第5話
ここは学校の敷地から北に五分程歩いた場所で、
学校の敷地内には侵略者は姿を現さないが、この侵略者の巣窟は敷地内ではない為、誰も立ち入らない不毛地帯となっている。
侵略者の巣窟を隔てる銀色の金網を越えると、急に侵略者の群れに襲われる、なのでこの先は立ち入り禁止で僕は今まで一回もこの先には足を踏み込んだ事はない。
そして今日、初めて侵略者の巣窟へと足を踏み込むのだが、
「よぉ
「おはよう
「やっぱり騒がしかったのはお前の部屋か……部屋が近いから楽しそうな声聞こえてきたぞ?」
「はは、ごめん」
猫背姿の僕を見て、恵斗は少し苦笑い気味な表情を向けている。
アグニルが布団の中に入って、何度も一緒に寝ようとしたため、あまり眠れなかった。
眠そうな目を擦る僕とは違い、ずっとちょっかいをかけてきたアグニルはピンピンしている、そんなアグニルに「なんで元気なのさ」と聞くと「精霊ですから」と笑顔で答えた。
「……お待たせしました!!」
「やぁ
「…………おはようございます」
「えっ?」
雅と三兄弟の小人も到着した、僕の挨拶に小人達は丁寧にお辞儀を返す。
小人達の大人しさが少し不気味だ、それに妙に雅になついているように見える。
雅の足下をチョロチョロと走り回ってた昨日の小人達とは別人だ。
「どうしたんだ小人共……妙になついてねぇか?」
「あっはい!! 昨日帰ってから
どうやら雅はまだ恵斗が少し怖いみたいだ、おどおどしながら返事をする。
「なんか……縛られるのが好きになったみたいで」
「はっ?」
「言うことを聞かないと縛ってあげないよ? って言ったら……大人しくなりました」
雅は少し恥ずかしそうに頬を赤くしながら答える。
急にそういう性癖に目覚める人はいると聞く、だが精霊が目覚めるとは。
純粋無垢な雅に縛られ罵られたら、確かに目覚めるかもしれない、それほどの魅力はある。
「おうガキ共、揃ってるな」
後ろからやる気の無い声が唐突に聞こえた。
三人は振り返ると、そこにはいつもの黒のスーツではなく、胸元には
、黒色のズボンを着た
今の姿だけを見れば優秀そうで美人な精霊召喚士に見えるのだが。
態度や口調が全てを台無しにしていて━━、なんだか残念だ。
「それじゃあ早速侵略者の巣窟に入るが……私はあくまで保護者の様なものだ、侵略者との戦闘はお前ら三人でやれよ?」
「あっはい、わかりました」
そうなるだろうとは思っていたのでそこまで悲観する事は無いが、初めての戦闘に三人の表情も少し暗い。
そんな中、侵略者の巣窟へと足を踏み込んだ。
中に入ると一気に周りの音は静かに、聞こえてくるのは周りの木々が風に揺れカサカサという音だけ、本当にここに侵略者がいるのかと思ってしまうほで静かだ。
「━━早速来たぞ」
「えっ? でも何処に?」
仲神には侵略者の気配を感じるみたいだ、だが 三人にはそんな周りを見渡す精霊術(スピリアート)である、
「白銀の狼よ、我の矛に、我の盾に、全ては我の望むままに━━、出でよ、
姿の見えない侵略者を探していると、 恵斗は慌てて精霊召喚を詠唱する。
恵斗の体からは白銀の塵が舞い、詠唱が終わると巨大な狼の精霊、
「今奴らは距離を置いてこちらの様子を伺ってる、数は━━、五、六といった所だな。このまま放置してたら数を増やされて囲まれるぞ?」
「そんな事を言われても━━」
柚木には全く姿が見えない。
木々に囲まれてる事もあって空から照らされ る筈の太陽の光は一切無い、真っ暗ではないが人の輪郭は解るほどの薄暗さだ。
「主様、見つけました!!」
「本当に!?」
僕には何も見えないがアグニルは空間把握術を使ったのか、即座に見つけた。
アグニルの走っていく方向に後ろからついていく、そこには二体の侵略者。
体格は人間と瓜二つだが、頭からは二本の湾曲した角、そして長い爪、まるで鬼の様な姿。
一番気味悪いのは全身紫色のその肌だろう。
「アグニル……僕はどうしたら? 初めての戦闘で━━」
「安心してください、私が一瞬にして消し飛ばしますから!!」
心配している僕とは対極的に意気揚々と走り出すアグニル、
「来い、雷の剣よ!!」
走りながら詠唱するアグニル、呼び声に反応する様に右手からは電力が流れ、雷の剣が生成され姿を現す。
アグニルの体よりも大きな雷の剣を、二体の侵略者目掛け振り下ろす、侵略者の体に食い込むと、体が斬れる音はせず体全身に雷が落ちた様な轟音が鳴り響く。
これが初代精霊召喚士が精霊へと変わった実力、初戦闘の僕から見ても侵略者との実力は天と地の差がある事は一瞬にしてわかった。
「お前の精霊……何者だ?」
「えっ!!」
全く隣にいる気配を感じさせなかった仲神に僕は動揺を抑えられない。じっとアグニルの戦闘を見つめている。
ここに来る前にアグニルに言われた━━。
「私が初代精霊召喚士だった事は秘密にした方がいいです」
「えっ、それはなんで?」
「世界の秩序を壊し、主様の身に危険が及ぶ可能性があります」
理由はわからないがその時、アグニルは一切の笑顔を封じ、真剣な表情をしていた。
なんとなくだがその時僕は直感した、この事は隠そうと━━。
だが柚木をじっと見ている仲神の眼差しと圧力を相手に嘘を付ける程、僕は賢くも強い性格ではないと自覚している。
「……まあいい。今は……な」
仲神は背中を向け、他の二人の場所へと向かった。
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