1ー④ これだって一兆歩くらい譲ってるからな

 結局、グレイの意志が挫けたことでその場は収まった。

 もちろんグレイ本人としては納得などしているはずもない。腹に据えかね、ヴァンに対して殴る、蹴る、魔法をかますと言った暴力行為を浴びせ続けた。だがヴァンが折れることも無かった。

 グレイ自身、特に力が強いわけでもなく、魔法力も人並み以下であったこと。

 そして逆に、ヴァンは肉体面も魔法面もグレイとは比べものにならないほど高いこと。

 ここにヴァンの不屈の精神が重なったことから、こうなってしまった。

 だが、グレイは心の底から納得したわけではない。というか欠片もしていない。そもそもそんなことできるはずがなかった。不平不満しかない様な状況だ。

 故に今、グレイはこうなっていた。


「で?」

 険しい目、椅子に投げ出している身。カツカツと机を打ち付ける指。不機嫌丸出しな声。誰の目から見ても明らかな程、グレイはイラついていた。

 しかしそれが、自分が原因となっているなどとヴァンは露程にも思っていなかった。そうでなければ理解できないといわんばかりの、疑問を浮かべた顔をしなかっただろう。

「で、とは? 何か分からないことがあるのか?」

 それは声色からでも伺えた。全く嫌みや皮肉のような感情など少しも含んでいない、純粋な思いがあふれる言葉で、ヴァンは訪ねた。

 そしてそれがなおさら、グレイの怒りにつながっていった。。


「ああ、分からないことだらけだよ。正直お前の存在意義とか、価値だとか、俺には全く分からねえ。が、それは置いておく。これだって一兆歩くらい譲ってるからな」

 グレイのむき出しすぎる悪口に全く応える様子は無く、ヴァンは悠然としていた。

「ふっ、やがてお前にも分かるようになる。時がお前を大きくしてくれよう。そのとき後悔と共に思い知るがよい」

「分かりたくもないわ! ……で、とにかくだ」

 会話の流れを変えようとしたのか、グレイは軽く机を叩いた。

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