第4話、将来有望なメンバー紹介
「あー、諸君らに今日集まってもらったのは他でもない……」
「いまさらカッコつけても、手遅れでやんす」
法久の一言で、どっと沸く失笑の波。
「……」
自分が笑われているわけでもないのに、知己はそれに、どっと疲れを感じてしまう。
一方、当の中年男……榛原照夫(はいばら・てるお)は、満足そうにそんな法久のツッコミを無視して話を続けていた。
「ここ数十年、未知の災害が頻発している。『もう一人の自分』もその一つだと思われるが……それらに便乗する形で、今朝オレのもとに一通の宣告状が届いた」
そう言って、榛原は一枚の紙切れを開いてみせる。
「『パーフェクト・クライム』を支持する団体からだ。『パーム』という名前らしい」
………。
榛原のその一言に、辺りはしん、となる。
ここに集まった者たちの中で、その現場にいたものはほとんどいなかったが。
『パーフェクト・クライム』の恐ろしさを知らないものはいなかった。
宣告状なるものに対する不信感と不安感。
まさか、そんなものがいるはずがない。
ただのいたずらじゃないのか、そんな感情が渦巻く。
「なんだか安直なネーミングでやんすねぇ」
そんな沈黙を破るように法久は呟くが。
それよりも知己には気になることがあった。
「『パーフェクト・クライム』を支持する団体。それって、『パーフェクト・クライム』が誰か分かったってことじゃ?」
それは、力持つ誰もが知りたかったこと。
見えない敵に対するより、見える敵に対するほうが何倍もましなのは、火を見るより明らかだった。
榛原は知己のその言葉を聞いて、皮肉げに顔をゆがめた後、薄く笑みを貼り付ける。
こんな紙切れはいたずらかもしれない、榛原だってそのくらいは考える。
でも、もしかしたら、ひょっとしたらという可能性がある限り、それを追うしかないのが現実だった。
知己は、榛原の言葉を臆面どおり受け取っただけなのだろうが。
知己のそんな言葉により、結果的にそれが価値のないものかもしれないという考えは淘汰された。
「さて、どうだろうな。その辺りをこれから調査してもらうわけなんだが、オレが考えるにこの『パーム』という団体は、『パーフェクト・クライム』を破壊神かのように祭りあげ、ただでさえ沈みがちな世間を扇動しようと目論む団体なのだろう」
その、宣告状の内容は、わざと分かりにくくしているかのような長々とした飾りの多い文だったが。
簡単に言うと。
『喜望』の信念を今すぐ捨てなければ、『パーフェクト・クライム』の鉄槌が下る、お前達の命はない、等と言った内容が書かれている。
宣告状というよりは、脅迫文だった。
それでも、それがむしろ望むところといった風に、笑みを強めると榛原は言った。
「もし、この『パーム』という団体に『パーフェクト・クライム』とのつながりがあるとするならば、これはチャンスだ。『パーフェクト・クライム』が世に出て以来、全く掴めなかったその正体を知ることができるやもしれないのだからな」
確かに、榛原の言う通りだった。
今まで後手に、というより何もできなかったに等しいことを考えれば、チャンスかもしれない。
「と、言うわけで君達にやってもらう任務はまず一つ。彼らのおびき出し、だ。『パーフェクト・クライム』の可能性のある人物を張ってくれ、リストはここにある」
そのリストには強大な力を持ち、国によって拘束されている危険人物に加え、一度は『喜望』に属していながらも、辞めて去っていったような者達も含まれている。
しかし、リストというのは名ばかりで。
カーヴの力を持つ人間ならば誰もが怪しいということを、ここにいる誰もが理解していた。
「ふうむ、ここにいる者は18人か。よし、4人一組に分けよう。オレが決めてしまっても良いか?」
そう言って榛原は、知己のほうを伺い見る。
「何でそれを己に訊くんですか?」
「いやあ、一応リーダーの意見は聞いておこうと思ってな」
「己がリーダーだなんて、いつの間に決まったんです?」
少々げんなりして、そう返す知己。
「おいらが推しといたでやんす」
「……」
何の迷いもなく、そう言ってのける法久。
そのあまりにもあっさりとした物言いに、知己は言葉を失ってしまった。
「うむ、オレもともみんがリーダーなのには全く依存がないぞ」
腕を組んで、しみじみと頷く榛原。
「何でっ! というか己の意思は!? それからともみんはやめろっ!」
「だからさ、今確認しとるんじゃないか。改めてリーダーを任されたともみん、どうですか? って」
榛原は知己の言葉を無視し、ともみんを連呼する。
さすがに切れそうになって、どついてやろうかと知己が思っていると。
その前に横合いから声が掛かった。
