幕間d

「『民兵北上か スタブロシュ拠点に物資補給』……南の方角だな」


 主人不在の屋敷に届けられた隔週新聞の大見出しを見ると、どうやら南東の沿岸都市で民兵が補給のため立ち寄っているらしい。CXXⅡシークシーという民兵、彼らの目的は不明、数十人で目下北上中、周辺都市や町村の住民は注意をするよう記事で呼びかけている。


 ここにもやって来ることは間違いない。森の中でも一際目立つこの屋敷は彼らもまた発見してしばしのねぐらとするだろう。その時は多勢に無勢、切り抜けられる自信は無い。


 しばらくは地形の複雑な場所に身を潜めているのが賢明だ。近場だとおそらくアンルーヴ。


 あそこは周囲が崖で囲まれ、橋はせいぜい貿易するキャラバンの馬車が往来できる程度のもの。かといって絶望的なまでに閉鎖的な町でもなかったはずだ。崖のおかげで守備は強固、孤立することも考えなくていいだろう。なにより目的地でもある。


 この辺りの地理はよく覚えているし、歩いてひと月もかからない。


「……」


 新聞を元の位置に戻して、僕は食糧庫に向けて踵を返した。

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