第41話
僕達は後ろを振り返った。
そこには若い声に似合った風貌をした少年が一人。
黒色のもっさりとした髪に、多少の緑の髪が混じっている。
そして、その小さな顔に一際目立つ大きな目、はっきり言って男なのか女なのかはわからない顔立ちだ。
身長も百五十くらいと、小柄な体型だ。
「……なんでしょうか?」
完全に僕は警戒している、それはそうだろう、まだ建物から出てから五分、歩数にしたら百は歩いてない。
まだ離れていない距離で、それに僕達に話をかけてきた、完全に狙って話しかけてきたのがわかった。
だが、少年か少女かわからない姿をしたもっさり頭は手を横に振り、慌てながら、
「違うんです違うんです、自分は皆さんに何かしようとか、そういう気は無いんですよ」
「あなた達に何かしよう━━やっぱり怪しいですね」
必死に無害を主張しようとしたのだろうが、その言葉が逆に怪しさを増す。
僕達の事を知らない者なら決して━━あなた達に何かしよう、等という言葉は使わない。
その言葉に不信感を抱かせるカノンに睨まれ、もっと大きな手振りで否定する。
「本当に違うんです! 自分は皆さんの仲間になりたいんです!」
「仲間に? 怪しいですね━━」
「こらっ、アグニルちゃん!」
今度はアグニルが不信がるが、そんなアグニルの頭を動かない小人達で軽く叩く柚葉。
「不安がるのはわかるけど、話を聞いてからにしよう? じゃないと……なんだか可哀想だよ? それに女の子を苛めてるみたいでやだ」
「あの……自分は男なんですが」
「男の子なんですが!? あの、ごめんなさい」
「まあ、それはおいといて。僕も柚葉の意見に賛成だよ、一度話を聞いてみようよ?」
男の子と聞いて驚く柚葉に、僕は話を戻した。
アグニルとカノンは僕の事を心配して言ってくれているのだろう、それは嬉しいし、今は周りを疑わないといけない状況なのはわかる。
だけど、話を聞くぐらいならいいだろう、それにこの小さな男の子一人で僕達をどうにかできる━━とは思えない。
「それで、どうして僕達の仲間に? えーっと」
「あっはい、自分は━━
「━━神宮寺!?」
雫は言いずらそうに名乗った。
神宮寺━━もしかしたら違うかもしれない、だけど、神宮寺という名前を聞いて一人しか思いつかなかった。
他の皆も同じ事を思ったのか、一歩後ろに下がり警戒している。
そんな警戒体勢中、真っ先にカノンが口を開いた。
「━━神宮寺、あの神宮寺と関係があるんですか?」
「ええ、まあ、その、自分は一応……息子です」
雫が言葉を発した瞬間、アグニル、エンリヒート、カノンの空気が一変した。
この場所で零に攻撃するような、そんな周囲の注目を集める行為はしない、だけど彼が何か行動をした時、すぐに動けるように腰を下ろし、零の視線をじっと見ている。
その姿を見て、零は再び慌てながら首を横に何回も振る。
「いやいやいや、ちがいますって! 自分は確かにあの人の息子ですけど━━昔に捨てられましたから」
「捨てられた? それを証明する事はできますか?」
「それは……無いです、でも! 自分一人で皆さんをどうにかする事はできませんから!」
アグニルの言葉を聞いて堂々と答える零。
そんなに堂々と言われたら逆に清々しい。
そして、少し声を出し過ぎたか━━周りには人が集まり、周囲から視線を感じる。
「とりあえず、ここから離れて話を聞かない? ちょっと視線を集めすぎたみたいだから」
「はい! 自分はそれで全然大丈夫です! じゃあ歩きながら話ましょう」
「━━零さんは主様の前を歩いてください。念の為に」
零は一瞬喜んだ表情を浮かべていたが、カノンの不信感を全面に出した一言を聞き、一瞬にして落胆の表情を浮かべていた。
あくまでも目の届く所に、という事か━━少し可哀想な気もするが仕方ない、信頼する事はできないのだから。
* ** ** ** ** ** ** **
僕達は人の気配の無い場所まで歩いた。
