第7話


 僕の目の前に現れた幼女、炎の精霊エンリヒート。

 僕の脳裏に浮かんだ言葉は確かに精霊召喚の詠唱だった、そして呼び出したのは僕だ。

 だが精霊スピリット召喚士サモナーが契約できる精霊は一体しかできない。


 精霊召喚士には召喚に使う霊力コストと、精霊術スピリートに使う霊力コストは同じだ。


 ただでさえ召喚に必要な霊力は膨大なのに二体の精霊と契約をして同時に召喚した場合、霊力切れになり意識を失うか、万が一足りていたとしても不完全な精霊が召喚される。


 なので誰も複数の精霊とは契約を結ぼうとは思わない、ありえない筈なのだが。




「主様どうした?」


「いや……なんでもないんだ」




 僕の目の前にはアグニルと同じく主様、と呼ぶ幼女。

 幼女と言ってもアグニルよりは多少だが身長は大きい、胸も少し膨らみを感じさせ、中学生くらいの膨らみだろう。




「てめぇら!! 遊んでないで早く手伝え!!」


「えっ、はい!! 二人とも僕はどうすればいいかな!?」


「主様はここで待っていてください!!」


「私達が速攻で蹴散らしてやるからよ!!」




 少女二人に守られる僕。

 一緒に戦おうにも僕には精霊術スピリートが出せない。

 みやび侵略者アンドロットの攻撃を避けながら小人と同じく、銀色の弓矢で応戦している。

 恵斗けいとはその屈強な肉体を生かし、白銀のフェンリルの様に侵略者アンドロットを力強く殴りまくっている。


 それなのに僕はただ見ている事しかできない、他の皆が戦っているのを。




「主様、危ない!!」


「えっ??」




 考え事をしていて周りを見てなかった、エンリヒートの言葉を聞いて初めて、周りに侵略者が集まってきていたのを知った。

 鋭い爪を振り下ろそうとしていた、




「主様に近付くな!!!!」




 間一髪の所でアグニルの雷の剣で救われた柚木、エンリヒートも慌てて戻ってくる。




「主様どうした? ぼーっとしてたら危険だぞ?」


「いや、何か手伝えないかと思ってね」




 僕の言葉を聞いた二人はぽかんとした表情をしている。

 真面目な事を言ったつもりなのだが、二人には面白かったのだろう、二人は顔を見合せ爆笑している。




「ハハハッ!! 主様は精霊召喚士だぞ? 戦うのは精霊である私達の役目だって」


「だって他の皆は戦っているから」


「もし……どうしても力になりたいなら━━」




 アグニルはそう言って僕に近付く。

 そして僕の手を握りそっと自分の耳に付いている精霊石へと誘導する。

 その瞬間、アグニルの精霊石と僕の精霊石は赤い光を放つ。





「私達は主様が想ってくれるだけで本来の実力が出せます。私達は主様の剣であり、盾でもあるんです。なので私達を見守っていてください」


「そうだぜ!! 私達は精霊王である主様に呼ばれた強力な精霊だ━━」


「エンリヒート!!!!」





 笑顔で話すエンリヒートを止めるアグニル。

 初めて聞いた精霊王という言葉、そしてこんな大声を出し、エンリヒートを睨み付けているアグニルを、僕は初めて見た。





「精霊王って?」


「……これが終わったらお話します。だから今は私達の無事だけを祈っていてください━━、行くよエンリヒート!!」


「ああ……じゃあ行ってくるぜ主様」





 二人は再び侵略者の大群へと向かって行った。





「邪魔だ!! 焔竜えんりゅうの舞い!!」




 エンリヒートは目で追っていても見失ってしまうくらい動きが速い。

 両手に持っている日本刀に炎の渦を纏い。

 侵略者アンドロットへ軽々と振り回し、次々に斬り付けていく。

 その動きに一切の無駄は感じられず、まるで身体と剣が一体化している様な動きだ。




「唸れ雷、全ての障害を凪ぎ払い、敵を伐て━━、千本サウザンド落雷ライトニング!!」





 アグニルの詠唱が終わると、黒雲からは轟音が鳴り響き、無数の雷が降り注ぐ。

 侵略者達の紫色の体は一瞬にして無惨にも黒い残骸となり、風に吹かれ粉々に消えていく。

 二人の力は圧倒的で、何者も寄せ付けない。





柚木ゆずき……お前の精霊は何なんだ? それにもう一人の精霊もお前が呼んだのか?」


「いや……それは」





 完全にやる事が無くなったのか、恵斗けいとみやびが僕の所に集まってくる。

 説明を頼まれても僕には何も言える事は無い、だって僕が一番聞きたいのだから。





「あれは……初代精霊召喚士━━、だな?」


「━━っ!!」





 仲神なかがみは核心に迫った質問を柚木に向けてきた、僕は咄嗟に否定も肯定もしない、ただ中途半端な声を漏らした。

 そんな僕の表情を見て、仲神はため息をつく。





「……あの雷は初代精霊召喚士が契約を結んだ精霊の雷だ。何度も資料を拝見したからわかる━━、まさか精霊に生まれ変わってるとはな」


「私の契約した精霊まで知っている人がいたとは━━、迂闊でしたね」


「……アグニル」





 いつの間にか巨大な門は消え、青々とした空に戻っていた。

 アグニルとエンリヒートも終わったらしい、エンリヒートは笑顔だが、アグニルは少し気まずそうにしている。




「……二人ともお疲れ様」


「楽勝だったよ、主様!!」


「ありがとうございます、それではご説明します━━、何故私達が主様と契約したのか」

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