第5話
サリーは、遠慮知らずのワガママな子だ。アリサや桃子のことは、子供の頃のわたしとして、はっきりと覚えているが、基本的にわたしは人見知りなので、ワガママなどを言ったりしない。
別人格を、わたし自身は認識していないので、サリーがわたしの中の別人格ということなら、厄介な性格の別人格で、人格交代したときに、サリーが出てきたときのわたしは、結構周りに迷惑をかけているのではないかと想像できた。
「コーラは買ってないんだけど。炭酸飲料飲まなくなったから。子供たちはみんな飲むよね。サリーちゃん、マンション出たすぐ前の道路に、自販機あるから買ってきてくれる?」
「俺が行くのか?まぁいいけど。えっとこの部屋何号室?階段どこ?」
何号室かもわからずに、どうやって入ってきたのだろう。そういえば、ワープしたとかなんとか言っていた。
「506号室よ。階段は大変だからエレベーターで行った方がいいわよ」
「エレベーター?そんなのついてんのか、この団地。すごいな。そういや、ここは何時代だ?優子は何才なんだ?昭和は終わってるってことだよなぁ?」
ああ。過去のわたしに、今のことを話すのは大変だ。いったいどれだけのことを、いちいち説明しなければいけないのか。気が遠くなる。
「団地じゃなくてマンションよ。15階建ての……」
「あっ、カレンダーあるじゃん。えええーーー⁈何この、へいせい?へいなり?28年?昭和はいつ終わったんだ?2016年?うっわー!すごい未来じゃん。じゃあじゃあ、車が空飛んだりするのか?宇宙人は発見できた?じゃあテレビから欲しいもの出てきたりする世界?」
駄目だ。興奮し過ぎてる。高校生のときのわたしから見ると、すごく発展しているように見えるのだろう。だけど、あの頃だって、東京へ行けば高層ビルはすでにあったのだから、それに比べると、まだまだここは発展していないと思うのだけど。
「落ち着いてサリーちゃん。じゃあわたしも一緒にコーラ買いに行くから。行こう」
そうして、わたしとサリーは、玄関で靴を履き(サリーたちの靴はないのでわたしのスリッポンを履かせ)玄関のドアを開けて通路に出た。
ああ、靴も人数分買わないといけないのかと思いながら、玄関から出ようとするサリーの方を見た、その瞬間、スッとサリーが消えてしまった。
「えっ⁈」
わたしが驚いていると、サリーは玄関の中で再び姿を現した。
「俺、というか俺たち、この部屋だけで存在しているみたいだな。この部屋からは一歩も出られないってわけだ」
そういうことなのか。考えてみれば、過去のわたしが何人も外でウロウロしているのも怪しい。ありえない。他の人には、あの6人は見えないということなのだろう。
この部屋に6人も過去のわたしがいること自体、ありえないことなのだけど。宇宙人が現れることより、ショッキングな出来事だ。わたしにとっては。
「んじゃ。優子ママ、コーラよろしくね」
と言って、サリーは、わたしを通路に残し、玄関のドアをバタンと閉めた。
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