリーン・オフ』で発動したダルルロボと同じでやんす。このネモ専用ダルルロボの目に映ったものが、おいらのいる部屋のモニターにも映っていて、さらにネモ専用ダルルロボに内蔵された会話機能で、今までは不可能だった軽快な……まさにその場にいるかのようなトークが楽しめるようになったのでやんすよ~」

「へえぇ、凄いなー。これを創った会長の力も凄いけど、考えた法久くんはもっと凄いよ」


知己は、心底感心した様子で声をあげる。

7割方邪魔物、廃棄物しか生み出さないプレゼント攻撃(オウレシャス・トレジャー)で、ここまで芯の通ったものが創れる、法久のダルルロボに対しての一本槍な気質に尊敬の念すら覚える知己だった。


ひょっとして己も本気で願えば、みゃんぴょうゲットできるんじゃなかろうかと。いらぬ妄想まで沸いてくる始末だ。


そして。

そんな様子の知己を見て、ネモ専用ダルルロボはそれだけじゃないでやんすっ、

とばかりにふわふわと浮かびながら、ネモ専用ダルルロボ(IN法久)は言葉を発した。



「感心するのはまだ早いでやんすよっ、何しろ究極のネモ専用ダルルロボでやんすからね。カーヴ能力者同士の戦いにおいてもバッチリなのでやんす。何せ、世界で唯一かもしれない、知己くんの力の影響を受けないダルルロボでやんすから!」


何かの実況でもしているかのように、あるいはノリノリなラジオのDJのように、ネモ専用ダルルロボ(IN法久)の語りは続く。


「それにより、今までの知己くんとのタッグにおける戦略の幅が格段に上がるとともに、知己くんのウィークポイントをカバーする取って置きの機能が付いているでやんすっ。もうスゴすぎておいら自身もウハウハでやんすよーっ!」


先程別れる直前、何かをたくらむようににじみ出たにんまり顔は、この事を知らせたくてうずうずしていたからだという事が良く分かった。

同時に、彼の言葉通りならば、文字通りムテキ状態とも言えるのだ。



「己の力の影響を受けないって、己が言うのも何だけど、やっぱり凄いよ、一体どういう仕組みなんだ?」

「その辺は謎でやんすね。そもそも、おいらの想いから生まれたアイテムでやんすからね。まあ、おいらが思うに黒姫さんとは違って、ファミリアに属さない何かだと思うでやんす」


カーヴに極力依存しいない動く機械のようなもの、つまりはそう言いたいらしい。

それでも、元々カーヴの力から生まれたものなのだから、やっぱり知己の力の影響は受けているのかもしれないが、もともと知己のためだけに創られたもののため、その辺は考える必要ないというのが法久の弁だった。


「なるほどな。確かに己だってゴッドリングの仕組みなんか訊かれても分からないもんな、そういうもなんだろう、きっ。」


やっぱり凄いと、知己が繰り返し感心していると。

何を思ったか、ネモ専用ダルルロボは、足裏についたジェット噴射で旋回しつつ、知己の背中に張り付く。



「ん、何だ何だ? どうした?」

「あ、普段は疲れるから知己くんの背中で待機してるでやんす。で、これが背負うためのヒモでやんすよ」


言われるままに知己が背負うと、袈裟懸けに背負い込んだ黒姫の剣と相まって、なんだかヒーローかぶれのがきんちょみたいに見えて、なんだか滑稽だった。


「よし、これで知己くんも戦う勇者の仲間入り、でやんすね!」

「マジかっ。もしかしてこのまま背負って外を歩けと? おかしな人じゃないか、これじゃっ」


さらに、背中に張り付かれると真後ろの至近距離で会話しているみたいで、とても居心地が悪かった。

勢いに任せて背負ってしまったが、早くも今までの感動を忘れて知己はそれを脱ぎ捨てたい気分にかられてしまう。


「そこらへんは問題ないでやんすよ。敵対してる相手に対してなら、恥ずかしいとか言ってる場合じゃないでやんすし、仲間のみんなは、知己くんがへんなのは会長のせいで周知の事実でやんすからね」

「うぐぐっ、さりげに口悪くなってないか法久くん。しかも微妙に間違ってない気もするっ」


もしかしなくても、この場にいないからって多少いい気になっているのかもしれなかった。


ならば一旦戻って、直接どついてやろうかなんて思ってしまった知己だったが。

背負ってる時はリュックに擬態できるから恥ずかしがらなくても平気でやんす……といった、挑発だか何だかよく分からない法久の言葉にうまく丸め込まれ……そして結局。



やりたいようにやると言った法久の言葉に。

まんまと乗せられたんだと気付いたのは。

それからしばらくしてのことで……。



              (第25話につづく)






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