第42話
「えーっと、なんの事ですか?」
一瞬でばれた。
そして、咄嗟に返した言葉を聞いて、目の前の男性は後退りしながら答えてくれた。
「お前……その変装でばれないと思ったのか?」
呆れた表情を見せる三人。
その言葉を聞いて、やっぱり? と思った。
少しだけど期待はしていた、なんとかなるんじゃないかと、だけどちゃんと考えたら、やっぱり駄目だ。
そして、目の前の男性は後ろのボートに向け、大声を出す。
「如月が来ました! お願いします!」
その言葉が響いた時、ボートの中からは男性と女性、数は三人と少ないが精霊召喚士なのだろう、隣には精霊を従えている。
その姿を見て、誰よりも速く行動したのはアグニルだった。
「貫け━━
後ろの三人目掛けて細い雷を放つ、速度は僕の知っているアグニルの霊力術では一番速い。
二人には当たったが、心臓から離れた腕だ、動きを止める事はできなかった、そして、一人は上空に避け、
「風の精霊よ、奴等を吹き飛ばせ━━
風の精霊か━━威力は無いが、足を地面に付けているのがやっと、というぐらいに強風が吹く。
そして、ある事に気付いた。
「キャアアアア!」
「━━柚葉!」
「柚葉ちゃんを守れ━━
風に煽られ、宙に浮く柚葉と小人達、その姿を見て、カノンは霊力術を発動する。
「ありがとう、カノン!」
「はい。主様、前!」
その声を聞いて慌てて前を向く、目の前には獣の姿をした男性が鋭い爪を突き立てていた。
━━後ろに下がるか、いや、この距離で下がってもそのままやられる。
僕は左に飛んで避ける選択をした。
だがその先の地面には青色の六芒星が描かれ、六本の水の柱が勢いよく上がる。
これは水の精霊術か霊力術か━━避けられない。そう思った瞬間。
「術の使用中は隙が生まれるぜ━━
エンリヒートは炎に包まれた剣を、術者である水でできた人形の精霊とその隣にいる召喚士目掛けて振り抜く、距離は離れている、だがその刃先からは燃える炎の塊が飛び、二人の目の前で爆発する。
その瞬間、僕を包む六芒星も、水の柱も消えた━━攻撃よりも守りに集中する為に、攻撃を断念してくれたのか。
「助かったよエンリヒート」
「いいって事よ、まあ、私が助けなくてもカノンが助けてたと思うがな」
「本当ですよ……余計な事を、私が助ければ主様に感謝されてたのに」
ボソッと呟くカノン、霊力術を使おうと思っていたのだろう、こちらに向けた右手をゆっくり下ろす。
そして、三人の従えてる精霊がどんなのか、これでなんとなくだが理解できた。
小柄な男性は風の精霊、大柄な男性は獣の精霊、冷静そうな女性は水の精霊。
そしてアグニルは風の精霊の相手をしている、実力では勝っているが動きが速い、といった現状か。
「エンリヒート! アグニルと相手をかわれ、君の動きなら余裕だろ?」
「ふっ、当たり前だぜ━━アグニル! 水の精霊を相手にしろ!」
「━━ちっ、そいつ、動きだけは速いから」
舌打ちをしたアグニルは左に飛び、その後ろから、エンリヒートが日本刀を振り下ろす。
僕の咄嗟の指示に反応した、完璧な場所移動だった。
動きの速い風の精霊には、動きの速いエンリヒートを。
水の精霊には雷を使うアグニルを、少しは戦闘に慣れてきたのか、ちゃんとした指示だったと思えた。
そして、僕は━━
「カノン! 弓を━━」
「もう出してますよ主様」
カノンに弓を出して、と言おうとして後ろを振り返ると、既に弓を出していたカノン。
本当に凄い精霊達だ、僕には勿体無い。
「カノン! 僕も行くよ、援護して!」
「わかりました! 主様の事は私が守ります」
僕は獣の精霊を従えてる召喚士を相手にする。
精霊の姿が見えないという事は、あのふさふさした赤毛が精霊なのか、もしそうなら身体強化しているのだろう。
そして向こうの召喚士も僕に標的を定めたのか、凄い勢いでこちらに飛んでくる。
「おいでおいで、私の可愛い羊さん達!
