原文

遂於二十七日夜、發敢勇・官兵一千三百、附帶竹籠、潛出南隅。自羊馬牆所開門過浮橋、銜枚而進、直至虜營中。虜騎接戰、遂擲下竹籠、馬為籠所絆、不能馳驟、多有墜馬者、賊眾退走。官兵乘勢趕殺、死傷甚多。又將造下鵝車・洞子、草牛・竹梢・柴薪之屬悉皆燒毀。及奪到遮箭牌・木牌一百餘面、弓弩器械等。


自受圍路梗、惟西向水路、可用小舟迂回傳送蠟彈文字、虜知之、遂於灘淺處創立小鹿角。



遂に二十七日夜に於ひて、敢勇・官兵一千三百を發し、竹籠を附帶し、潛かに南隅よりださしむ。やうしやうの開く所の門自り浮橋を過り、がんばいして進み、ただちに虜營中に至る。虜騎、接戰すれば、遂に竹籠をてきし、馬、籠の絆する所と為り、く馳驟せず(*1)、多く墜馬する者有り、ぞくしう退走す。官兵、勢ひに乘じてかんさつし、死傷することはなはだ多し。又、造下の鵝車・洞子、草牛・竹梢・柴薪の屬をもつことごとく皆、せうす。及びしやせんはい・木牌一百餘面、弓弩・器械等を奪到す。


圍を受けてみちふさがりて自り、ただ、西向の水路のみ小舟を用ゐて迂回し、らふだんの文字をでんそうすべし(*2)。虜、之を知り、遂に灘の淺處に於ひてせう鹿ろくかくを創立す。




二十八日、遣水手奪除虜灘上鹿角、仍遣魯選臬領敢勇軍至灘岸、及潛伏頹牆之下。果有數十虜騎至牆側、伏兵突出、殺其先鋒者一人、並奪馬二匹。虜奔走。又奪軍器而歸。


虜人見援兵不至、有李元帥者、自德安府提兵數萬前來、與眾都統並謀攻城、遂於東南隅七軍大教場內創起土山。兵法謂之距堙、自遠而近、自低而高、欲與城齊。每日用牛皮洞子兩行並列於上、人於洞中往來轉運土木、前面用牛屋並皮簾六座、狀如船帆、遮護工役之人、矢石俱不能入。兩旁用牌手、後列馬軍擁護。遇晚、即將皮洞・皮簾等推往下寨遠處安頓。


公為見虜人奸謀百出、日為提備之計、複於濠內再搭浮橋二座、預備出兵。



二十八日、水手をつかはし、虜の灘上の鹿角を奪除せしめ、りてせんげつを遣はし、敢勇軍を領して灘岸に至り、及びたいしやうの下に潛伏せしむ(*3)。果たして、數十虜騎、牆側に至る有り、伏兵突出し、其の先鋒者一人を殺し、並びに馬二匹を奪ふ。虜、奔走す。又、軍器を奪ひて歸る。


虜人、援兵至らざるを見て、げんすいなる者、德安府自り兵數萬を提して前來する有り、眾都統と並びに攻城を謀り、遂に東南隅の七軍大教場內に於ひて土山を創起す。兵法、之をきよいんと謂ひ、遠自り近づき、低自り高くして、城とひとししからんと欲す。每日、牛皮を用ゐて洞子兩行して上に並列し、人、洞中に於ひて往來して土木をてんうんし、前面、牛屋並びに皮簾六座を用ゐるに、狀、船帆の如く、工役の人を遮護し、矢石、ともく入らず。兩旁、牌手を用ゐ、後、馬軍をつらねて擁護す。晚に遇ひては、すなはち皮洞・皮簾等を將て推往し、さいの遠處に下がりて安頓す。


公、為に虜人の奸謀百出するを見て、日々、提備の計を為し、複、濠內に於ひて再び浮橋二座を搭し、あらかじめ出兵に備ふ。




至三十日、土山約長百步。恐漸次近城、遂於當夜發官軍三千四百餘人、出濠外毀壞土山、內一千餘人專用鍬■、二千三百餘人係弓弩手及敢勇軍茶商・叉鐮・刀斧手防護斯毀土山官兵、又於城上擺列三層弩手、以為捍敵。


自二更以來、虜騎不知厚薄、果來衝突、被官兵奮擊。群弩並發、虜騎不得前進。所有鍬鑊手並力毀斯、土山約三丈闊五丈悉皆除毀。


是夜、官兵與番軍交戰凡數十次。番軍人馬死傷不知其數。奪到器甲・弓弩・木牌等。



三十日に至り、土山、ほぼ長さ百步なり。ぜんに城に近づくを恐れ、遂に當夜に於ひて官軍三千四百餘人を發し、濠外に出でて土山をかいせしむるに、內、一千餘人、もつぱら鍬■(かねへんに厥)を用ゐ、二千三百餘人、弓弩手及び敢勇軍の茶商・叉鐮・刀斧手に係り、土山をするの官兵を防護し、又、城上に於ひて三層の弩手をはいれつし、以てかんてきを為す。


二更自り以來、虜騎の厚薄を知らざるもの、果たして來りて衝突するも、官兵に奮擊せらる。群弩、並びに發し、虜騎、前進するを得ず。有る所のしうかく手、並力して毀斯し、土山、約三丈、闊五丈、ことごとく皆、除毀す。


是の夜、官兵と番軍と交戰することおよそ數十次なり。番軍の人馬、死傷すること其の數を知らず。器甲・弓弩・木牌等を奪到す。




――――――――――



(*1)

能く馳驟せず


 思い付いたときに書いておく。「能(よく~す)」「不能(よく~せず)」は「~できる/できない」という「可能」を表す言い回しだが、最初のころは「不能」を能く理解せず。副詞が苦手だったようで、理解する能わず、と読めば意味を取れた。


 同じように、九州から関西に移り住んだときに理解しづらかった言い回しが「よう~せん」だった。言われたときにパッと「~できない」であると、よう変換せんかってん。同じ日本語でも地域によって文法の発想が違うんだなと実感した。



(*2)

蠟彈


 蠟を使って円形にした外殻の中に文書を入れたもの。蠟丸とも呼ぶ。蠟で固めるのは、情報漏洩と浸水を防ぐための工夫。



(*3)

頹牆


 こわれたかべ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る