幕間c
森の中で見つけたひっそりとした洋館、主人がいれば許可を取って一晩泊めてもらおうかと思ったが、ノッカーを叩いても呼び掛けても人が出て来ることはおろか、気配さえ感じない。鍵は開いていた。
廃墟かと思ったがそうでもないようだ。蝋燭に火が。しかし短くなっている。消えているものも。
僕は主人を探した。この辺りには他に宿屋も村も無いし、折角立派な屋根付きの建物があるのにそこで眠れないのは惜しい。なんとしても許可を取って、あわよくばシャワーとベッドと、温かいスープもいただきたいところだ。
彫像が並んだ廊下を道なりに進むと扉の開いている部屋を見つけた。静かに覗き込んでみると、火が消えていない暖炉の部屋。アンティークチェアに腰掛けガウンを纏い、うたた寝するように首を傾げている白髪の後ろ姿が見えた。
部屋に半身を乗り出し、扉を叩いて起こしてみるが、返事は無い。部屋に入って直接起こすしかないな。
「不躾で申し訳ありません。返事が無いので勝手に上がらせてもらいました。もし良ければ、今晩だけ宿泊を許可……」
肩に手を起きながら呼び掛けた。しかし違和感。
傾げた首がこちらを向くと、息づかいの感じられない半開きの乾いた唇に、薄目から見える濁った瞳。
「老衰か、持病か……」
どうやら許可を取らなくても良いようだ。一晩と言わずしばらくここに拠点を構えよう。食糧備蓄も財産も豊富そうだ。腐る前に有効利用しなければ。
ふと前のテーブルに目を向けると、飲みかけの酒。酒壜のラベルはブッカーズ。傍らの空のグラスに注ぎ入れて飲んだ。なるほど、この時代でかなりの大富豪らしい。ここまで生きて酒を飲んで自室で穏やかに大往生とは、憎たらしいほど幸運なやつ。
「これは……」
テーブルの向かい側にはもう一杯グラスが置いてあり、その横には一枚の紙が置いてあった。拾い上げて見てみると契約書のようだった。依頼者は恐らくこの老人。しかし、契約者は。
「フォルジェロ」
だとするとここで交わされた会話は想像しやすい。しかし、標的は誰だ。
「……」
深く考えたところで何かが進展する訳でもない。僕は屋敷内を
明日は死体の解体から始めるか……。
見つけた客室の寝床に入って目を瞑ると、長旅か野宿続きで疲れていたのか、すぐに意識は暗闇に落ちていった。
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