「くっ、流石はボクの永遠のライバルッ! しかし、いい気でいられるのも今のうちだからな!」
それは、声というよりは叫んでいるといったほうが正しい、あえての高慢ちきな声色だった。
「に、兄さんっ落ち着いてっ。みんなに迷惑だってば!」
その後に続くのは、遠慮の塊のような声。
その声の主は若き兄弟デュオとして人気高騰中である、『AKASHA』の須坂(すざか)兄弟だった。
赤毛ツンツン頭の高飛車な兄が、主にボーカル、作詞を務める勇(ゆう)。
一方、ギター兼作曲をこなす、赤毛の坊ちゃんスタイルの、いつも一歩引いているような雰囲気のある弟が、哲(てつ)と言った。
「いい気って。そんなつもりないの見れば分かるだろうに」
対して知己は、気のない様子で言葉を返すが、
「その余裕、後悔するといい! ボクたちが一足早く、敵の情報を掴み、誰が真のリーダーに相応しいか証明してやるからなッ!」
「たちって、僕も入っちゃってるんだね、兄さん」
そんな二人の様子を見て、思わず笑みをこぼしてしまった。
「リーダー云々はともかく、頼もしいこと言ってくれるね」
「やる気満々でやんすね」
「当然だっ、世界はボクのようなヒーローを、今や遅しと待ち望んでいるのだからなっ」
「兄さん、大げさだよ」
知己たちの言葉に、腰に手を据えて威張る兄に対し、縮こまって周りに愛敬を振りまく弟。
一見ちぐはぐに見える兄弟だが、いざ戦いとなればその息はぴったりで。
特に兄のほうは知己から見ても、今や数少ない一流と呼べる力を持っていた。
「よし、それじゃ第一班は、須坂兄弟と…後、長池、王神ね。君たち4人は、S県にある信更安庭(しんこうやすにわ)学園に向かってくれ。今や唯一の、力あるものを覚醒させる施設や、カーヴ暴走者のための施設があるのは知ってるな? そこの関係者の中には、カーヴの力を持つものも多い。新人の発掘、スカウトといった名目で話は通してあるから、堂々と彼らの監視が行えるはずだ。その際に、『パーム』の連中が出てくればよし、ついでに本当に新人のスカウトもしてくれると助かるな」
「ボクに全て任せておけばい」
「は、はいっ。頑張りますっ」
「わかりましたっす!」
「……了解」
榛原に呼ばれた4人は、それぞれにそう答える。
ベィビィフェイスでいかにも良い人が服を着ている、後輩下っ端気質な長池慎之介(ながいけ・しんのすけ)と、実は結構若いのにいぶし銀を地で行くダンディなお
じ様な王神公康(おうしん・きみやす)は。
それぞれが以前バンドを組んでいたが、他のメンバーがかつての戦い、『パーフェクト・クライム』などにより能力を失い、残された人達だった。
バンド活動自体は今もやっているのだろうが、残されたという意味では、知己や法久と同じような境遇だろう。
「てな具合で決めてくけど良いかな、リーダー&エース?」
榛原は無駄に格好をつけくるりと振り返って、知己にそう言ってくる。
オヤジの割にはそのステップは軽快だった。
「だからなんでいきなり己なんですかって。しかも何か増えてるし」
「いい加減諦めたら? 勇くんはあんなこと言ってるけど、あなたがリーダーであることに、ここにいるメンバーで異存のある人なんでいないんだから」
知己がぼやくと、今度は後手から掛かる少女の声。
振り向くと、そこには『スタック』という名の女性バンドのボーカリストである、真光寺弥生(しんこうじ・やよい)がいる。
「そうだよー。知己にーちゃん、リーダーやればいいよぅ」
そして間髪おかず、その隣にいた同じくスタックのメンバーである、小柴見美里(こしばみ・みさと)が続けた。
彼女たちは、姉妹でも双子でもないのに、翠緑に染められたセミロングの髪と、薄緑色の瞳がおそろいだった。
あえて似せている(ウィッグやカラコンをつけている)ということらしいが、そんな二人のステレオ攻撃に、流石に知己もたじろぐ。
思わず周りを見渡すと、確かに知己をリーダーにすることに誰も異存がないようで彼女たちの言葉に頷いていた。
「やよいちゃんたちもそう言ってることでやんすし、もう観念するでやんす」
知己はそんな法久の言葉に、一つ息を吐いた。
「いや別に、リーダーになるのが嫌っていうか、己の意思を少しは介入させろという当然の主張をだな」
「それじゃ何か? ともみんは、リーダーをやる意思がないとでも?」
「そんなことは言ってません」
「ならいいじゃないか」
「……そうですね」
ニヤニヤと、分かっててそう訊いてくる榛原。
なんだか妙に自分だけ何かを損しているような気分に陥りつつも。
知己はリーダーを務めるのを承諾したのだった……。
(第5話につづく)
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