第6話
「主様……どうかなさいましたか?」
「いやなんでもないんだ……それよりも凄かったね、さっきの」
「えっはい、まあ
やはり今のは精霊術だったのか━━。
精霊術は契約している精霊の種類によってその能力が異なる。
例えば自分の精霊が火の精霊だった場合、必然的に召喚士の精霊術は火へと変わる、火の剣を生成したり手から火を出したり。
なのでさっきアグニルの使ったのは雷の精霊術、精霊召喚士としての術だ。
もし
精霊には使う事のできない精霊術をアグニルが使ったとばれたなら━━。
「おい!! もう少し先に行くぞ!!」
「はい、アグニル行こうか」
「はい……」
アグニルは少し心配そうにしながらこちらを見上げている、そんなアグニルの手を引っ張り、三人の元へ走り出す。
どうやらこの近くの
「なあなあ姉ちゃん、頑張ったから縛ってくれよ?」
「あっヤキト兄ちゃんずるいぞ!!」
「そうだそうだ、僕も縛って欲しいんだ!!」
「はぁ……帰ってからね?」
奥へと歩き始める四人と精霊達。
言葉だけを聞いていたらただの卑猥な会話にしか聞こえない、そんな三匹の相手をする雅は疲れた表情をしている。
奥へ奥へと進んでいっても全く
━━だが、安息の時間は一瞬にして消えた。
「おい……あれって」
「ちっ、全員戦闘準備!! 門が現れやがった」
仲神の言葉を聞いて空を見上げる。
空を覆う白い雲が黒雲へと変わり、巨大な門が突如現れる。
小人達は小さな弓を手に持ち、今か今かと戦闘の瞬間を待っている。
そして、僕の手をぎゅっと握り締めるアグニルは見上げながら、
「主様……」
「どうしたの?」
「主様は最強の精霊召喚士になれる実力をお持ちです━━、私を越える程の」
アグニルの唐突な言葉。
気付くと監視役と言っていた仲神も詠唱を始めている。
その行動は不測の事態を表している様だ、恵斗と雅にも緊張な顔が見える。
「氷を統べる全ての精霊の主、その汝の主たる我の呼び掛けに応え、力を与え給え━━、
いつにもなく真剣な表情の仲神、詠唱が終わると、この一帯の空気が凍りつき、周りには冷たい霧が発生している。
仲神の背後には青白い姿をした小さな妖精、その姿を僕は知っている。
「この精霊は氷と霧の女王━━、
「ほお、知ってたか……ここからは私も手を出す━━。来るぞ!!」
上空の巨大な門がギギギと鈍い音を鳴らしながら扉が開く。
その中は真っ暗な空間が何処までも続いていて、そこから小さな粒が無数に見える、遠くてはっきり見えないがあれ全てが
「ぼけっとするな!! あっという間に囲まれるぞ!!」
僕達三人は突如現れた門に目を奪われていた━━。
そんな中、仲神は精霊術を使い手から氷の礫を侵略者目掛けて放つ。
白銀の
三兄弟の小人は手に持つ弓に矢をつがえ、近付く侵略者目掛けて放つ。
アグニルは━━、アグニルはまだ僕の手を掴み、じっと見上げてる。
「主様……目を閉じてください」
「えっでも!?」
他の皆は戦ってる、だがアグニルはそんなの関係無い、と言いたそうな表情を浮かべ、僕の手を掴む力を強める。
僕はアグニルの言う通りにして目を閉じた。
「主様は私と契約した事で、私の力が使える筈です」
「アグニルの力って、雷の?」
「いいえ、それは私が精霊召喚士だった頃に契約していた精霊なので違います。私自身の力です」
「アグニルの力?」
「はい、頭の中ではその詠唱の仕方は理解している筈ですよ?」
不思議だ━━、侵略者が近くにいる筈なのに全くそんな音がしない、僕の耳から聞こえるのはアグニルの優しい声だけ。
そして目を閉じ、真っ暗な景色の中微かに脳裏に浮かぶ言葉、これがアグニルの言っていたアグニルの精霊術なのか━━、でもこれは。
悩んでる僕の手を、いつの間にか掴むから握るに変わっていたアグニル、どうやら気合いを入れてくれているのだろう。
柚木は少し頬を緩ませ、脳裏に浮かんだ言葉を声に出していた。
「我は精霊王、火焔の神よ、我の問いかけに応え現出せよ━━、
僕の言葉に呼応する様に、目の前の地面からは六本の炎の柱が吹き出し、その中心には精霊らしき姿が現れる。
その姿を見て驚き、僕に笑顔を向け走って来る。
「貴方が主様? 私は炎の精霊エンリヒート、よろしくな主様!!」
僕をじっと見つめる彼女、名前はエンリヒート。
赤色の髪を肩まで伸ばし、毛先を内側にクルッとカールさせた明るい髪型。
そして明るい声に明るい表情、おそらく元気な女性という言葉が似合うだろう。
肌が良く見える青白い上着に膝までの純白のスカート、その背格好はアグニルよりも少し大きいが、大人の女性というよりは━━、幼女と呼ぶに相応しい姿だった。
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