第6話


「……」


 何故わたしが追い出されなければならないのか……。


 仕方がないので、わたしはとりあえず1階に下りて、コーラを買うことにした。もう何がどうなっているのか、わたしの脳は思考が停止しそうだ。


 わたしの精神状態が危なくなりそうで、脳が考えることをやめろと言ってるような気がした。


 だけど、やめるわけにはいかないのだ。あの6人は、わたし自身なのだから、見殺しになんかできるはずがない。そんなことをすれば、いま現在のわたしも死んでしまうのではないか。


 いや、過去のわたしは生きていたのだから、ここで何が起ころうと、死んだりすることはないのではないか?


「……」


 考えれば考えるほどわからなくなる。とにかくしっかりしなければ。


 自販機で、缶コーラを4本買おうと思っていたが、思い直して500mlのペットボトルを2本買うことにした。お金は500円玉を1枚ジーンズのポケットに入れてきた。


 500円玉を右のポケットから取り出し、キーが邪魔になるので、キーを右のポケットに入れた。


 ペットボトル2本を持って帰るのは、冷たくてたまらなかった。5月の夏日とはいえ、手に持っていても抱えるようにしても冷たい。


 エントランスへと急ぎ、キーを差し込むために2本のペットボトルを左腕に抱え、ポケットからキーを取り出した。その際、キーだけではなく、お釣りの小銭も一緒にポケットからこぼれ落ちた。


 ジャラジャラジャラジャラ

 コロコロコロコロ……


 ああ、わたしはいつもこうなのだ。ほんとにどんくさくて頭が悪い。小銭とキーを一緒に入れていたら、こうなると何故先に気がつかないのだろう。


 バラバラに散っていった小銭を拾い集め、やっとこさ自動ドアを開け、小走りでエレベーターのところまで行き、素早くボタンを押す。


 幸い、わたしが1階に下りてからその後は、誰も使っていないようでエレベーターは1階に止まっていた。中へ入り5のボタンを押すと、キーはポケットに入れずに手に持ち、ペットボトルの蓋のところを持ち、両手に1本ずつ、ぶら下げるような形で部屋の前まで歩いた。


 再び、キーを鍵穴に差し込むために、ペットボトル2本を左腕に抱えた。


(どうか6人が消えてますように)


 そう祈りながらドアを開けた。


 部屋の中からテレビの音が聞こえてきた。きっとサリーがつけたのだ。ということは、まだ6人はいるということなのだ。


 リビングへ行くと、やはり6人はいた。



「おかえりなさい」


 そう言ったのは美佐子だ。さっき食べたソーメンの器を、キッチンのシンクで洗い物をしてくれていた。


 わたしのくせに、えらく気が利く。そういう人格なのだろうか、美佐子は。また6人が過去のわたしなのか、別人格なのかわからなくなってくる。


 成美も一応、テキパキと洗い終わった器をフキンで拭いたりしている。成美だった頃のわたしは、飲食店で働いていたので、そういうことには慣れているのだ。


 こうして見ていると、過去の6人より、わたしが一番ナマケモノかもしれない。


「美佐子さん、成美さん、ありがとう。洗い物してくれて助かるわ」


 そう言ってわたしは、対面式キッチンのテーブルになっているところに、コーラを2本、ポンと置いた。


「わたしたちが食べたんだから、当たり前のことをしてるだけよ」


 と美佐子が返す。


 わたしは、手を洗うために洗面所へ行った。外へ出ると必ずまた、石鹸で手を洗わないと気持ちが悪いからだ。


「なんだ?このコーラの入れ物。缶でもないし、ビンでもないんだな。プラスチックか?栓抜きはいらないようにできてるんだな。ふ〜ん」


 わたしが洗面所から戻ると、サリーがそんなことを言いながら、ペットボトルの蓋を開けた。


 ポンッ プシュー ジュワワワワー


 桃子と眞帆も、テレビの方に向けていた体を、サリーが開けているコーラの方へと向きを変え、鼻で見るような、鼻の下を伸ばしてるような顔をして見ていた。


「おおっと。優子ママ、コーラを振りながら歩いてきたのか?性格悪いな。あ〜あ床にこぼれてしまったよ」


「あぁ、待って待って」


 わたしは急いで雑巾を取りに行き、床を拭いた。あぁ、また手を洗わなくてはいけなくなった。


 手を洗い戻ると、子供たちはそれぞれコップに入ったコーラを飲んでいた。



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