11.変わるものと変わらないもの
役場での手続きはつつがなく終了し、お次は徒歩十分ほどのところにある世界総合庁マーブル支部へ。
そこで必要書類を提出して、やっとアインスのマドケン実技試験が開始となるのだ。
通された個室式の窓口で待っていると、現れた職員は顔見知りも顔見知り、中等部高等部からの大親友だった。
「あら、エイルじゃない。久々」
「おう、チズカじゃん。良かった、まだ働いてたんだ」
「まだとは何よ、失礼な……って、ええ? アインスくんじゃない!」
久々に会う同級生は、あたしよりアインスの姿に目を奪われ感激していた。ふん、女の友情なんてこんなもんさ。
「うわあ、昔から可愛かったけど更に美形に磨きがかかったねえ。あたしのことなんて、もう忘れたかな?」
「エイルの友達のチズカさん。お久しぶりです」
「やぁだぁ、覚えててくれたの!? かっわいい〜、うっれしい〜!」
絶対覚えてなかったよな?
あたしが仲良さげに名前呼んだから、そのまま言っただけだよな?
しかし飛び跳ねんばかりに喜ぶ友を落ち込ませたくなかったので、あたしは猫被った猿を退治したいのをぐっと堪えて尋ねた。
「この書類、お願いしたいんだけどさ、どのくらいかかりそう?」
するとチズカはたちまち仕事の顔に戻って、タレ気味のヘーゼルの目を素早く書面に走らせた。かと思えば。
「ええええ!? マドケン一級!? アインスくんが!? マジで!?」
個室とはいえ、デカい声で個人情報を叫ぶという失態をおかしたチズカは、慌てて自分の手で口を塞いだ。
体操部部長から家事と育児と仕事をこなすスーパーウーマンに成長した今も、ドジっ娘属性は相変わらずのようだ。
「……あんたん家、何か英才教育とかやってんの? 世界公認技能保持者、二人も排出するなんて」
「鬼ババに死ぬほど厳しくしつけられたからかもね。てかまだ今んとこ、あたし一人だけだろうが。そんなことよりさ、時間かかるかだけ教えてよ。長くなりそうなら、その間に他の用事済ませたいんだ」
今日は何はなくとも、ベッドを購入させなくてはならんのだ。それに合鍵作らなきゃだし、生活用品も買い足さなきゃだし、腹も減ったし、余裕あったら先週買い損ねた週刊ストロングファイターズ探したいし。
「世界公認技能の手続きは優先項目だから、そんなに時間かからないよ。書類に不備がなければ、十五分くらいで終わると思う」
そう言っている間にも、チズカは渡した数々の紙を光るガラス板に乗せて細長いアイロンみたいなものでさっと撫で――スキャニングというらしい――、ちゃちゃっと手元の文字盤――確かキーボードとかいうもの――を叩いて作業してくれた。
いやはや、ありがたやありがたや。結婚してから会うことも少なくなったとはいえ、やはりチズカは頼れる友だ。
「……無事、審査は通りました。アインス・エスト・レガリア、本日より第一級世界公認魔道士資格検定、第三次実技試験を開始することを認定いたします!」
それからきっちり十五分後、チズカは高らかに宣言を下した。
あたしとアインスは顔を見合わせて笑顔になり、ついでに手を取り合って飛び跳ね、更には抱き合って歓喜に湧いた。
「やったな、アインス!」
「やったよ、エイル!」
「お前はやっぱりすごい子だ! お前ならきっと大きな夢を叶えるって、ずっと信じてたよ!」
「エイルがいたからだよ! エイルっていうすんげえ目標があったから、ここまで来れたんだよ!」
と、熱く激しく盛り上がっていたところ。
「…………あのさあ、喜ぶのはまだ早いんじゃない? 試験開始しただけなんだけど」
チズカの冷静な声に、あたしは我に返った。
あ、そっか。これからが本番なんだっけ。
「にしても、あんた達って、ホント昔から変わんないよね。普段は仲悪いくせに、こういう時は仲良く抱き合っちゃうんだから。ケンカするほど仲が良いの典型だよね」
言われてようやく気付いたあたしは、アインスを突き飛ばした。汚らわしい。
…………って、何か同じようなことが最近あった気がするんだけど?
「でっ! 舌噛んだろ、ブス! そんなだから貰い手ねえんだよ、チビッコ筋肉マン!」
アインスが口汚く喚く。
こんのガキャぁ、数少ない友の前で姉の威厳をぶち壊しよって!
「そのあだ名ムカつくんだよ、ミニモンキー! 檻に詰めてマギアに強制送還手続してやろうか、ああ!?」
「じゃあブスッコ筋肉マンに改名してやるよ! どうだ満足か? ブスッコ筋肉マン!」
「死ね、バカ!」
「お前が死ね!」
「…………アインス・エスト・レガリアさん、そして身元保証人のエイル・クライゼさん。仲良し姉弟喧嘩のご披露は結構ですから、今後の注意事項と概要説明などを聞いて下さいませんか?」
仕事モードの態度に戻ったチズカに冷ややかな笑顔で諌められ、あたしとアインスは慌てて彼女の前にある椅子に座り直した。
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