だが、その行く手をカノンが呼び出した羊達が阻む。
その羊の姿を見て、舌打ちをしながら方向を変え、こちらへ向かってくる。
行く先を予測して矢を放つ、大きさは針のように細く、威力は少し高め、速度を最大限まで上げる。
奴が羊に目を奪われた時に放つ、それまでじっと待つ。
乱れた呼吸を整え、奴に気付かれないよう、川から姿を現した魚を狙う鳥のように。
そしてその時がやってきた、奴は目の前に羊が現れ、咄嗟に横に避けた、その瞬間━━矢を放つ、思想通りの細くて速い矢が。
「━━ぐうっ、がはっ」
当たった━━奴は宙を舞い、後ろから地面に倒れた。
奴に怨みはないけど、僕達はここで立ち止まるわけにはいかない、邪魔をするなら━━
そんな時、カノンの焦った声が聞こえた。
「主様! 最初の男がいません!」
「えっ!?」
「お兄ちゃん、あそこ!」
辺りを見る僕に、柚葉はボートの中を指差す。
そこには、最初の男性達がボートの中にいた。
隠れているだけ、それなら別に良い、だけど手に持つ機械を目にして、落ち着いた感情は焦りの感情に変わった。
「
彼らが必死に操作しようとしていたのは通信機器、ここに助けを呼ばれるのも、僕達が日本第一支部に向かおうとしていることも、誰かに伝えられるわけにはいかない━━だけど距離も遠く、気付くのも遅れた、駄目だ。そう思った時、
「狂え狂わす、そしてその操作を我に━━
隠れていた、そう思っていた雫の声が聞こえた、何をした? 彼らの慌てた声が聞こえた。
「おいっ! こんな時に故障か!? ふっざけんなよ!」
「他のも駄目だ! 操作できない!」
彼らは慌てていた、通信機器が使えない?
それを行ったのは雫なのか、彼の精霊はいったい。
そして、本当に隠れていた雫が姿を現し、
「これであの機械は使えなくなりました! お役に立てましたでしょうか?」
「これは……君の精霊はいったい」
「侵食……ですか、相手にはしたくないですね」
どうやらアグニルとエンリヒートも終わったみたいだ、近くまで寄ってきたアグニルが嫌な顔をしている。
侵食━━おそらく雅の精霊と同じ系統だろう、だが詳しくは知らない、その事を説明してもらおうとした、だが雫は慌てながら、
「急いだほうが良いですね、少し止めるのが遅れてしまったので、たぶん仲間を呼ばれてしまったと思います!」
「そうか……でも運転はどうするの?」
「それなら自分がします! 得意分野ですから!」
自信満々に答える零、機械関係に強いのか、そう思って操作に関しては彼に任せてボートに乗り込もうとした。
「わかったよ、じゃあ行こうか━━どうしたの、三人共?」
「主様……あそこに誰かいます」
三人は同じ方向をじっと見ている。
確かに誰かいる━━そして、その人影は形を現し、僕達の前に現れた。
その姿を見て、エンリヒートが口を開いた。
「シルフィー! 無事だったか!」
「……当たり前でしょ」
目の前に現れたのは、あの時別れたシノとシルフィーだった。
エンリヒートの言葉を素っ気なく返すシルフィー、その隣にいるシノを見て、彼女達に何があったのかを理解した━━嫌な方を。
そして、シノはこちらをじっと見つめ、
「如月君、あなたには感謝してるよ」
「えっ……どうしたんですか」
「お母さんの━━お母さんとお父さんの最期に会わせてくれて」
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