第8話
木々の隙間から漏れる太陽の光は温かく、それぞれの耳には木葉が揺れる音が鳴り響く。
それもその筈、誰も言葉を発しない沈黙が流れているのだから。
エンリヒートはアグニルの隣でじっとしている。
そんな皆の視線は、自然とアグニルへと向けられている。
「まず……主様は他の
「唐突だな……異なるとはどういう事だ? 初代精霊召喚士」
口を開いたアグニルの言葉に、堪らず口を挟む仲神。
大木に背中を合わせ、腕を組む姿は大人の風格を漂わせると同時に、何処か威圧的だ。
アグニルは初代精霊召喚士と呼ばれるのが嫌なのか、眉間に皺を寄せながら仲神の方をじっと見上げ睨んでいるのだろう、ただ威圧感は全く無い。
「主様は精霊術を何一つ使えません、何故だかわかりますか?」
「えっ……わかんないけど、単純に才能が無いからかな?」
「柚木……精霊術は才能に関係無く精霊と契約を交わした瞬間、最低一つくらいは使えるんだぞ?」
「これ、座学で習ったと思いますけど」
恵斗と雅の言葉は、何だか馬鹿にしているようで棘を感じる。
確かに習った気もするが、正直あまり覚えていない。
仲神は教師として情けないといった心境なのか、わざとらしいため息をつき、アグニルに質問する。
「普通は精霊召喚士は一体の精霊と契約を交わし、その精霊から少し質は落ちるが同じ能力を使えると言われてきた━━、なのにこの馬鹿は何も使えないのは何故だ?」
「ええ、両親が精霊召喚士だった場合、
仲神とアグニルはとても難しい話をしている、それに僕が馬鹿という事で話が進んでいる気がするのは気のせいではないだろう。
「難しい話はちょっと……結論的にはどういう事なのかな?」
「結論的には主様は召喚しかできません」
アグニルの直球の言葉を聞いて一同は愕然とした。
要するに僕は召喚だけして、後は精霊達に全部お任せするという事だ。
なんともカッコ悪く、情けない精霊召喚士だ。
「主様……話は最後まで聞くもんだぜ? アグニルも、そこで話を止めたら勘違いするだろ? 見てみろ……主様が悲しそうにしてるぞ!!」
「……主様の悲しそうな顔も好きですが━━、まあ悲観する事ばかりではありませんよ? 主様には他の精霊召喚士とは違う部分があります。それは精霊の同時召喚ができる事です」
エンリヒートは笑顔のままアグニルに注意する、この二人は仲が良いのか、なんだか楽しそうだ━━。
だがアグニルがさらっと、変な事を言っていたのは聞き間違いなのか。
「まさか、二体の精霊を召喚した時点でどんな優秀な精霊召喚士であっても、意識を保つ事さえ不可能だ」
「でも現に主様はできてますよ? それに私が精霊召喚士だった時にはできましたから」
声を荒げる仲神の言葉に、落ち着いた表情で答えるアグニル。
そして更なる衝撃の事実を知って、仲神は珍しく動揺している様に見える、髪を後ろへとかきあげ、焦りと苛立ちを混ぜた表情をしながら、アグニルに近寄る。
「馬鹿な!! そんな事ができてたなんて資料の何処にも記載されてなかった!!」
「ええ、誰にも言ってませんし見せてもいませんから」
「もし仮に……それが本当だとしても。この馬鹿ができる理由にはならないだろ!? いくら元精霊召喚士だとしてもそんな事は━━。まさか、この馬鹿に自分の元々持っていた霊力を少しだけ分けたのか?」
「……半分正解で半分不正解です」
怒りや動揺を見せたかと思ったら、急に考えこんだりと、多彩な感情を露にする仲神の姿を見た事は無かった。
だが仲神の顔が近くにあっても、声を荒げても顔色を一切変えないアグニル。
そして何か決心したのか、僕の方をじっと見つめ、
「私の霊力を半分以上、主様に渡しています」
「えっ……そんな事ができるのか?」
ずっと静観していた恵斗が慌てて口を挟む。
恵斗の言葉を聞いて、一切の躊躇も無く、
「はい、私は精霊術に必要な霊力だけを残し、他の精霊召喚に使っていた霊力を主様に全て渡しました。
主様の精霊術に必要だった霊力は全て、精霊召喚に必要な霊力に変換しました、なので精霊術は一切使えません。
ですが、使えない変わりに主様は私とエンリヒート、二体の同時召喚が可能です━━、そして、まだ契約できる精霊の数は増やせるでしょう」
アグニルの言葉はさっきよりも難しくて理解に苦しむ。
だが、要するに僕は精霊を援護する精霊術は使えないが、変わりに僕自身の全ての霊力と、アグニルの本来持っていた精霊召喚に必要な霊力を僕は貰った━━、という事か。
「ただ欠点もあります━━。契約ができる精霊を増やすには個々に振り分ける霊力を少しでも減らさなきゃいけない事です」
「本来の実力が発揮できない……という事か?」
「いえ━━、体が何故か小さくなっているんです」
話の流れ的には本来の実力が発揮できないとかかと思ったのだが━━、質問した仲神は深いため息つき、
「そんな事かよ……体なんてどうでもいいだろ?」
「どうでもいいとは何ですか!? これじゃ主様を誘惑できないではないですか!!」
「誘惑って……それに元々その身長じゃなかったの?」
「……失礼な!! 私達はこれでも年齢は主様より上なんだぞ? 胸だってもっと大きかったんだから!!」
発展途上の胸元を強調させるエンリヒート、大人になれば確かに綺麗な女性になるだろうとは思う。
大人の姿をした二人を見てみたいとも思う。
「どうやら私達は身長以外は本来の実力と何も変わらないみたいですね」
「まあどうでもいいのには変わりないが……、とりあえずはこの事は隠した方がいいだろう。最高で何体の精霊を一度に召喚できるかは知らないが、何体も精霊と契約できて、尚且つ同時召喚できる精霊召喚士が存在する━━、そんな事が世界に知れ渡ったら、世界は混乱して、お前の身にも危険が及ぶかもしれんからな」
仲神は昨日のアグニルと全く同じ事を言っていた、僕の身に危険が及ぶ、それがどういう事なのか━━、それは今の時点では全く理解できない。
ただ、気になるのは、
「僕の事を精霊王と言ったのは……あれは何だったの?」
「……言葉通りだぜ━━。精霊達を統べる者。だから私は精霊王と呼んでる!! 」
エンリヒートは高笑いをしている。
精霊王、それは誰が決め、何故そんな強そうな名前を付けられているのか。
だが、そんなエンリヒートを見ながらため息をつき、呆れているアグニルは教えてくれた。
「はぁ……エンリヒートが勝手にそう呼んでるだけなのであまり深い意味はありません、でも主様は私達の王の様な存在ですから。間違いではありませんけどね━━、主様、手を貸してください」
「えっ? ああはい」
アグニルの言葉通りに柚木は右手を差し出す、アグニルは小さな手で僕の手を掴み、自分の左の頬へと誘導する。
アグニルの頬に触れた瞬間、アグニルと僕の精霊石は赤く輝きだす。
「さっきも精霊石が赤く輝いたよね、これは?」
「ええ、主様は精霊術は使えません━━、ですが契約を交わした精霊を強化したり傷を癒す事はできます」
「でもさっき精霊術に使う霊力は全部、精霊召喚に変えたって」
「その能力は霊力なんて関係無いんだよ、主様。ただ単純に、触れられたら私達は強くなれるし傷が癒える。理由は愛情を司る精霊、アグニルの唯一の能力だからな」
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