第3話 落ち込むむつみお兄さん
「――地雷、踏んでしもたんやろか」
晴太が頭を抱えた。
その隣で、むつみがベッドに身を投げるようにして横たえた。
「オレ、紅ちゃんの気ィ障るようなこと、言うてしもたかな。あやの悪口になってた? あの二人めっちゃ仲良しやってんか」
「分からない」
むつみがうめくように答える。
「もしそうだったら僕の方が重罪の気もする。言いたい放題だったかもしれない、あまり亡くなった人を悪く言うのは良くないと思って気をつけたつもりだったけど――そうだね、紅ちゃんとあやさんは特別仲が良かったから……」
「なんやお前えらい落ち込んだな。大きいおともだちは幼女に嫌われとうないんか」
「そう言えば、あやさんがわざわざ紅ちゃん宛に形見として渡したものについて、紅ちゃんに許可を取らないで勝手にハレに話してしまった」
「うっわ、そんな大事なもん軽々しくオレに話してしもたん?」
「やめてくれ凹むから……」
「まあ……、内容が内容やったし、しゃあないんちゃうかなぁ」
小声で「ここだけの話」と晴太が囁く。
「あやが悪いんちゃう? そんな危険なものなんで紅ちゃんに渡すんや、紅ちゃんが狙われるやん。あやこそなんで紅ちゃん以外信用せんかったんけ?」
「僕もそう思ったから、あやさんにイラっときたんだけど――伝わっちゃったかな」
「女の子は難しい」と言う二人の声が重なった。
「――オレとしては、褒め言葉やってんけど」
晴太が呟くように言う。むつみがベッドに顔を伏せたまま「何が?」と問い掛ける。
「紅ちゃんの育ちが良くて、まっとうに生活してる、ってのん、オレはええことやと思てんけど。みんなそう思てるから――紅ちゃんにはひねたとこないから信用できるんやと思てると思っててんけど、何や
「お前ゴールデンウィークも都内におったし夏休みも群馬帰らんつもりやろ」と、晴太が囁いた。むつみは何も答えなかった。晴太は「言いたないなら言わんでいい」と苦笑した。
「何も知らないくせに、って、言ってた」
「言っとったな」
「僕らは本当に何にも知らないのかもしれないよ。紅ちゃんがどこかで嘘をついていたのかも。つまり、紅ちゃんも、もしかしたら、家族がいないのかもしれないし、友達がいないのかもしれないし、学校に行っていないのかもしれないし――どれかかもしれないし、どれもかもしれない。紅ちゃんは本当は、そういうのを気に病んでいたから、あやさんに惹かれたのでは」
「……おもろない話になってきやったな」
「やめようか、この話題」
むつみが上半身を起こした。
「ところでハレ、ニンポーの乱、というのは覚えている?」
晴太が「日本史け?」と答える。
「勘合貿易の話やな。明やったか、宋やったか――名前は覚えてんねんけどな、内容が思い出せへん」
「まあ、明なんだけど。というか、理系なのに日本史をやったのか」
「オレ実は戦国時代めっちゃ好きやねん、ロキがカトー名乗りよったの許さんで。――確か大内氏の話や。とりまそこで勘合貿易終わってんやんか」
「ごめん、内容はどうでもよかった。ニンポーの乱のニンポーって、中国の地名だったよね。どういう漢字を書くかは覚えている?」
「丁寧の寧にさんずいの波」
「そうだよね。丁寧の寧は、中国語のピンインだと、"ning"になるんだ」
「ふむ」と晴太が頷いた。
「で、中華の華も、草冠に化けると書く単純な方の花も、ピンインだと、"hua"になる」
むつみの言わんとしているところを、晴太は察したようだ。
「『
「ところで、僕はシズカさんの訛りが気になって気になって仕方がないんだけど、どこの訛りだと思う?」
二人の目が合った。
「オレもあれ聞いたことある。向こうで、同じ英語学校のクラスにおった奴が、日本語喋れるー言うて、あんな喋り方しとった」
「やはりか。僕も留学生がああいう話し方をしているのを聞いていたから引っ掛かったんだな」
「まずいことになったね」と、むつみが眉根を寄せる。
「シズカさんがニンファで、ニンファが、冴さんの言っていた、リセのお得意様である中国マフィアだったら――ハレ的には、どう?」
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