一本の通路の真ん中を歩く僕達━━足下には浜辺のようなサラサラとした砂ではなく、蹴ったら塊で飛んでいくような、粘土を含んだ固い土、そして左右には緑豊かな木々が立ち並び、一切の人工的建物が無い森だ。
その一番先頭に零を歩かせ、その後ろに僕達が並ぶ━━これでは零が人質にしか見えない、だがこの案をすんなり零は受け入れた、身の潔白を証明する為、なのか。
そんな前を歩く零に、僕は声を投げ掛けた。
「話が脱線しちゃったけど、何で僕達の仲間になりたいと思ったの? もし本当に捨てられたとしても、君の父親に僕達は狙われてるんだよ? 言ってしまえば僕達は敵同士」
「はい……だからこそです。皆さんがあの人に狙われてると知っていて、皆さんならもう一度あの人に会うと思ったから━━どうしてもあの人の事が許せなくて、もう一度会って自分とあの人の関係をしっかりと終わらせたいんです!」
雫ははっきり、どこか怨みのこもった口調で答える。
捨てられた怨み、か。
聞いているかぎりでは普通の親子と いう感じはしない、何か、大きな溝が空いた出来事があったんだろう。
最後にもう一度会って言葉を交わし、二人の関係を終わらせたいのだろう。
だが、その言葉に精霊達の追及は続く。
「本当に……それだけですか? 何か隠してませんか?」
「怪しい、怪しすぎる。他に理由があるんでしょ?」
「はっきり言った方が身のためだぞ? 今なら怒らないからさ」
「えっ、いやーその」
カノン、アグニル、エンリヒートの順の問い掛けに、零は目を泳がせながら答える。
何か隠してますよ、と無言で答えているようなもんじゃないか、その反応は。
「まあまあそれで? 仲間になるって事は君も精霊召喚士なのかな?」
「えっ━━はい! 自分が、その精霊召喚士です!」
挙動不審に答える零、それを怪しく思ったのか、僕の精霊達は目を細めながらじーっと見ている。
━━だけど、急に風に運ばれてきた海の匂いがして、僕達の目の前には広い船着き場が見えた。
僕達は話を中断し、木の陰に隠れながら船着き場の様子を伺う。
「今のとこ……何も変化はないね」
「ああ、日本がこんな状況だってのに楽しそうだな、あいつら」
エンリヒートは船着き場にいる人間を笑いながら見ている。
決して大きくはないボートが
その前には楽しそうに会話をしている男性が三人、他に人の姿は感じられない、
「大丈夫そうだね、とりあえず零を仲間にするのは僕としては良いと思うんだけど、皆はどう思う?」
「えー、まあ主様がそう言うなら、私達はいいけどよ」
「本当ですか!? ありがとうございます! 頑張りますから!」
「主様……本当にいいんですか? 完全に怪しいですよ?」
「まあそうなんだけど、でも今人手が欲しいのは確かじゃない? それなら信じてみてもいいかなって」
「私達は主様に従います。それにスパイとかだったら━━私達が対処しますから」
対処します、その言葉を聞いた瞬間、零の表情が強張る。
零は色々な感情を表に出していて、なんていうか表現力豊かだな。
━━そして、
「それじゃ……行こうか」
僕の言葉に皆が頷き、一歩前に足を踏み出した。
船着き場までの道はあちこち荒れていて、赤とか黒とか、色の様々なタイルが埋め込まれているのだが、色々な箇所が剥がれていて道と呼ぶかの判断は難しかった。
そんな道を歩きながら僕は緊張していた。
ばれないだろうか、と。
変装は完璧、そうはっきりと言えないが、やれる事はやった━━きっと大丈夫だ。
それに、船着き場にいるのは三人、おそらく従業員だろう、それなら僕の顔を知らなくても不思議ではない。
そして、僕は船着き場の従業員に声をかけた。
「どーも、日本第一支部に行きたいんですけど」
「━━お前、如月 柚木だな!?」
僕の期待は一瞬にして崩れさった。
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