第4話
わたしと美佐子と成美で手分けして、ソーメンを茹でたり、ザルに上げ水洗いしたり、ピザを焼いたり、器やお箸の用意をした。
4人掛けのダイニングテーブルには、全部置き切れないのと、7人いるので全員座れないので、ソファーテーブルの方にも並べた。
「子供たち3人は、ソファーの方の地べたに座って食べろ。俺たちはこっちで食べるから。優子お母さんは、子供たちの世話しなくちゃいけないから、ソファーの方ね」
サリーは、何にもしないくせに、指示だけはテキパキとする。ムカつくけど、そうするしかないみたいなので従うことにした。
アリサと桃子は固まって、箸を持とうともしない。眞帆は、箸を持ったものの、食べていいのかわからず、キョロキョロと周りを伺っている。見ているとイライラしてくる。さっさと食べろ、と思わず口に出しそうになる。だけど、昔のわたしは、まったくこの通りだったのだ。
「アリサちゃん、桃子ちゃん、眞帆ちゃん、たくさん食べてね。ピザもあるからね」
と言ってわたしは、ピザを3人が取りやすい方に少しずらした。
アリサ、桃子、真帆の3人は、また固まったように、ピザの方を目を点にして見ている。顔を見ると半泣きのような表情だ。いったいどうしたのだろう。ピザが嫌いなんだろうか。と思っていると、ダイニングテーブルの方から笑い声がした。
「あははは。優子、子供の頃、ピザとかなかったろ?3人共見たこともない食べ物があるから、驚いてるんだよ。俺だって、はじめて食べたのは、つい最近なんだぜ。美味いけど、なかなか食わしてもらえねぇよ」
「あっ!」
思わず声が出てしまった。過去からきた自分は、現在のことを知らないのだ。当たり前のことだが、過去のことをいちいち思い出しながら、6人と向き合っていかなくてはならないと思うと憂鬱になった。
「そうそう、サリーちゃんだって、今はピザ屋さんというのがちゃんとあって、電話をすれば家まで配達してくれるっていうの知らないんじゃない?」
そう言ったのは美佐子だ。
「そうなのかぁ?便利な時代になったもんだな。寿司なら親父が頼んでくれてたけど。それならピザ頼んでくれたら良かったのに。明日頼んでよ、優子ママ」
わたしも一瞬、ピザを注文しようかと迷ったが、わたしは電話をかけるのも緊張するのだ。だから注文したことはない。別人格の誰かが、注文したことはあるみたいだが、優子本人が注文することはありえないのだ。
それに、7人もいると、Lサイズのピザを3枚は注文しなければならなくなる。1枚3千円以上もするピザ3枚も注文すれば、1万を超える。一度の食事に1万円もかけられるはずがない。
それと、一番の理由は、この6人が本当に存在するのかどうかわからないということと、過去からきた自分が現在のここで、食べる、ということが可能なのか、という疑問があったからだ。
わたしの幻覚、白昼夢、そんなものだとすると、6人は食べることはないだろう。確実に。
アリサは1本1本、ソーメンをとってつゆにつけて食べている。桃子は3本づつ。眞帆は、ズルズルとソーメンをすすりながら、興味深めにピザの方を見ていた。
だんだん思い出してきた。わたしは子供の頃、チーズが食べられなかったのだ。つまり嫌いだったのだ。
だけど、中学生のときに給食で(うちの中学は給食だった)スライスチーズが出たので、食べてみたら意外に美味しくて、食べれるようになった。
あの三角の形のチーズは、未だに苦手だ。なんだか石鹸を食べているようで気持ちが悪くなる。
「眞帆ちゃん、ピザ食べてみる?」
わたしは、ピザを一切れ手に取り、眞帆に差し出した。
「うん」
真帆は少し嬉しそうな顔をして、ピザを取り食べはじめた。アリサと桃子には、今日買ってきた菓子パンを半分ずつにして渡した。
「優子ママ、コーラないの?お茶よりコーラが飲みたいな〜」
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