第3話 罠に嵌められたのはグレイ

3-① 後は明日になれば……

 夜とは太陽が沈んでから上るまでの時間である。太陽が一時的だが存在しないため、火や灯りなどが無ければ完全なる闇の世界であり、多くの生物にとって休息の時間として使われている。

 しかしそんな夜の時間に活動するものもいる。それは蝙蝠や泥棒、そして今ヴァルハラント学校の生徒会室にいるものも、同様である。


「よし……」


 身を起こした一人のもの。目元以外は完全に黒い布で覆われているため外見は何も分からないに等しい。声の低さと、長身であることから恐らく人族の男であることが推察できる程度だ。

「後は明日になれば……」

 それから先男は口にしなかった。そしてまるで闇に溶ける様にしてその姿を消した。




 そんなことが起きた翌日の放課後、グレイは生徒会室に向かっていた。特別活動を意図していたものではなかったが、待ち合わせをしていたためであった。

 最もその足取りは小走りではあったが、軽やかでは無かった。不服そうに唇を軽く歪め、ため息を軽く溢しつつ心中にくさくさした感情を抱いていた。


(たく……何でこうなるんだか……)

 待ち合わせしている相手が不愉快だから、ではない。グレイの心中を騒がしているその理由は学生に有りがちなもの、勉強についてのことと休日についてのことだ。

 来週、偶然なのだがグレイの組では小試験が3教科立て続けにある。その中でもトステ・ウヨシ教諭の出す問題は質、量共に「めんどくさい」という定評がある。必ず出てくる引っかけや重箱の隅をつついた問題が必ず出てくる。その上、選択肢式の問いが少なくて、文章で答えさせるものが多く、減点に非常に厳しい。そんながものがわんさと出てくる小試験なのだ。

 一度の小試験程度、サボってもよいのではないか。そんな考えを思わないでも無かった。だがグレイの成績は落第寸前とは言わないが、多少やばい状態にある。だからとれるところで点数は取っておきたい。もし少しでも気を抜くと、後々腹打ちの様にじわじわと効いてくることもあり得る。


(それにしたって何も今週じゃなくてもいいだろうに)

 内心で愚痴りながら歩を止めず進めていく。

 単純に試験があるだけならグレイも特別思うことなく、勉強すれば済んだのだ。しかしそこに休日予定が絡んでしまった。


 今週の休日は前々から遊びにいく予定を組み込んでいた。以前から軽く企画してあったそれはグレイにとって非常に楽しみにしていたものであった。その予定の詳細を詰めるため、生徒会室に向かっているのだった。

 それがあるから今週の休日は楽しみでもありながら、あまり過ごしたくない、複雑なものに変化させてしまったのである。試験の点数は欲しいが、もがいても結果となって現れてくれるかどうか。それがグレイの内心に不安として浸食し始めていた。


(……ま、今は考えても仕方ねえ)

 だがそれもここまでにした。生徒会室の扉の前に来たとき、その腐った感情を心の奥底に封印して期待する方に思考の舵を取ることにした。

 生徒会室の扉を軽く叩いてから開け、慎重に中を窺う。

「あ、せんぱーい!」

 そこには既に正確に分類された書類の束と、地図と筆記具を並べていたミリアがいた。

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